私が松井をフった理由(視点:木上 遊花)
私の名前は木上 遊花。
今夜は新しい彼と初デートなのだが……行きたくない。
彼の名前は松井 和樹。
和樹との待ち合わせは17時だったけど4時間経っても和樹からの鬼連絡が止む気配はない。
時刻は、まもなく21時。
待ち合わせ場所は鹿児島中央駅、若き薩摩の群像前。
本当……ウザ!
何度目の着信だろう……電話に出た私は
「……別れよう」
別れを切り出す。
「そうか」
つまんな……もっと狼狽えろよ!
「和樹とは、あわないなって……」
つーかさ
「そうか」
朴念仁か!
「和樹の趣味なんだけどさ……」
思い出すと虫酸が走る。
「俺の……趣味?」
一拍おいて
「私、アイドルオタクとか無理!」
とうとう言ってやったわ!
「そうか」
侮蔑を含んだ声音で私は続ける。
「この間、和樹の家に行った時? 壁に貼っていた、アイドルのポスター……マジ引くわー!」
そう私が和樹の家に遊びに行った時の事。
和樹の部屋中、壁一面に隙間なく貼られていたポスター……私が大嫌いなアイドルのポスターだった。
あのときから私は和樹への返事が面倒になり、今日のデートの打ち合わせだってマトモに聞いてなかった。
「私、アンタがあんなキモいの好きな人だって思わなかった。マジ、もう無理」
「……」
返事がなくなった……電話を切ってLINEでメッセージを送る。
[ってかLINEのアイコンがアイドルとか、どうかしてるw]
マジで無理……
[アイドルにガチ恋とか、正気?]
誰彼構わず「好きだよ」て言うアイドルにガチ恋だなんて正気じゃないよね!
「……」
トドメを刺そう。
[じゃあね、もう2度と話しかけないで!]
まったく罰ゲームでもなきゃ、そもそも和樹と付き合わなかったんだよね……別れる理由を早々に見つけられて良かった!
次話、書き下ろしです。