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3-2



 町工場へ駆け込み、ハカセを叩き起こして零戦に乗り込む。

 手続きもシークエンスも無視した離陸。だが、向かう先は病院ではない。


「花純のまとめた記録によれば、UNACTらしき存在は大会の早朝から確認されていた―――!」


 武蔵をループさせている犯人が、なにをしたいのかなど未だ判らない。

 だが、これまでの手間を鑑みれば、『武蔵でなくてはならない』のは間違いなかった。

 ならば今回も律儀に武蔵を襲うはず。UNACTに襲われるが、その結果未来に飛ぶはず。

 奇妙な話だが現状、病院に頼るより、黒幕に頼るほうが助かる可能性は高い。

 武蔵はUNACT出現海域へと飛んだ。


「《―――こちら県警所属機。前方の零戦、聞こえますか》」


 不意に、無線が入る。


「《貴機の飛行申請は未提出です。当機の誘導に従い着陸しなさい》」


「くそっ、こんな時に警察か……!」


 白塗りのジェット機が、武蔵の零戦を覆うように現れた。

 双発の小型ジェット機。いかにも速そうで軽そうなその機体は、警察で採用されている航空機取締用のコイン機だ。


「Textron AirLand ―――Scorpion(スコーピオン)!」


 テキストロン・エアランド社製の軽飛行機、スコーピオン。

 ホーネットシリーズに似た本格的ジェット戦闘機に近いシルエットを持つ、多目的攻撃機である。


「警察め、普段は悪ガキが不申請で飛んでも来ないのに、こんな時ばっかり仕事しやがって! お疲れ様!」


 速そうな見た目の割に速度は亜音速に抑えられており、様々な点で第一線の戦闘機に劣る。

 だが高いセンサーアビオニクス能力と、民間に広く普及するプロペラ機には充分優越出来る速度運動性能は警察機としてはちょうどいい塩梅の航空機であった。

 そもそもコイン機だけあってランニングコストも安く、ドッグファイトをしてもほとんどの民間機に勝利出来る。

 航空機の敷居が下がった21世紀において、危険飛行を取り締まるために広く採用されている機体だ。


「くそ、逃げ切れない……!」


 今時の飛行機には必ず自動操縦装置が積んである。

 勿論武蔵の零戦にも搭載されており、これは警察のビーコンを受信すると操縦を乗っ取られるのだ。

 混線をさけるべく指向性電波による短距離限定のビーコンだが、一度喰らえば零戦は制御不能となる。

 仕方がなく、武蔵は応答することにした。


「警察機へ、こちらとしても非常事態だ。事故で重傷を負って、やむを得ず緊急離陸している」


 横付けしてきたスコーピオンに血まみれの手を振ってみせると、警察機のパイロットも流石に驚かさせる。


「《……了解した。だが貴機が向かっているのは海方向だ、こちらの誘導に従ってほしい》」


 そうなるよなー、と血の足りない頭で納得する武蔵。

 なんとか言い包めたいところだが、うまい言い訳が出来ない。

 このままでは、人命救助としてやはり操縦を乗っ取られてしまう。そう考えた時―――


「《うおっ!? なんだ、危険飛行を警察にするとは良い度胸だ!》」


 2機のプロペラ機が、零戦とスコーピオンをニアミスするようにパスした。

 左右に旋回した小型プロペラ機は、迷いなくスコーピオンに模擬弾を銃撃する。

 ペイント弾とはいえ、受けて楽しいものではない。スコーピオンは加速し、高度を上げて体勢の立て直しを試みた。


「誰―――いや、3式と5式。如月姉妹か」


「《むさしんやっほぉですぅ。びっくりしましたよぉ、こんな時間から飛ぶ予定なんてなかったじゃないですかぁ》」


「《もうーあたし達慌てて飛んできたんですよー。褒めてくださーい》」


「褒める褒める。……すまんな」


 警察に対する明確な敵対行為。

 そんなことをさせてしまったことに罪悪感を覚えるも、双子はそれを一笑に付した。


「《わたし達ぃ、共犯ですよぉ》」


「《あたし達の未来のためにも、ここで死んだら殺しますよー》」


 相変わらずの気の抜けた口調に、犯罪行為に躊躇いがなくなってきたなと呆れる。


「霜月、身体は大丈夫なのか?」


「《そりゃあもうー、やっぱりいいですねー健康って。尊みが深ーい》」


 機首が太い方―――5式戦闘機が、その場で軽快にくるくるとロールする。

 未来で突然死した霜月は、普通にこの時代で目覚めていた。

 とりあえず姉妹は再会を喜び、大和家に連絡をする。

 そして、信濃から話を聞いて慌てて空に上がったのである。


「《ムサシン死んだ経験ありますかぁ? こうスーッと底なし沼に沈んでく感じっていうかー、そりゃー痛みもなくなるんですけどー》」


「《きぃ、気持ちいいのぉ?》」


 ちょっとドキドキしちゃうお年頃の秋月。


「《いやいやー。同時に大切な感情とかまで一緒に消失していく、って感じなんですよー。不可逆感が気持ち悪いというかー、脳みそをアイスのディッシャーで削り取られてる気分っていうかー》」


 アイスディッシャーとはようするに、アイスを救ってまん丸の形に成形してポロンと剥がす、おたまみたいなアレだ。


「最悪な気分だってのは解ったよ。これから死にゆく俺に先人の経験談ありがと」


 好き嫌いのない武蔵とはいえ、猿の脳みそを食べることはないのだろうなと改めて確信した。


「俺はこのままUNACTに突っ込んで、未来へ行くのに賭ける。お前達は急がなくていいぞ」


「《いや強がらないで下さいってぇ。警察の飛行機からむさしんだけで逃げ切れないでしょー、わたし達でエスコートしますよぉ》」


「《女の子にエスコートされるってー、ムサシンかっこわるー……》」


 彼女達は、不測の事態において協力者としての役割を果たすべく来たのだ。

 それを嬉しく思い、武蔵は感謝を告げるのも気恥ずかしくて翼を軽く振った。


「こちらの不手際ですまん、このまま突っ込むぞ……」


「《りょーかい》」


「《あ、警察さんは離れててねー。危ないですよぉ》」


「《な なにをする きさまらー!》」


 スペック的に勝利が困難なはずのスコーピオンを、双子は巧みな連携で追い返す。

 そうして、海上に浮かぶ『奴』へと3機は到達した。

 具体的に行動は開始していなかったが、突如大会中にUNACTが突如湧いて出たわけではなのだ。

 この個体は最初からセルフ・アークにいた。それは、花純の100年の調査で判明している。


「さあ、行くぞ。3回目の、時間漂流だ」


「《むさしん―――私達を、また助けてね》」


「《信じてます、から》」


 伸びる触手。零戦と3式戦闘機、5式戦闘機はそれを回避しない。

 無数の触手が螺旋を描き、トンネル状となり、3機を飲み込む。

 青い空が塗り潰され、若者達の肌が粟立つ感覚があった。

 ただ覆い隠されただけではない―――異世界に迷い込むような違和感。

 物理法則が狂っていく感覚が、確かにあった。





短いですけど、ここで切らないわけにはいかないので今日はこれだけです。


とりあえず注釈しておくと、この世界の競技機はレシプロエンジンではなくターボシャフト、ターボプロップです(規定はないので物好きがレシプロを積んでることはあるかも)。

空冷エンジンに見える機体は、空気抵抗を妥協してプロペラ推力を偏向する特殊なカウルフラップを搭載しています。(本来のカウルフラップはエンジン冷却用ですが、このカウルフラップは運動性補助用)

なので双子の3式戦闘機と5式戦闘機は、あくまで同じエンジンを積んでいます。

空気抵抗を減らした高速機と運動性能重視のドッグファイターです。武蔵の零戦も後者。

それでもエンジンパワー任せに800キロくらいは出る設定なのですが、武蔵の零戦に関しては運動性能重視しすぎて600キロしか出ません。


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