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2-16



「今後お前に何か頼みたい時は、双子をけしかけることにする」


「やめろ」


 双子に髪型をマリー・アントワネット調に魔改造されつつ、三笠は武蔵をジロリと睨んだ。


「いつの間にこいつ等を呼んだ」


「そりゃ呼ぶよ、お前と交渉するなら俺よりずっと適任だろ」


「貴様と同様、100年の時間を超えたタイムトラベラーか。ふん、お前の世迷い言も多少は信憑性が出てきたな」


 信じてなかったのか、と武蔵が胡乱な目を向けると、三笠は鼻を鳴らして嘲笑する。


「お前の言葉にどれだけの重みがある。実績もない戸籍もない経歴はテロの首犯というのみ。身内の援助で飲み食いする穀潰し以外の何者でもあるまい」


「じゃあ逆にどれだけ社会的地位があればタイムトラベラーってことに信憑性が出てくるんだよ。というかお前、他者を等しく下賤の者とか思ってるタイプだろ。万人等しく有象無象とか思ってるだろ。俺を貶す為だけに言ってるだろ」


「それがどうした」


 開き直っていた。


「あははっ、三笠っちってホント拗らせぼっちですよねぇー」


「秋月、貴様は私のことをそんな風に認識してたのか」


「クールに屋上で1人お弁当を食べながら、『今頃アリアは何をしているのだろうな』とか呟いてたじゃないですかぁー」


「霜月、忘れるまで殴る」


 双子は三笠に左右から抱き着く。

 三笠は小柄なので、完全に双子に埋もれてしまった。

 武蔵は自分が双子の間に入りたいと妄想した。


「わたしぃ、結構母性強いんですよぉ。なんていうか、ほっとけないっていうかぁー?」


「ミカミカ、お姉ちゃんのことママーって呼んでいいんだよー?」


「は! な! せ!」


 隠れ巨乳に挟まれ溺れる三笠。

 武蔵は自分が双子の間に入りたいと夢想した。


「あっそうだ。実は今、俺と三笠の精神が入れ替わってた。それの中身は大和武蔵っていうイケメンだから、三笠にセクハラしたいならこの俺をハグするべきだぞ。さあ来い」


「ねえねえ三笠っち、結局のところわたし達が未来に来ちゃった原因って何なんですぅ?」


「さっきの説明あたし達も聞いてたけど、さっぱりなんですけどー」


 三笠はハッ、といつものように見下し笑い。


「あの程度の話にも付いていけないとは、やはり極東の蛮族猿。禄な教育が出来ていないと見える」


「なあふと思ったんだが、その身体ってロボットなのか? それとも生体部品なのか? つまるところ、そのオッパイは本物なのか?」


「もっとわかりやすく教えて下さいぃ」


 秋月が三笠の身体をぐらぐらと揺する。


「ひらめいた。その身体が遠隔操作されているラジコンだというのなら、俺の意識を入れることも可能なはずだ。やれ。女湯に突撃する」


「なぜそのような労力を割かねばならないのだ。いやそこのバカ男の提案に関してじゃない、なぜ我がお前達の為に説明のやり直しをせねばならないのだ」


「ミカミカはもう少し、説明とか上手くなった方がいいですよー」


 三笠と武蔵は愕然とした面持ちとなった。


「なっ、なんだとっ!? 我が説明下手だというのか!?」


「いいじゃねーか! ちょっと身体を借りるだけだ、誰も損はしていない!」


「むさしんちょっと黙ってろ」


「人体実験の第一人者であるあたし達で股間の粗末なものちょん切って女の子にするぞ」


「ハイ」


 武蔵は床に正座した。

 畳敷きの和室なのでそんなに痛くはなかった。

 これでは罰にならないと考えた武蔵は、自主的にローテーブルの上に正座し直した。

 目線の高さに近いという存在感が、黙っていても鬱陶しい。

 霜月は「仕方がない人だなぁ」と苦笑して、床にそろばんを敷き詰める。


「この上に正座」


「ハイ」


 武蔵は奇妙なオブジェとなった。


「えっと、つまりUNACTは……タイムマシンを持っているってことですかぁ?」


「あの怪物、道具とか作れるようには見えないんですけどぉ」


 三笠はふーむ、と唸ってから、例え話をすることにした。


「ミジンコを知っているか? 大和武蔵に良く似た、原始的な目を1つしか持たない微生物だ」


「俺に似たイケメンな微生物に関して心当たりはないから、きっと俺の知ってるミジンコとは同姓同名の新種だな」


「オブジェが人の言葉を話すな」


「ハイ」


「目が1つしかないということは、『光があるかどうか』、『これからどう動くか』という点と時間の二次元的な世界で生きていると言える」


 三笠は頭の悪い生徒に噛み砕いて説明するつもりで、可能な限り優しく説明する。


「ミジンコより高次の生物……例えば蟻は。矮小な蟻がバスケットボールの上に載せられても、『この平面をどう移動するか』とあくまで二次元に時間を加えた三次元的な世界しか認識出来ない」


 蟻の知能ではそれすら認識出来ているか怪しいが、言いたいことは武蔵にもなんとなく理解出来た。


「UNACTは、人間には知覚できない五次元目以降を認識出来る。人が時間と空間を理解するように、呼吸するように当然のこととしてそれに介入出来る。それは、人という小さな存在からすれば物理法則を超えた、魔法にしか見えないのだ」


 超技術、なんてほどのことではない。

 人が手足の動かし方を意識しないように、UNACTにとってそれは自然なことなのだ。


「『彼ら』の五次元目以降を認識する力を制御すること出来るなら、人間一人の意識をタイムスリップさせることくらいわけないはずだ」


 動機は不明だが、技術的には可能。

 それが、三笠の見解であった。


「だとして、なんでわたし達なの?」


「『あの場』にいたのが原因だとしたら、ミカミカだって居ましたよね?」


 1周目が始まる前、エアレースの第三試合。

 あの空域にいた武蔵の零戦と鋼輪工業アヴェンジャーズの少女達がタイムスリップしたとすれば、まだ未発見のタイムトラベラーが2人いることになる。

 だが三笠が時間を超えた様子はない。そのことが、双子には不思議であった。


「あの場において何が起きたのかは、私の立場からは判らない。あの場で破棄されたのは私の外部端末であり、本体はこの宇宙コロニーの核心部に安置されているのだ。つまるところ、私はタイムスリップの条件を満たしていない」


「えっ、破壊されたんですか……? まあUNACTが突っ込んで来てましたけど」


 双子は自分の身体に思わず触れた。

 自分の身体が本当に自分のものか、自信がなくなったのだ。

 血が通う人間の身体であることは知っている。実験を受ける中で、嫌と言うほど理解させられている。

 だが、21世紀に生きた頃の身体と、この身体が同一個体であるという保証はない。


「もしかして、実はわたし達はもう死んでいて……三笠っちみたいに脳みそをコピーされて、22世紀で起動させられたって可能性もある?」


「可能性は捨てきれん」


「いやでもほら、ここのホクロとか、昔の時代からずっとありますよ?」


 霜月が服を少しはだけ、首筋のホクロを示す。


「貴様等死亡説が事実だったとして、肉体を瓜二つにコピーしたんだ。ホクロくらい再現していても不思議ではないだろう」


「な、なんか怖いんですけどぉ」


「アイデンティティなど気にするな。そんなことを言ってしまえば、コピー品であることが明確な私の立場がない」


 三笠は霜月の背を不器用に撫でる。

 コイツ身内にはクソ甘いな、と武蔵は思った。







 色々と情報交換をして、皇居を後にした3人。

 帰路は無言であった。他愛もない雑談をする気にも、なれなかった。


「ただいまー」


「お帰りなさいお兄ちゃん! ご飯の準備出来てるよー!」


 もうそんな時間か、と考えつつ3人はダイニングに入る。

 テーブルの上に裸で横たわる信濃がいた。


「晩ごはんは、わ・た・し」


 刺し身で色々とギリギリで隠しただけの、あられのない姿を晒す妹。

 武蔵は回れ右をした。


「すまん、用事できたから外でてくるわ。みんなで食べててくれ」


「「えっ」」


 双子はぎょっとした。

 まさか、「みんな」とは私達のことだろうか。そんな困惑が駆け回る。


「そうなの? それじゃあ仕方がない、双子ちゃんはたーんと食べてね!」


 あっさりと武蔵の辞退を認める信濃。


「つらい」


「なんであたし達が」


 その後、死んだ目で女体盛りの刺し身を食す双子がいた。


「ぬるい刺し身って美味しくない……」


「見た目で騙されそうだけど、この人100歳以上のお婆ちゃんなんだよね……」


「召 し 上 が れ (はぁと)」


 狂気。







 妹に貰ったお小遣いもあるので、どこかで夕食を食べてから帰ろうと思案する武蔵。

 そこに現れたのは、黒塗りの高級車であった。


「夜分遅くに申し訳ありません。電話でお伝えするわけにもいかず、直接伺いました」


「花純か」


 車から降りて、一礼する総理大臣少女。

 武蔵はなんとなく高級車に近寄り、外装をコンコンと叩いてみる。

 さすがに総理大臣の乗用車だけあって、防弾使用のガソリン車であった。


「『彼女』を作戦から外すという指示が正しく伝わっていませんでした。彼女は既に、秋津島に乗艦して宇宙空間にいます」


「……まじか」


「申し訳ございません。私の指示の不徹底が招いた結果です。罰は如何用にも」


 深々と更に頭を下げる花純。

 綺麗なつむじだなと思いつつ、武蔵は彼女の無防備な頭を撫でる。


「軍部、自衛隊の暴走とか反発、反骨精神によるものか?」


「そういった感情が彼等にないとは言いませんが、いち士官を任務から外すという指示に抗うほどのことではないでしょう。むしろ何か裏事情があると考えて下手にヤブヘビを突かないように粛々と従うはずです」


 この程度のことで反発して、後々大問題となった時に政府に貸しとなるのは自衛隊側としても避けたいはず。

 今回の件は、単純に情報伝達のミスであった。


「呼び戻すことは? 地球に降りた直後に取って返させれないか?」


「宇宙と地球の行き来はそれほど簡単なものではないと、断られてしまいました」


「……まあ、飛行機が自力で宇宙に出られないからな、今の時代」


 昔ならば個人所有の宇宙機でさえ自力で、補助ブースターなどを使用せずに宇宙空間……衛星軌道上に到達出来た。

 だが22世紀ではそうはいかない。大気中・宇宙兼用のリニアエンジンの保守などほどんど不可能となっており、残った宇宙への昇る手段は1つだけ。

 天空の橋立(あまのはしだて)―――軌道エレベーターによる、大型船に乗っての静止衛星軌道までの船旅だ。

 これを利用する場合、宇宙に出るのに16日間かかる。宇宙往還機ならば半日で昇れる高度を、2週間以上かけて昇らなければならない。

 一度に30万トンを宇宙にまで運べる手段だからこそ、簡単にスケジュールは変更出来ない。

 アリアをコロニーに戻そうと思えば、どこかの船に便乗させるしかなかった。


「戻したとして、いつになるんだ?」


「数ヶ月以上先と考えてほしい、と返答を受けました」


「軌道エレベーターのスケジュールスパンすげー長いんだな……」


 数ヶ月に一回、まとめて荷物を宇宙に上げているのだ。

 能率は悪いが効率はいい。


天空の橋立(あまのはしだて)もまた、壊れたら修理出来ないオーバーテクノロジーですから。使用は最低限に留められています」


 武蔵は考える。

 大切なのはアリアが死なないことであり、秋津島への乗船阻止は手段でしかなかった。

 確かに不手際であったが、今からでも秋津洲に乗せないという目的は達成出来る。


「アリアを作戦から外せって指示は、ちゃんと通じたんだよな?」


「はい。直接通信で担当者に確認しました、確実に履行されるはずです」


「担当者?」


「ブルドックみたいな顔の艦隊司令官です」


 あの男だ、と武蔵は察した。

 それなら大丈夫か、と武蔵は安堵する。


「じゃあこのまま、最速で呼び戻してくれ。……あとは野となれ山となれ、のんびりする意外にないな」


「了解しました」


 首肯する花純。

 これまでも精力的に活動してきたので、武蔵としても手持ち無沙汰となってしまった。


「ご主人様」


「ん?」


 花純がそっと、武蔵の服の裾を引く。


「あの……時間がおありなのでしたら、その。デート、しませんか……?」


 総理大臣って暇なんだろうか。

 そう考えるも、武蔵はそんな邪推を振り払い頷いた。


「おっしゃバッチコイだ。俺はプー太郎だから、日時はそっちで組んでくれ」


「はい。きっちりデートプランを用意しておきます」


 別にデートの中身までそっちで用意しろと言ったつもりはない武蔵だったが、今から楽しそうにしている花純に口を挟むのは無粋に思えて黙っておくことにした。







 それから一ヶ月後。

 想定通り第七護衛艦隊は全滅。

 世界は、武蔵が知らない未知の領域へと入った。







 1月23日。

 天空の橋立(あまのはしだて)崩落の一報が入ったのは、未知の歴史に突入して僅か2日後であった。


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