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三笠に『処置』を施され、眠りに付いた鈴谷。
何度も未来を繰り返した鈴谷とはもう会えない。何か気の利いたことを言おうとした武蔵であったが、上手い言葉も見つからないままに彼女は眠ってしまった。
「これで、目覚めたら昔の鈴谷になっているのか?」
「まだ遡行は終わってないがな。まあ、ORIGINAL UNACTのお迎えが来る前には終わらせる」
話を続けよう、と三笠は鈴谷をソファーに寝かせ、再び武蔵に向き合った。
「先程後回しにした『黒幕が我々を察知した』という件だが、別に難しい話ではない。前回のループで得た情報は、時雨由来のものばかりではないということだ」
そう告げられ、武蔵がまず考えたのは亡霊戦艦に与えたダメージだ。
あれは亡霊戦艦に明確なダメージを与えることにより敵側に行動を起こさせるという目的があった。
ようするに探り撃ち、威力偵察。あえて藪を突いて様子を見る行為だ。
「前回の戦いは残念な結果だった。惜しいといっていい。だが、お前たちの与えた一撃は意味があった」
「というと?」
「あの戦いから得た情報を精査した結果、亡霊戦艦の尻尾を掴んだ」
「何を見つけたんだ?」
「ヤツには、整備基地がある。当然といえば当然だが、無整備で100年間動いているわけではないのだ」
武蔵は意外なことに、そんな当たり前のことに驚愕の感覚を覚えた。
軍艦を狙うのに、寄港中は定番の攻撃タイミングだ。
人類は当然ながら100年間に渡って亡霊戦艦のメンテナンス時期を探り、そして発見出来ていなかった。
「元々活動時期にムラがあったから、整備が必要だとは推測されていた。あるいは生物における睡眠のような状態かもしれないが、どちらにしろ弱点にはなり得ると考えられていた」
「そんなものがあるなら、なんでこれまで発見されなかったんだ」
「現代戦力による攻撃は主に遠距離だったから、戦闘後の細かな検証がしづらかったのだろう。それに、100年後はろくな敵がいなくなっていたことから相手の『運用者』も気が緩んでいたのではないか?」
「だが今回露見したなら、相手も警戒して場所を変えるんじゃないか?」
「いや、見つけたのは基地そのものじゃない。『手口』だ」
「手口?」
「奴には支援潜水艦がいる。潜水した大和を潜水艦で引っ張って整備基地に運び込んでいるんだ」
「なるほど、手に入れたのは音紋か」
にやりと笑う三笠。
音の指紋、音紋。
まったく同型のスクリューであっても、個々に音が違う。これは、船の個体識別の重要なヒントとなる。
未来世界であの作戦直後に音紋を確認したとあれば、なるほどそれは敵以外にない。
武蔵はアリアにつきっきりであったが、その間にも熾烈な情報戦が繰り広げられていたのだ。
「整備基地を特定したのか?」
「馬鹿を言え、あの時代にそこまでの労力人員があるものか。大化作戦で打ち止めだ」
未来の三笠が得たのは、本当に『音紋』だけである。
だが、そんな1Mバイトにも満たない情報が、世界を一変させる鍵に成り得る。
「時系列から考えて亡霊戦艦も潜水艦も既に、この時代の今現在に完成している。これから行われる人類の大反攻、その後の敗戦にかこつけて大和の居場所を突き止めてやる」
「なら最初から、この時代での大和撃破を狙えばいいんじゃないか?」
「この時代はまだ黒幕殿も動いている。動くならやはり未来だ。百年後においてはどうにも黒幕は何かに熱中して我々の動きに関心がない様子だったからな」
三笠の感覚としては、それはもう無関心を超えて放置であった。
一応は三笠とアリアは接触は控えているも、それすら不要かと思うほどに黒幕は沈黙している。
黒幕の目的はループとは別のところにある、というのがミカサの見解であった。
「だが、先の亡霊戦艦へのダメージは深刻だ。決して小さなものではない。今までは可能性を論じてきたが、あの戦いで確実に黒幕は我々を察知した。ループに介在して歴史を変えようとする勢力があることを理解したはずだ」
何かしら動きがあるとすれば、やはり大化作戦より少し前から―――つまり、武蔵達が目覚めたあたりからだ。
「黒幕は我々を知り、我々を探る。そして、何かしら対抗策を打ってくる。我々が自由に動けるのは、つまるところ今回が最後ということだ」
「次のループにおいては、充分に俺達の情報を揃えた黒幕が根本的な攻撃をしてくるというわけだな」
黒幕は100年間の跳躍を行っていない。
今回のループで武蔵達が行動を開始するタイミングが黒幕側にほぼ露見するのだから、次ではそれに備えて暗殺部隊でも用意すればそれだけで詰む。
武蔵達が目覚める具体的な状況、例えば武蔵が目覚める漂流船などまで特定されるのであれば―――目覚める前に船ごと破壊される可能性すらある。
次の周回においては、どうあっても勝ち目はない。
「何度も言うが、ループは今回で最後だと思え。次はない。今回で、全てを終わらせるつもりで動け」
ただ頷く武蔵。
同じ時間を繰り返す長い旅、その終焉が垣間見えてきたのだ。
「未来で合流したときは大和の基地について報告してやる。亡霊戦艦の弱みをつくぞ」
「頼む」
「それで、今回はどうする。時雨の精神を再生してみるか?」
「うーん……」
武蔵は悩んだ。
時雨の精神を元に戻す方法は先程聞いた。
だがその技術は不確かであり、今は鈴谷がその身で以て検証中。
その結果が出るであろう100年後を待ち、時雨を未来世界で救出した方がいい。
それが、合理的な判断だ。
だが―――
「こいつ、今回は会いに来ないとなると拗そうでな」
「人格ぶっ壊れた人間が拗ねたりするものか」
「お前はこいつの面倒くささを知らないからそんなことを言えるんだ。ヤンデレだぞヤンデレ」
「お前が釣った魚に餌をやらなかったのが悪い」
「いや地だってこれ。元々素養があったんだって」
「ええいうるさい。それでどうするのだ」
武蔵は考える。
未来世界の漂流船で目覚めてから、セルフ・アークに到着するまでおよそ一ヶ月。
しかしこれは後に省略され、目覚める前後に武蔵は回収され、三笠の元で記憶を書き込まれて目覚めている。
よってスケジュールの遅延は起こらないし、これ以上の早期行動開始も出来ない。
ならば時雨の脳に一か八かでアクセスしてもいいのだが―――
アレもあるしな、と武蔵は食卓に用意されたお弁当を見る。
鈴谷が処置を受ける前に、最後に料理をしたいと言い出し、手早く作ったランチボックスだ。
「よし。三笠、出かけよう」
「どこにだ」
「宇宙」
最近飛行機の法律関係について調べようとネット検索しても、ドローンのことばかり出ます。
ひどい検索妨害もあったもんです。




