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その後、如月姉妹を救助する打ち合わせなどを済ませ、武蔵は自宅へ向かった。
いよいよ乗り慣れてしまった木炭バスを降り、デジャブと違和感の混ざる近所を歩く。
やがて自宅に到着し、躊躇いなくドアノッカーを叩いた。
「と見せかけて後ろにいるんだろ知ってる」
「きゃっ」
突然振り返った武蔵に、驚いた信濃は尻もちをついてしまった。
「大丈夫か? 割と勢いよく尻をぶつけてたけど」
地面に腰を降ろしたまま、目を丸くして武蔵を見上げる信濃。
武蔵が手を差し伸べると、信濃はおずおずと手を取って立ち上がる。
「お兄、ちゃん?」
「うむ」
しばし武蔵の身体をパタパタと確認した信濃は、やがて歓喜の表情となり拳銃を取り出した。
酷くチープな、犠牲者への冒涜となりそうなほど簡素な銃。
プレス銃は銃口から過剰なまでに火花を吹き、武蔵の身体を弾丸が貫いた。
「やっと会いに来てくれた、好き、お兄ちゃん好き、大好き」
武蔵は倒れていた。
血がポンプのように腹から吹き出し、玄関が赤く染まっていく。
信濃は武蔵に跨って、何度も何度もキスをした。
「酷いよお兄ちゃん。100年もほっとくなんて、寂しかったよ。どうして一緒に居てくれなかったの? ずっと一緒にいて、死んでも一緒にいて」
愛おしげに武蔵を抱擁する信濃に、いくら撃たれた側といえど武蔵も怒る気にはなれなかった。
「そういえば―――」
「ん? なあに、お兄ちゃん?」
「死ぬのは、初めてだな」
信濃は幼子のように無邪気に微笑んだ。
「そっか。私が初めての相手なんだね」
「語弊……」
過去でも刺されたが、出血量は時雨の凶刃より多い。
刃は肉を裂くが、銃弾は肉を抉り取る。
マスケット銃が発明されて以来、ずっと兵士達を苦しめ続けた銃創という名の呪いだ。
「お兄ちゃん。アドバイスだよ」
「ん……」
「100年前の私に、未来のことは話さないで。変に希望を持たせたら、私は保たない」
そういえばこれを言われたのは初めてではないな、と武蔵は白濁する思考の中で考えた。
視界が霞み、彼の世界は薄らいでいく。
再びの銃声。
武蔵に何かが覆いかぶさってきたことだけは、感覚から判った。
「信濃―――」
返事はもう、ない。
『2045年7月15日』
「ただいま」
酷い頭痛と吐き気を堪えて、武蔵はベッドから起き上がった。
静かに部屋を出て、隣の妹の部屋を覗く。
そこには、幸せそうに、何の不安もなさそうな表情で眠る信濃がいた。
「すまん」
今度は信濃に何も伝えず、ことを進めねばならない。
彼女に、否、全ての協力者達に100年の徒労を強いる戦いなのだ。
いい加減なことはもうしない。武蔵はそう、自分に誓った。




