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3-5

今回の話、内容がとっちらかってるので纏めきれていないかもしれません。


 愛って何!?

 俺が、俺達が愛の証明だ!!


「ぬうううぅぅぅっ」


「うえええぇぇぇっ」


 ……などという、今どき中学生でもしないような青臭さスロットル全開トーク。

 ふと我に返って見れば、武蔵とアリアはその気恥ずかしさに芋虫のようにグネグネすることを禁じ得なかった。


「やだよぉ、キモいよぉ。今すぐループしてなかったことにしたいよぉ」


「あああ黒歴史なのです。なんかセンチ入ってたのです。忘れなさい忘れてハイ忘れた。いやあぁ忘れられないぃ」


 無重力の中、毛虫2匹がピンポールのように室内をぽこぽこ跳ね回る。

 とても見苦しく鬱陶しい光景がそこにはあった。


「わ、私はもう休むのです……おやすみなさい」


「お、おう……おやすみ」


 ふらふらと部屋を出ていくアリア。


「俺もちょっと話し込み過ぎたな……休むか」


 3度目ともなると、セルフ・アークまでの日程もおおよそ検討が付く。

 武蔵も休息を取るべく、電話ボックスのようなベッドに入り身体を固定させた。


「あっ」


 夢は記憶の整理作業。

 うとうとしていた武蔵は、二転三転する曖昧な意識の中でふとどうでもいいことを思い出した。


「アリアの机にラジコンが入ってるのか確認してなかった」


 主観的には直前の出来事である、秋津洲轟沈のショックが強くて忘れてしまっていた。

 未来で観測した事柄を過去で確認するというのは「ひょっとして、このループは武蔵が見ている夢ではないか?」という説を否定する為のものだ。

 時雨や如月双子が現れた時点でこの仮説は否定出来るのだが、当時の彼の錯乱ぶりが伺えるポカであった。


「まあいいや。俺には明日があるさ明日がある若い俺にはエターナルな愛がある。はいおやすみ」


 すぴー、と武蔵は子供のように眠りこけるのであった。







「私が護衛するのはここまでなのです。……時間があれば、会いに来てもいいのですよ?」


「ははっ」


「おいなんで笑った」


 アリアに連れられてセルフ・アークに上陸した武蔵は、そのまま休憩なしで黒塗りの高級車へと乗せられた。

 そして連れて行かれたのは、国会議事堂の議員応接室であった。


「では、私はこれで。何かあったら連絡するのですよ?」


「子供か俺は。……そういえば聞き忘れていた」


 アリアを呼び止め、武蔵は最後に確認する。


「お前が目覚めた時、手首にリボン巻いてあったか?」


「……いえ? なんのことなのです?」


 武蔵はアリアをじっと見て、それが嘘ではないかと探った。

 アリアは頬を赤らめる。


「あの、そんな海水に入れられたドジョウみたいな顔で見つめないで下さい……」


「お前もう行けよ。どこぞなりとも行けよ。いね(去ぬ)


 時代劇のようにアリアを追払い、武蔵は改めて眼前の建物を見上げる。

 国会議事堂と言っても、当然かつての日本人が想像した建物ではない。元は県議会議事堂という名であった、かなり小規模な建築物だ。

 その中の応接間ともなればやはり規模は小さいが、それでも交渉に見栄が必要なのは今も昔も変わらない。

 無駄に豪奢な椅子、やや大げさにも思える調度品。

 その最奥に、彼女は足を揃えて腰掛けていた。


「―――お会いしとうございました。貴方様の再臨を、心よりお祝い申し上げます」


 立ち上がり、深々と一礼する朝雲花純。

 まるで自分がひきこもりを脱却した天照大御神にでもなったかのような錯覚すら覚える武蔵であったが、花純の隣に座る人物を見て思考を再開させる。


「三笠。天皇陛下がここに来るのは日本じゃタブーじゃなかったか?」


(まつりごと)に口出しするのがタブーなのだ。平時の業務であっても、ここに来ること自体はある」


 細長い足を組み、小柄な躯体に似付かわしくない色気を醸す少女。

 敷島三笠―――天皇に名字はないので、現状ただの三笠である少女がそこにいた。


「お前の残した手紙、その答え合わせをしにきた」


 ひらひらと揺らすノート。

 それは、武蔵が100年前に書き残した花純への手紙であった。







「当時は父が存命だったので、手紙の情報を材料に交渉を始めました。恥ずかしながら万事上手くいったとは言えませんが、それでも預言書が手元にある以上はやがて父もこの情報を信じざるを得ませんでした」


 朝雲の当時の当主と、その娘の花純では発言力に雲泥の差がある。

 だが、預言書などというチートアイテムがあっては彼女の父も娘の話に耳を傾けざるを得なかった。


「早期に開発された特殊な触手回避ルーチンを組まれた対UNACT用巡航ミサイルは、我々朝雲重工が設立した私設傭兵団において多大なる戦果を上げました。投資も大きかったですが、リターンはそれ以上でした」


「私設傭兵? 自衛隊に売り込んだんじゃないのか?」


「何分、実績のない兵器ですから。いきなり現れた怪物に、いきなり開発終了した対抗兵器。興味は持たれましたが、正規軍での採用にはとても信頼性が足りません」


 武蔵から手紙を受け取ってすぐに開発を開始したことから、対UNACT巡航ミサイルの登場は不自然極まりないほどに早かった。

 どう考えても詐欺か、急造品のポンコツだ。

 だからこそ花純、というか朝雲重工は自ら退役軍人を集めて、小規模ながら対UNACT攻撃部隊を編成したのである。


「正規軍が右往左往する中、唯一順当に成果を積み上げる私設傭兵団。すぐに対UNACT巡航ミサイルは様々な国家団体から発注され、地球上のUNACTは早急に駆逐されていきます」


 これまでのループでも似たようなミサイルは開発されていたが、その頃には人類は高価な巡航ミサイルを量産する体力を失っていた。

 だがこの世界では違った。人類社会は充分な体力経済力を残しており、朝雲重工へありったけのミサイルを発注したのである。


「一時は体勢を立て直したかのように見えた人類でしたが、それを妨害する者が現れました」


 武蔵は目を細めた。

 実のところ、この歴史の授業の結末は判っているのだ。

 歴史は変えられなかった。世界は滅び、人類は袋小路へと追い詰められている。

 その主敵がUNACTであることは疑いようがない。

 だが、人智を超えた怪物たるUNACTを利用する思惑の存在がいる。

 何らかの理由で世界をループさせる犯人。

 その実体を、ついに武蔵の行動は引きずり出すことに成功していた。


「歴史の修正者が、人類の前に立ち塞がったのです」


「修正者?」


「はい。それは一見ただ暴れまわっているだけのように見えましたが、預言書を持つ我々にとってそれは『歴史の修正』を行っていると判断出来ました」


「有り体にいえば、それは幽霊船だった。幽霊船の姿をしていた。そうとしか表現出来んのだ」


 そう言って、三笠は端末を差し出す。

 端末には船の写真が写っていた。


「これは……」


 武蔵は写真を見て、眉を大いに歪める。


「幽霊船って……戦艦じゃないか」


 それは、幽霊船と聞いてまず思い浮かべるような帆船ではない。

 海上に浮かぶ鋼鉄の城―――戦艦だ。

 高層ビルのような楼閣、中心軸に並んだ大きな砲塔。

 弩級戦艦ではない―――更に後期の、超弩級戦艦。

 というより、このビール瓶のような太い船体のシルエットは武蔵も知っていた。


「戦艦……大和?」


「そうだ。この幽霊船、外見は旧日本海軍の大和型戦艦を模している。だが我々の知る戦艦大和とは明らかに違う」


 写真越しにも、その異常性は明らかだ。

 まず、浮いている。

 第二次世界大戦の戦艦だというのに、この戦艦大和の写真は、明らかに空中に浮いている。


「まあ、浮遊機関なんて装置もあるんだし浮いていることはいいんだが……」


 水上機母艦秋津島とて、戦後の改造で飛行可能になっているのだ。

 戦艦大和が飛ぶこと自体は、現代技術でも不可能ではない。

 だがそれ以上の問題点が、この大和にはあった。


「触手がうねうねと生えてやがる……」


 戦闘中に撮られた写真なのであろう、あまり見ない角度からの一枚。

 飛行する戦艦大和からは、無数の触手が生えていた。

 というより、船体そのものが半ば肉塊と化していた。


「我の知る限り戦艦大和は空を飛ばないし、このようなUNACTと半ば融合したような外見をしていない。本当に何なのだろうな、この怪物は」


 三笠も呆れを含むため息をついていた。


「半ば公式名称となっているが、こいつは『亡霊戦艦』と呼ばれている」


「亡霊戦艦……大和」


 口にしてみて、武蔵は眉をひそめた。

 武蔵のフルネームは大和 武蔵である。

 護衛艦やまとについてはひらがななので別物という感覚があったが、漢字で大和となるとリアクションに困る。


「幽霊船に関する言い伝えは世界各地に色々とある。あれは人類が集合無意識下で解していた世界の修正力そのものの姿だったのかもしれん」


「本気か?」


「冗談だ。世界の修正力などというものがあったとして、それが宇宙由来の生物のパーツを持っているものか」


 三笠は鼻を鳴らして武蔵を侮蔑した。


「一節にはUNACTのリーダー、親玉ではないかという意見すらある。私からすればこの意見もナンセンスだが」


「なぜだ?」


「……リーダーだから強い、なんて発想は幼稚だ。頭脳が最強である必要はない」


 武蔵は気付いた。

 こいつ今、何か誤魔化したなと。

 何分過去世界の頃から秘密主義だった女である。武蔵としても全面的な信頼などしていない。

 端末をフリックして他の資料も閲覧する。

 次に表示されたのは、不明瞭な亡霊戦艦大和らしき映像であった。

 空を飛び回る亡霊戦艦。

 その動きを見れば、すぐ気が付くことがある。


「見た目は船だが、運動性能は飛行機だな」


 飛空艇は船だ。その挙動は船に準拠する。

 だが、映像の大和の動きは船ではない。航空機のそれだった。


「鳥とコウモリも同じ2対の翼があるのだ、空を戦うならば結局は同じ動きになる……つまるところ収斂進化の一種ではないか?」


「そりゃあ、空を飛ぶ兵器はどこまでいってもエネルギー機動性理論からは逃れられないだろうけど」


「空で戦う以上、神話であろうと科学であろうと最適解は変わらないのだろう。ただ、傾向として対地攻撃機の挙動に近いように見える」


 対地攻撃こそが戦艦の真骨頂。

 あるいはマルチロールとしての性能を有しているが、わざわざ空戦するに値する敵がいなかったのかもしれない。

 考えすぎかもしれないが、敵を無能と想定するよりはマシと武蔵は考えた。


「まあ、超常的な集合無意識による修正力というのは間違いだろうがな」


「なぜそう思う?」


「我々には飛行機という便利な航空戦力があるのだ。世界の意思は、飛行機という形で現れてもいいだろう。なぜわざわざ海を往く船の姿で、空を飛んで現れたのだ?」


「……ロマン?」


 三笠は武蔵を無言でビンタした。


「これまで過去改変をしてきた知的生命体は、基本的に地上で生まれてきたんじゃないか」


 この宇宙に知的生命体が多数存在するとして。

 宇宙全体で発露したあらゆる文明によって行われてきたであろう、『過去の改変』。

 それを正すにあたって、彼ら『修正力』は主に対地攻撃を主に行ってきたのかもしれない。


「知的生命体が飛行能力を獲得したのは、稀有な例だったということか?」


「……その解釈はなかったな」


 三笠は関心したように頷く。


「脳は重い。それを守る頭蓋も重い。鳥が人間のような高度な知性を獲得するのは不可能と言われている」


「無理なのか?」


「人間の頭部は全体重の10分の1とされている。つまり我なら3キロほどだ」


「サバ読むな。お前の体格で体重30キロなわけないだろ」


 体重30キロは小学生の水準である。

 三笠がいくら小柄な少女であったとしても、さすがに30キロはサバ読み確定であった。

 三笠は武蔵のツッコミを無視して続ける。


「真上に首で支えるならともかく、鳥のように前方に向けて頭部を支えるのは不可能だ。静止状態でも負担は5倍、飛行の揺れを加味すれば瞬間的な負担は更に数倍……そこまでいけば、負担は体重と同重量」


 つまり人間の体重を50キロとすれば、鳥が同等の知能を得るには首が50キロに耐えられるようにならなかればならない。


「無理だ」


「無理だな。……いや、だが地球の生物なら無理かもしれないが、宇宙生物ならわからんぞ? 宇宙鳥は脳が胴体にあるかもしれない」


「馬鹿め、地球外生命体だというならそもそも有機生命体である必要は……いや、そもそもそんな話ではないだろう。『過去の改変』が『飛行能力の獲得』より難易度が低いとも思えない。あるいはそれは、我々人類が科学縛りで発展しているからなのか?」


「古代文明や宇宙文明では魔法がデフォルトで、過去改変の難易度が低いと?」


「事実、UNACTは魔法に等しい力を行使しているではないか」


 武蔵はふと思った。

 神話や伝承において、時間や空間を超えるエピソードは多い。

 時間の神クロノス、浦島太郎、ユグドラシル……時空間に影響を及ぼす物語は多岐にわたる。

 対して空を飛ぶ伝承は意外と少ない。イカロスなどもいるが、時空間に影響する物語と比べれば少数派だ。

 すなわち、当時の人々にとって時間を渡ることは空を飛ぶことより身近だったのだ。

 古代人の想像力の限界だった、といえばそれまで。

 だが、もし魔法というものが実在するとしたら。

 そして、魔法という技術体系にとって空を飛ぶことより時間を超えることの方が難易度が低いとしたら。


「……考えすぎだな」


 武蔵は自嘲した。


「亡霊戦艦が戦艦大和であることはどう解釈する。 なんでも収斂進化で片付けるわけにはいくまい」


「知るか。宇宙人の知り合いなどいないのだ。一人しかな」


「お前あのジャイアントゴキブリを知り合いにカウントするとか友達いないのかよ」


 にやりと笑う三笠。


「くくくっ、いやはや妄想が過ぎたな。まあ、話を戻そう」


「お前、嘲笑以外で笑うんだな」


「美少女の笑顔だ、嬉しかろう?」


「さてな。亡霊戦艦の正体についてはともかく、敵として戦う場合はどうなんだ?」


 兵器には有効射程というものがある。

 漫画では近距離に限りナイフは銃より強いとまことしやかに囁かれるが、これは本当に特定の条件ながら間違いとも言い切れない。金属の塊である拳銃は重く、咄嗟に構えるのにナイフと比べタイムラグがあるのは事実だ。

 「遠距離から一方的に火力を投じる」が戦いの基本である以上、兵器は発展と共に射程を伸ばしていった。

 だが、一度不用意に相手の有効射程に入ってしまえば、あとは火力の殴り合いとなる。

 場合によっては、最新兵器が過去の遺物に敗北することも有り得るのだ。

 戦艦という兵器は、まさにその極地であった。

 有効射程数十キロというのは、近代戦においてあまりに短い。多くの対艦ミサイルはそれ以上の射程を有するし、空母からの対艦攻撃部隊は時に有効射程1000キロを軽く超える。

 まさに時代に取り残された、終の兵器。

 しかし、それでも。

 一度有効射程に入った敵に対して、その火力投射量はあらゆる機動兵器を超越している。

 それが戦艦。時代の徒花にして、多くの幻想を孕んだままに歴史に消えていった兵器。

 ―――で、あるはずだったのだ。


「改めて確認するが……戦艦大和って、普通にあれだよな。大日本帝国海軍の切り札、最強クラスの超弩級戦艦の大和」


「はい。宇宙に行ったり陸上戦艦になったり滑空して空を飛んだりした、あの大和です」


「宇宙戦艦はともかく、陸上戦艦や飛行戦艦なんて小説をなんで知ってるんだよ」


 妙な花純の仮想戦記知識はともかく、戦艦大和である。

 大和型戦艦の1番艦であり、排水量換算ならば人類の歴史上最大の戦艦。

 直接的に徹甲弾で殴り合う船としては名実ともに最強格であり、これに対峙出来る戦艦はほとんどいない。

 ただ存在するだけで、半径40キロ圏内を調伏させる機械仕掛けの黒神。

 確かに、この兵器群は第二次世界大戦前までの繁栄だった。

 だが、そもそもWW2以前の大都市というのは海運が最大の輸送手段であった為に海沿いに構築されることが多かったのだ。

 よって、戦艦は事実上、この世界全ての大都市を消滅させることが出来る機動兵器だった。

 まさに戦略兵器。あらゆる敵を粉砕し、あらゆる攻撃をはねのけ、単騎よく小国程度なら壊滅させることが可能な超兵器。

 本来建築物であり山のように動けないはずの鉄城を、数千人が詰める鋼の要塞を機動させるというトチ狂った発想。

 7つの海を駆け、超常の殴り合いに身を投じる姿は現神としか評しようがない。

 人類の狂気と破壊衝動を煮詰めて船の形にしたのが、戦艦という怪物の正体であった。


「……そんな戦艦大和が、人類を襲ったっていうのか」


 大和の出所はともかくとして、21世紀の軍隊が戦艦に遅れを取ったというのはいささか奇妙な話であった。

 散々戦艦の強大さを語っておいてなんだが、21世紀の海軍ならば戦艦大和に対抗出来ないはずがない。

 多少空を飛べたところで問題ではない。21世紀の対艦ミサイルは飛空艇を狙う為に対空攻撃が出来るように出来ている。


「無論、かつて東洋の自称大帝国が運用した戦艦大和とは別物だ。少なくとも性能はな」


「三笠」


 武蔵は思わず彼女の腹を注視してしまった。

 三笠の性感帯はへそ。

 割とどうでもいい情報がフラッシュバックする。


「曰く、戦艦大和は空を飛ぶ」


「へー、そう」


 ヘソとかけたギャグである。

 大和が飛ぶことは既に聞いているのだ。


「なんだその腑抜けた返事は。……なんだ、どこを見ている? 豚め」


 下半身を見られていると感じ取った三笠は、不快げに身を捩った。


「さっきも見たが、別に今時、船が空を飛ぶなんて珍しいことじゃないだろう?」


 武蔵達が部室船として運用していた秋津洲とて、かつては普通の海上船だった。

 浮遊機関が発明されて以来、船とは空を飛ぶものなのだ。


「貴様の想定は甘い。亡霊戦艦の速度は想像を絶するぞ。なんでも、戦闘機並の速度で飛び回っていたらしい」


「戦闘機っていっても……ピンきりだぞ」


「トップスピードは遷音速に達している。亜音速で空を暴れ回る戦艦など悪夢だろう」


 武蔵は自身の頬が引き攣るのを感じた。


「なるほど、そりゃ航空機っていうより戦闘機だな」


「そうだ。私とてかつてはエアレーサーだったのだ、戦闘機に求められる運動性能がどういうものか理解している。上下左右に機敏に飛び回り、急上昇急降下を繰り返し、敵の尻を噛み砕く戦闘機の機動を戦艦が行ったのだ」


「戦艦大和のスペックのままに?」


「舷側410ミリ装甲、46サンチ3連装砲塔3基を搭載したあの戦艦大和のままに、だ」


 これは、文面以上にとんでもない話であった。

 現実をゲームのようにパラメーター化するのは語弊を招きかねないが、それでも兵器スペックというのは3つの要素で語ることが出来る。

 機動性、防御、攻撃力だ。

 1つの戦闘ユニットとして独立している以上、その重量やサイズには限界がある。

 限られた限界の中、いかに3つの要素を両立させるか。あるいは、どれを切り捨ててどれを特化させるか。

 それが、兵器設計の妙なのだ。


「そもそもこの動きの機敏さは、浮遊機関を搭載した飛空艇ではないな」


「だろうな。あの装置は超重量の船を効率良く浮かび上がらせるが、反面速度と高度は犠牲になる。通常エンジンと浮遊機関のハイブリッドとも考えたが、あんなデタラメな存在がそんなせこいことをしているとも考えにくい」


 兵器開発の3要素。

 その前提を覆し、航空機の機動性、戦艦の防御と攻撃力を備えた超兵器。

 それを実現する方法はただ1つ。根本的な技術力の底上げである。


「とんでもない、ありえないほど強力なエンジンを戦艦大和に積んだ?」


「大型宇宙船に搭載される大気圏離脱用のリニアエンジンとも考えられるが、これは衛星軌道に載る為の30分程度しか稼働しない。それでも万トンを超える戦艦を浮かび上がらせる出力の説明にはならない」


 宇宙開拓時代ともなればかつてSFに描かれたような大型宇宙船も多数就航している。

 だがその大半は大気圏突入能力はともかく、大気圏離脱能力はない。

 海抜0メートルから高度100キロ第一宇宙速度まで独力突破可能な少数の船にしても、排水量はせいぜい数千トン。宇宙船というだけあって見た目より遥かに軽く設計されている。


「世界の滅亡を望む何者かがいたとして、それが誰かと問われると悩ましいところだがな。超大国の大統領が、自国を巻き込んでの破滅願望を叶えるために巨額を投じたという可能性も捨てきれん」


 あるいはどこかの国が作り上げた秘密兵器、超兵器をテロリストが強奪したのかもしれない。

 超兵器を奪われ人類に多大な被害を齎したとなれば、開発国は名乗り出れないだろう。

 外見が大和である理由の説明にはならないが。


「実のところ、戦艦大和を本当の亡霊であると考える者も少なくありません」


 花純の言葉に、忌々しげな表情を見せる三笠。

 彼女にとって、オカルトという結論は受け入れがたいものなのだ。

 武蔵としても、ループ現象は超常現象であってもオカルトとは微塵も思っていない。戦艦大和とて物理的に整合性を持ったただの尋常ならざる物理兵器だと確信している。


「オカルトに傾倒する奴がいるっていうのか? いや、こんな時代だしオカルトにはまったって不思議じゃないが」


「私は専門家ではありませんが。どれだけ強力なエンジンがあったとしても、戦艦を戦闘機のように飛ばすなどありえないというのが識者達の見解です」


「それは、まあな。亡霊戦艦は外見も特に変化しているようには見えないし」


 かつて研究された滑空戦車のように、巨大な主翼や尾翼を付ければ多少低出力エンジンでの飛行も可能かもしれない。

 だがそれを見て「戦艦大和だ」とは思えない。そんな飛行物体を拵えるなら、翼長は数百メートルどころかキロメートル単位に達してしまう。

 よって、亡霊戦艦化に際しての形状変化は最小限だと武蔵は推測した。

 武蔵はざっと計算する。

 大和の基準排水量は64000トン。単純に大和の重さが64000トンであると定義するわけにもいかないが、概算値を求めるだけなのでこのまま計算する。

 武蔵の知る限り最強のパワーユニットはF―51ストレイキャットに搭載された、プラット・アンド・ホイットニー製F200系エンジンだ。

 推力重量比35対1を誇る最強のエンジンを以てして、戦艦大和を浮かび上がらせるには941基のエンジンを並べる必要がある。

 ただ浮かぶだけで900基以上、更に空戦能力と呼べるほどの運動性を有するなら……


「なるほど、考えるのもバカバカしい」


 戦闘機用エンジン900発をクラスター化(並列配置)するなど正気の沙汰ではない。

 物理的に可能だが、実質的には不可能だった。

 なお人類史上最強のエンジンとして有名だったサターンVロケット第一段エンジン『S-IC』だが、推力3465トン、本体重量2280トンなので推力重量比は1,5となる。宇宙空間でも作動するという最大の利点があるにしても、意外と重量の割に低出力なのだ。

 これで戦艦大和を浮かばせようとすれば、燃料重量を加味しないとしても、サターンVが54基必要。

 これもまた、机上の空論以外の何者でもない。


「あの、ご主人様?」


「……結局、その亡霊戦艦はどうなったんだ?」


 嘲笑のように口端を吊り上げた三笠が、武蔵に訊ねる。


「逆に聞くが、戦闘機並の運動性能と戦艦の防御と火力、それにおそらくは無限の継戦能力を持つ相手をどうやって沈める?」


「む。そう言われると、そもそも戦艦に通じる攻撃手段ってほとんどないからな……」


 戦艦の装甲を効率的に貫ける攻撃手段とは、すなわち対要塞用の兵器となる。

 真っ向から戦艦の装甲を貫ける兵器など、それこそ地中貫通弾くらいだ。

 高空から落下させ、マッハ5で装甲を貫く鉄杭。

 だが地中貫通爆弾は高高度から落下させる為に、移動目標へ命中させるのは困難。

 落下時間が長ければ迎撃されるリスクも増えるし、21世紀で使用されていた地中貫通爆弾は小型過ぎて戦艦の1区画を血の海にするのが精々だ。

 多くの区画に分けられてダメージコントロールする戦艦にとって、1区画が全滅するなど大した損傷ではない。


「かといって、核兵器も通じなさそうだし」


 解りやすい超兵器として、核爆弾や大型爆弾という手段もある。

 しかし核兵器や大型爆弾の類は、爆発という面攻撃なので徹底した装甲化された戦艦には通じにくいものだ。

 よほど至近距離での起爆ならば船員を殺傷する可能性もあるが、それほどの誘導性能を持つなら通常弾頭で装甲貫通を狙った方が早い。

 核兵器による対艦攻撃は、効率が悪く、扱いが難しい兵器となってしまった。

 一時期存在した核弾頭対艦ミサイルが陳腐化したのは、そういった理由もある。

 ……このように戦艦とはひたすらに、徹底的に頑丈な船なのだ。

 それこそ具体的な例を上げれば、大和型2番艦に至っては魚雷20発、爆弾37発でようやく沈んだ。

 並の戦闘艦なら1発で沈むような攻撃を50回以上耐えるという、まさに沈まない前提の船(不沈艦)だったのである。

 ならば何故戦艦のような超重装甲の戦闘艦が廃れたかといえば、『効率的』でなければ通用する攻撃は存在するから。

 大和型は50発以上の攻撃を受けてようやく沈んだ。

 逆に言えば、50発以上の対艦ミサイルを撃ち込めば戦艦とて沈められる。

 効率は良くないが、対艦ミサイル50発と大和型戦艦1隻では前者の方がずっと安上がりだ。

 そう、仮に21世紀にて戦艦が復活したならば、その対処法は「ひたすらチクチク攻撃する」なのだ。

 1発2発では揺るがない鋼の城とて何十発も受ければ機材が破損し、人が死に、やがて戦闘能力を喪失する。

 ―――亡霊戦艦の問題点は、そのチクチク攻撃が当たらないことだった。


「人類はまずこの亡霊戦艦を撃破しようと連合を組みましたが、圧倒的な速度を既存兵器では捉えきれずに敗退。核兵器の乱用や空対空兵器での飽和攻撃も試みたそうですが、やはり戦艦相手には意味はありませんでした」


「だろうな。空対空ミサイルの弾頭なんてようするに散弾だ、戦艦相手に効くはずがない。そも、追尾出来たかすら怪しい」


 あれ、これ無理じゃね。

 武蔵はふと気付く。

 UNACT対策は人類が疲弊する前なら対抗兵器を作れたが、亡霊戦艦相手には対抗兵器が思い浮かばなかった。

 正直戦闘機並の速度で飛び回る戦艦に乗員がいるかすら怪しい。多少損害を受けたところで堕ちないことは過去の戦訓が証明している。


「あとはまあ、多少経緯は異なるかもしれませんが。ご主人様が書き残した未来情報のまま、人類は敗退して地上における主要な生存圏を喪失しました」


「預言書の通りに、か」


「そうだ。気味が悪いほどに、歴史書は再現された。改変され助かったはずの軍艦は沈められ、町は蹂躙された」


 結論は出ていた。

 これは、SF小説などで語られる歴史の修正力などではない。


「やっぱり、この世界には黒幕がいる」




 亡霊戦艦について、人類が把握している情報



 UNACT出現後に地球上に現れた空飛ぶ戦艦。

 古めかしい戦艦のシルエットとUNACTの有機的な組織が融合した外見。

 UNACTはコンピューターによる解析でも行動パターンがほぼランダムであることが立証されているが、亡霊戦艦については明確に重要拠点を目標としている。

 数キロまで近付いた物体を触手で迎撃する。触手は何十本もあり、速度も速く正確に動くことから対艦ミサイルによる飽和攻撃は全て迎撃された。

 犠牲を出しつつの調査により、大まかな特徴や寸法が戦艦大和と一致していることが確定する。

 亡霊戦艦出現の数年前にオリジナルの戦艦大和が違法にサルページされたこともあり、まさに同一個体なのではないかとも噂されている。

 大和型戦艦と同じく巨大な砲塔が3つ、それぞれ3連砲が搭載されている。対地攻撃に使用されたことがあり、飾りではない。

 多少の自己治癒能力がある。これはUNACTも同様。

 最高速度1000キロ。戦闘時の機動パターンは船舶というより攻撃機や戦闘機に近い。

 核兵器では表面を焼くだけ、大口径の艦砲射撃は弾かれる、対艦用レールガンは当たれば貫通可能だがダメージを受けた様子はなく、数日後には穴もふさがっている。

 それでも超音速対艦ミサイルの飽和攻撃を続けるなどといった戦法であれば撃沈可能であると試算されたが、その時点では人類は対亡霊戦艦の多国籍艦隊を組む余裕を失っていた。


 この小説の2部は、おもにこの亡霊戦艦を撃破する為に頑張る物語となります。


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