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3-6



 その後、如月姉妹を救助する打ち合わせなどを済ませ、武蔵は自宅へ向かった。

 いよいよ乗り慣れてしまった木炭バスを降り、デジャブと違和感の混ざる近所を歩く。

 やがて自宅に到着し、躊躇いなくドアノッカーを叩いた。


「と見せかけて後ろにいるんだろ知ってる」


「きゃっ」


 突然振り返った武蔵に、驚いた信濃は尻もちをついてしまった。


「大丈夫か? 割と勢いよく尻をぶつけてたけど」


 地面に腰を降ろしたまま、目を丸くして武蔵を見上げる信濃。

 武蔵が手を差し伸べると、信濃はおずおずと手を取って立ち上がる。


「お兄、ちゃん?」


「うむ」


 しばし武蔵の身体をパタパタと確認した信濃は、やがて歓喜の表情となり拳銃を取り出した。

 酷くチープな、犠牲者への冒涜となりそうなほど簡素な銃。

 プレス銃は銃口から過剰なまでに火花を吹き、武蔵の身体を弾丸が貫いた。


「やっと会いに来てくれた、好き、お兄ちゃん好き、大好き」


 武蔵は倒れていた。

 血がポンプのように腹から吹き出し、玄関が赤く染まっていく。

 信濃は武蔵に跨って、何度も何度もキスをした。


「酷いよお兄ちゃん。100年もほっとくなんて、寂しかったよ。どうして一緒に居てくれなかったの? ずっと一緒にいて、死んでも一緒にいて」


 愛おしげに武蔵を抱擁する信濃に、いくら撃たれた側といえど武蔵も怒る気にはなれなかった。


「そういえば―――」


「ん? なあに、お兄ちゃん?」


「死ぬのは、初めてだな」


 信濃は幼子のように無邪気に微笑んだ。


「そっか。私が初めての相手なんだね」


「語弊……」


 過去でも刺されたが、出血量は時雨の凶刃より多い。

 刃は肉を裂くが、銃弾は肉を抉り取る。

 マスケット銃が発明されて以来、ずっと兵士達を苦しめ続けた銃創という名の呪いだ。


「お兄ちゃん。アドバイスだよ」


「ん……」


「100年前の私に、未来のことは話さないで。変に希望を持たせたら、私は保たない」


 そういえばこれを言われたのは初めてではないな、と武蔵は白濁する思考の中で考えた。

 視界が霞み、彼の世界は薄らいでいく。

 再びの銃声。

 武蔵に何かが覆いかぶさってきたことだけは、感覚から判った。


「信濃―――」


 返事はもう、ない。







『2045年7月15日』







「ただいま」


 酷い頭痛と吐き気を堪えて、武蔵はベッドから起き上がった。

 静かに部屋を出て、隣の妹の部屋を覗く。

 そこには、幸せそうに、何の不安もなさそうな表情で眠る信濃がいた。


「すまん」


 今度は信濃に何も伝えず、ことを進めねばならない。

 彼女に、否、全ての協力者達に100年の徒労を強いる戦いなのだ。

 いい加減なことはもうしない。武蔵はそう、自分に誓った。





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