第5話 翌日のエゴサ!
レインボーティアラを直に触れて、見て、満足した翌日。シャルは、学校で昨夜のニュースの記事をスマホで読んでニヤついていた。
また少し、怪盗ヒーロープリンセスの存在が知らしめれて浮き足立っているのだ。今はまだ、日本国内でしか名が知れ渡ってないが、いつしか世界中から注目される大物になるその日まで、シャルの活動は続くていく。
「おっ!昨日の記事、早速読んでるなー!流石オタクだ」
背後からスッと現れては、シャルのスマホの画面を覗き見するのは楽太だった。怪盗ヒーロープリンセスに関する事になると敏感。
俺も読んでるぜ、と言わんばかりに楽太も自分のスマホの画面をシャルに見せびらかす。
「やっぱ、プリンセスは最高だよな!一度会ってみたいっていう気もするが、シャルはどう思う?」
「え、あー……私も会えるのでしたら、会ってみたいですね!」
なんて言って誤魔化したが、そのプリンセスというのが自分自身なのだ。楽太も可哀想な人だ。その最高なプリンセスは、今彼の目の前に居るというのに。
こんなにも熱烈になっている楽太からこそ、余計にそう思ってしまう。彼以上に、夢中になっているファンをシャルは見た事がない。
「六花もそう思うだろ?な!」
「そこで私を巻き込まないでくれる?けれど、確かに一度はお目に掛かりたいかなーって思うよ」
「だろ!こういう話が出来るのが、お前らだけだから嬉しいぜ!」
楽太の周りには、そういう話にはついて来てくれない。ファンであって、追っ掛けではないのだ。皆口を揃えて「無理無理。宝くじよりかは可能性あるけど、結局は運だろ?」なんて言って終わる。
ちょっとでも共感してくれる2人は、楽太にとっては大きな存在だ。
「考えるだけならタダ。夢もロマンの欠片も無い奴らと違って助かるぜ」
「あ、ごめんね。私、そこまで持ち合わせてないから」
2人のやり取りを見て微笑ましく思っていると、シャルの肩を誰かが突いてきた。誰なのかと思い振り返ると、滅多にシャルの教室に訪れる事はない政宗が居た。
珍しい事もあるんだと、シャルは表情が一気に明るくなりほんわかした気持ちが溢れる。
「政宗さん、ご機嫌よう!わざわざ訪問までして来るという事は、大事な用事があるのでしょうか?」
「半分そうだな。先生がプランターを移動させたいから、園芸部手伝ってくれって頼まれたんだ。だから行くぞ」
「それなら仕方ありませんね。では、お2人もまた後で」
手を軽くひらひらとさせて、六花と楽太と分かれて政宗の後をついて行く。
その様子を見ていた2人は、ある生き物を連想させていた。
「毎回思うけどよ、まるでアヒルだな。シャルも真面目だよな。政宗の奴にホイホイついて行く」
「それがシャルの良いところだけどね」
////////
政宗に頼まれて、二列に並びながらプランター運びに勤しむシャル。土も一緒に入っている為に、台車を使っているが少々時間が掛かりそう。
あと2回は往復しないと終わらない。ただ黙って移動するのも勿体無いと思い、昨日の事を話題に出して喋り掛ける。
「政宗さん、昨夜の──」
「親父が嘆いていたよ。またやられたって。警察官としての面目が丸潰れってな」
遮る様に政宗が喋ったのは、嫌味を含まれたもの。シャルは押し黙ってしまう。
政宗の父親は、あの國枝警部なのだ。家に帰れば愚痴の一つくらい溢したくなるものだ。しかも、家族である政宗もそれを耳にしない訳じゃない。
そんな事を言わせる為に、いつも話し掛けている訳ではない。いや、そうさせてしまった事には違いない。気にするなというのが無理である。
もし、その様な愚痴が積もりに積もって家庭内崩壊を起こしてしまったらゾッとする。暫くは、政宗の前で怪盗ヒーロープリンセスについては喋らないと誓う時、
「でもな、親父結構楽しそうだった。悔しい反面、逆に燃えるって事なのか?俺にはその気持ちは分からないけど、多分そうなんだろう」
「それは…良かったと言うべきですかね?」
心配していたが、当の本人はよりやる気に満ち溢れているとのこと。落ち込んでいるよりかは幾分マシだが。
「良いんじゃないのか?分からないって言ったけど、嫌いではないし。親父がそれで良いって言うなら、それで良いんだよ」
それを聞いて少しは楽になった。良かったと。
シャルの足取りはいつもより軽く、そして、勢い余って転倒して土の入ったプランターごと台車をひっくり返すのであった。
廊下は土まみれとなって大惨事。一緒に後片付けを手伝ってくれる政宗の痛い視線を受けながら、廊下を綺麗にするのだった。
怪盗ヒーローメモ
政宗は盆栽を趣味としている。