6-1
6週目開始です。
深夜。
ベッドから飛び起きた武蔵は、明晰な意識に反してふらつく足を叱咤して自室の窓を開けた。
そして作り物の星空を見上げ、大きく息を吐く。
「焦るな、時間はある」
いつもなら隣の家で眠るアリアの様子を見に行くところだ。
それは確認というほどのものでもない衝動的な行動であり、実のところもう意味はない。
合理的に考えて必要のない行為。
だが、それでもその衝動こそを軽んじたくはない武蔵は、いつものように窓にかかった橋を渡り、アリアの部屋に侵入した。
「こんばんは、アリア」
何度も見てきたアリアの寝顔。
その陶磁のような頬に触れ、それからぐりぐりと頭を撫でる。
キスの一つでもしてしまおうかと思ったが、止めることにした。
この時点のアリアは、未だ気持ちを伝えあっていないクラスメイトでありバディでしかない。
武蔵は部屋に戻り、こっそり信濃の部屋に忍び込んだ。
「―――夜這いかな、お兄ちゃん?」
「信濃? ……起きてたのか?」
信濃は寝間着のままに、ベッドに腰掛けていた。
寝ていると思っていた武蔵は、意外な光景に目を丸くする。
「どうしたんだ? うるさかったか?」
音を立てないように心掛けていたつもりだったが、あっちこっち動いていたので物音がした可能性もあった。
信濃はそれに首肯するも、その返事は武蔵にとって予想外だった。
「夜中に変な声を上げてうなされてたら、そりゃ起きちゃうよ。何度か見に行ったんだから」
「……そ、うか。夢見が悪くてな。そんなに騒いでたのか?」
「アリアー! とか、届けー! とか、いい加減落ちろー! とか。割と色々と、鮮明に聞こえてきたよ?」
そんなことを叫んでいた出来事を、武蔵は当然覚えていた。
「最初はえっちな夢かと思ったけど、明日……というか今日の試合の夢でも見てたの?」
何気なく問うてくる妹に、しかし武蔵は答えれられない。
武蔵は部屋が未だ明かりを点けず暗いままであったことに感謝した。
彼は今、自覚出来るほどに顔が青い。
武蔵が過去に戻る時、いつもこうして魘されていたのだ。
それで毎回、信濃は兄を心配して起きてきていた。
こっそり行動出来ていた、など彼の自惚れだったのだ。
「信濃」
「なーに?」
これから100年間、離れ離れとなる妹。
下手な事を言えば攻撃してくることから、彼女に伝えることは出来ない。
武蔵は信濃を抱きしめて、額に小さく口づけした。
「寝ろ」
「……はぁーい」
ふわぁ、と欠伸をしてベッドに潜り込む信濃。
それが演技であることを、血縁である武蔵は当然察している。
武蔵の様子がおかしいことに気付き、その上で信濃は沈黙を選んだのだ。
いっそ、全てを語りたい。何度も繰り返した100年の献身に感謝したい。
それでも、何も語るなというのが100年後の彼女の望みなのだ。
「おやすみ、信濃」
「んーっ……」
武蔵はなんてこともないように、妹の部屋の扉を閉めて。
100年間の離別を、また開始した。
信濃に気付かれないように、玄関前で如月双子を出迎えることにした武蔵。
しかし、いくら待てど彼女達は現れない。
「―――こねーな、意外とご近所さんだから、毎度すぐ来るのに」
今回は時雨対策の罠はしていない。
手紙などは、全て書き終えている。
もう動いていいのだが、肝心の双子が現れない。
仕方がないので、武蔵は車を出して迎えに行くことにした。
「オートマ車はほんと慣れないな」
これまで乗った車がほとんどガソリンか石炭だったので、ミッションのない自動車はどうにも違和感のある武蔵だ。
夜の住宅街を少し走ると、やがて双子の実家に辿り着く。
勝手知ったる他人の家、物置から梯子を取り出して二階に上り、工具で窓を破る。
そして中を見ると、如月秋月と如月霜月が普通に目を醒ましていた。
「あっ。ああっ! すきっ、すきぃっ!」
「あーっ。あっ、ああっっ!」
如月双子はレズセックスをしていた。
姉妹のじゃれ合いというレベルではない、ガチの性行為だ。
さてどうしたものかと武蔵は悩む。
どうしてこうなったのかについては、三笠からも指摘が成されていた。
首の切断を経験した如月双子は、精神に何かしらの支障を来してるかもしれない―――と。
それで何故レズセックス、と疑問を抱く者もいるであろう。
だが、強いストレスを感じた生物が同性愛を行うのは珍しいことではないのだ。
軍隊にはホモが多いという話があるが、人間に限らず動物社会の中でもストレスから同性愛に走ることは珍しくはない。
コミュニケーションの一環、ストレスの解消、単純な快楽行為。
理由は様々だが、様々な理由からあらゆる動物は同性間の性行為に耽る。
武蔵も同性の由良と性行為に及ぶことはあるし、花純と妙子がこっそりキスしていたのを見たこともある。
元々同じ高校3年生ということもあり仲良しだった二人であるが、見た時は大きな感動を覚えた武蔵であった。
とかく、この性行為は不用意に止めるべきではない。
今は好きにさせておくべきだ。
だから、武蔵は止めない。
ただ、こう提案するだけだ。
武蔵は窓をそっと開き、汗に濡れた2人に声をかける。
「俺も混ぜてよ」




