武蔵と三笠の没会話
3-6があまりに短いので、これも投稿しておきます。
結局使わなかった武蔵と三笠のボツ会話です。
ボツなので、この会話の設定が本編で有効かは未設定です。
武蔵「SFでよく歴史の修正力ってあるよな。アレって結局、どういう理屈なんだ」
三笠「親殺しのパドラックスを知っているか。子が過去に戻り親を殺せば、子が生まれず親は死なずにすむ。そうすると子が生まれ親は殺される」
武蔵「平行世界に移行するとかじゃないのか」
三笠「これまでの人類には時間の理を観測する手段はなかったが、どうやら世界は一本道がお好みのようだ。お前が歴史を変えようとすると、それまでの人類全ての人生はパーになるというわけだな」
武蔵「修正力の話からずれているぞ」
三笠「親殺しのパドラックスを解消するにはどうするか。タイムトラベルを世界が許容するとする前提ならば、代役を立てるのがSFの定番だな」
武蔵「代役?」
三笠「誰かがいなくなっても、誰かがその役割を果たす」
武蔵「親を殺した子供は実は養子だった、とかか」
三笠「そうだ。結果、歴史に矛盾は生じない。言い換えれば歴史はあるべき姿に修正しようとする力が働く。それが一般に修正力と呼ばれる力だ」
武蔵「だがそんな力、本当に働くのか? まるで時間の流れが意思を持っている生物みたいじゃないか」
三笠「生物の定義によるな。歴史の流れとは川の流れのようなものだと考えられる」
武蔵「川? 川が意思を持っているわけでもあるまい」
三笠「生物の定義は自己増殖能力、エネルギー変換能力、恒常性維持能力、自己と外界との明確な隔離などだ。川は土地を削って自己増殖するし、水の位置エネルギーを変換して作動する。多少の異物が混入しても洗い流そうとする恒常性を持っているし、見て判る通り外界との境界も明確だ。ほら、生物に思えて来ただろう?」
武蔵「いや苦しいだろ。川に感情があるとは思えない」
三笠「お前は植物の気持ちがわかるのか? 人類は他人の心すら読み取れないのだ、川の感情など共感出来るはずあるまい」
武蔵「釈然としない」
三笠「それは明確な意思と呼べるものではないはずだ。修正の本性は恒常性の維持か。歴史に矛盾という病気が発生すれば、それを自己治癒しようと免疫が働く。体内の白血球を意図的に操作出来る人間などいまい」
武蔵「……なあ、病気と例えたが、それは歴史を変えれば時間の川という生物を殺しかねないということか? さすがに時空そのものが死ぬのは勘弁してほしんだけど」
三笠「可能性はある。だが、時間は人間ほど繊細な生き物でもあるまい。そもそも、川は時代によって形を変えるものだ」
武蔵「川の流れは人の力で操作出来るぞ。土木工事で川を作ることなんて、中世から行われている。だが歴史は変えられなかった」
三笠「スコップ一本で川の流れを変えられるか? 不可能ではないが、とても現実的ではあるまい」
武蔵「バタフライエフェクトじゃないのか? 蝶のはばたきで世界は改変されるんじゃないのか」
三笠「あれはあくまで哲学の域から脱していないレベルの仮説だ。蝶一匹で世界が変わるものか」
武蔵「スコップで無理なら、次は重機を持ち出せとでもいうのか?」
三笠「結論からいうと、そうだ。お前という蝶1匹では何も変わらない。世界を変えたければ世界を巻き込め。無視出来ないほどの改変をしてみせろ」




