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4-2



 三笠にコンタクトを取るにはどうすればいいか訊ねたところ、家に行けばいいと双子はあっけからんと答えた。


「お泊り会とかしたんですよぉ」


「ミカミカちょー嫌がっててウケましたー」


「ウケちゃったか……」


 先導する如月姉妹に、時雨を背負って追いかける武蔵。

 やがて到着したのは、割と普通の一軒家だった。


「ここがあの女のハウスね。……いやほんと普通の家だな」


「そりゃあ、別に三笠っちの出生は普通の家ですしぃ。飛び級して事故死してアンドロイドになっちゃったみたいですけどぉ、根底は庶民的な子ですよー?」


 庶民的な子という割には選民意識が強すぎる印象だが、素の知能が高いせいで拗らせたとも考えられる。

 頭の良い人間は、時に思想が迷走するのだ。


「学校にも手作りお弁当とか作ってきてましたしぃ」


「解釈不一致過ぎる……」


「キャラ弁とか作ってましたよぉ。ご飯の上にピンクの甘くてヤバイ粉まぶしたりしててぇ」


「さくらでんぶな。つかブリティッシュ感ねえな。この移動の10分程度で三笠のイメージ激変したぞ」


 貧相な想像力だと笑われそうだが、三笠は使用人の沢山いる大きな屋敷に住むイメージがあったのだ。

 何せ彼女の本名はエリザベス。こんなの高貴な女性以外に許されない名前だ。

 と、武蔵の偏見が唸る。


「ふん、貴様に我の何が判る。多少聞き齧った程度で、理解者面など片腹痛い」


 勘がいいのか、警報装置が反応でもしたのか。

 一軒家の家主は気怠げに半眼で、その姿を夜風の前に現した。

 平たい身体に似合っていない、扇情的なネグリジェ。

 その上に薄いガウンを羽織った姿は、なかなかに堂に入っている。


「衆愚共、深夜に何を家の前で騒いでいる。……おい、隊長(リード)はどうした」


 当初こそ冷徹な瞳を向けていた三笠だが、様子のおかしい時雨に流石に表情を困惑させる。


「こんばんわ、三笠っち。見ての通り、隊長(リード)があっぱらぱーになっちゃったから診てほしくて来ましたー」


「いや病院に行け」


 まったくもって正論なのだが、そうもいかない。


「病院に行って治るかも判らないし、その時間もない。お前の知恵を借りたい」


「貴様―――大和武蔵か。どんな取り合わせだ、なぜ我に頼る」


「消去法だ。時間がない。なんとか出来そうな人間がお前しか思い浮かばなかった」


「妙な買い被りをするな。先も言ったが、病院に連れて行け。というか何故そうしない、時間がないとはどういうことだ」


 さてどこまで話したものか、と武蔵は考える。

 三笠が全てを話していないのは、彼とて理解している。

 何を隠しているのかは判らない。

 だが彼女はアリアの古い友人であり、味方だ。

 アリアが目覚めていることに気付いた前回は、事前に手を回して危険な作戦の参加を回避してすらいた。

 彼女そのものは敵ではない、と武蔵は判断する。


「UNACTが拘束を脱し、人類への攻撃を開始する」


 情報が古く曖昧だが、試合会場に現れたUNACTは、実は時系列で考えれば現時刻上で既に目撃情報が残っている。

 活動開始は夜中。今この瞬間にも、奴は動き出しているのだ。


「アナクトとは何だ」


「ふへー?」


 問い返され、困惑する武蔵だがすぐに気付く。

 UNACTは『Unidentified nautical objects』の略称だ。

 日本語に意訳すると所属不明航海物体群。この形式張った単語や海上物体という名称からして、UNACTという名詞が生まれたのは地上が被害を受け始めてから決定された国際的公式名称なのかもしれない。

 故に、武蔵は言い方を変えた。


「ケイ素生命体。宇宙人。でかい触手の生えたゴキブリとでも言えば判るか」


 そう答えれば、三笠の反応は顕著だった。

 適当な応対だった目は鋭くなり、踵を返す。


「入れ。外で話すことではない」


 ビンゴ、と武蔵は内心ほくそ笑む。

 やはり三笠は、以前潜水艦の皮を被っていた、数時間後に試合会場に現れる怪物を知っていたのだ。







「茶でも煎れよう。最低限の礼を失しては我の沽券に関わる」


「あーすまん、うちで飲んできた。時間もないしそのまま聞いてくれ」


「……よかろう」


 応接間らしき部屋にて対峙する、三笠とその他全員。

 まるで圧迫面接だが、残念ながらこれが現状の情勢である。


「ねえ三笠っち、私達の―――」


「にわにわパニック! にわにわパニックやろうぜ!」


 秋月がいきなりジョーカーを切ろうとしやがったので、武蔵は咄嗟に叫んで制止した。

 にわにわ、にわにわと腕を上下させながらその場で一回転する武蔵。

 死にたかった。

 なので、もう2、3週しておいた。


「落ち着いたか。大丈夫か」


「あ、はい」


 大丈夫か。

 なかなかに心を抉る心配のされかただった。

 しかもその声をかけてきたのは三笠である。

 どれだけ武蔵の行為が奇行だったのかが知れようというものだ。


「ど、どうしたんですかむさしん? 変な物でも食べましたぁ?」


「おばか! いきなり手の内晒す奴がいるか!」


 小声で双子と打ち合わせする武蔵。

 ―――実は、この家に来る道中で武蔵は双子にあることを聞いていた。

 これを開示すれば、三笠は一息に武蔵達の話を信用する。

 しかし同時に、隠すべき情報、不都合な内容も未来の三笠と共有してしまう。

 故に、まずは自力での聞き取りを行いたかったのだ。


「それで、お前達は何を知った」


「自衛隊版のロズウェル事件について。宇宙人と、お前の関係について」


 ほぼブラフである。

 武蔵としては自衛隊とUNACTの関わりについて確信はあっても証拠はない。あんなデカブツを拘束するのに自衛隊が介在していないはずがない、程度の推理だ。

 宇宙人と三笠の関係についてなど、完全に推測妄想の域。

 だが、三笠が眉間の皺を深くしたことが武蔵の推理があながち的外れではないことを示していた。


「なぜあんなことに手を貸した。お前は、アリアの親友なんだろう」


「何? アリアがどうかしたのか、何があった!?」


 急に声を荒げる三笠。

 内心ニヤつくのを堪え、武蔵は鋭い目で詰問する。


「知らないのか? ふん、所詮は機械仕掛けの神といえど、あの男の傀儡ということか……」


「くっ」


 視線を逸らす三笠。

 如月姉妹は日銀砲の反攻砲撃に晒され死屍累々な投資会社を見る目で武蔵を見た。


「確かに、我には奴に逆らう権限がない。だがそれで大人しく操り人形に徹するなどと思われは心外だ。言え、アリアに何があった」


「……精神を抜き取られた。今彼女の部屋で眠っているのは、脳死状態の肉体だ」


 未来に行ったり過去に戻ったりした経験上、武蔵は『魂』のようなものは実在すると仮定した。


「抜き取られた、と言ったな。デリートされたわけではない、と?」


「それは間違いない。どんなルートを使ったかは判らないが、救援要請が届いたからな」


「救援要請? バカな、オリジナルは完全に隔離され……いや、もう拘束から脱したと言っていたな。まさかアリアが? しかし、アリアにそんな権限があるとは……?」


 オリジナル。

 口八丁の成果というべきか、ついに初めての単語を引き出せた。

 とはいえ、さすがにここまで判りやすい名称となれば武蔵もすぐ推測がつく。


「そも、何故オリジナルをセルフ・アーク内部で確保していたんだ。危なっかしいことこの上ないし、実際以前にも脱走しかけた事故があっただろうに」


「知るか。我とて自分の腹の中にあんなものを入れたくはなかったのだ。まったく、アレがアリアの本体でなければ力ずくでも放り出しているところだった」


 ―――全力で聞き流せない情報が露呈した。


「えっ? アリちゃんの本体、ってどゆこと?」


「本体? えっ? えーっ? ムサシン、何か知ってたの!?」


 流石にスルー出来なかった双子が、三笠に詰め寄る。

 三笠は武蔵に視線を向けた。


「教えていないのか?」


「いや、まあ。ほら、偏見とかあったらアレだしアレでな」


 困惑するのは武蔵とて同じだが、なんとか言葉を繋ぐ。

 その様子に訝しみつつも、三笠は双子に語った。


「そもそもが、アリアという名は『空から来た孤独な者』という意味で付けられている。便宜上本体をオリジナル、美少女の方をアリアと呼んでいるが……宇宙生物の種族名であり、固有名詞なのだ」


 武蔵は殊勝な面持ちで頷いた。

 内心驚きっぱなしだが、それを押し隠しての迫真の演技である。


AIR()ARIA(独唱)のダブルミーニングか。意外と洒落ている」


「意外、と思えるほど奴のことは我も知らん。お前は奴を直接知っているのか?」


「まさか。シャイもあそこまで徹底すれば一芸だ」


 くすくすと笑う武蔵。

 武蔵はここらが限界だと悟った。

 三笠としても、黒幕について詳しく知るわけではないらしい。

 パン、と手を叩いて全員の意識を集め、武蔵は宣言した。


「ドッキリ大成功!」



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