ポンコツの新入社員 【月夜譚No.223】
ほど良いポンコツさが可愛かったりするのだ。完璧な人間は有能かもしれないが、それでは面白味がないし、人間らしさというものも希薄だろう。
しかしながら、あくまで〝ほど良い〟ポンコツさが重要なのである。度を過ぎたポンコツは、寧ろ他人を不快にさせるマシーンになりかねない。
パソコンの画面を睨みつけていた俺は、一度キーボードから手を離して目頭を指で挟んだ。隣から泣き声に近い音がして振り向くと、新入社員の青年がひたすら頭を下げていた。
俺は手を振って苦笑を浮かべ、再び画面を見つめる。
彼が入社してから一ヶ月経つが、その間にそれはもうバラエティーに富んだ失敗を幾つも起こしていた。その尻拭いに他の社員が駆り出され、仕事が滞ることも多々あった。
彼も反省はしているようだが、失敗は免れないようだ。これはもう、無能というより呪いに近いのかもしれない。
俺は溜め息を喉の奥で留め、彼が消してしまったプログラムの再構成に集中する。
その時、視界の端に何かが置かれて顔を上げると、彼が申し訳なさそうに立っていた。デスクに目を落とすと、そこにはおしるこの缶が。
きっとコーヒーかお茶を買おうとして間違え、しかし買い直そうにもおしるこで手持ちが底を尽きたのだろう。
俺は少しだけ噴き出してしまい、しかし有難く糖分補給をさせてもらうことにする。
仕事はできない後輩だが、嫌いになり切れないのだから、不思議なものである。