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3話~フライヤの説得~

我々は気づかない内に誰かの善意を蔑ろにしてしまっている。

そしてそれは、人以外も同じ。

 自分が幼体のドラゴンを観察し始めてから、すでに数十分が経過していた。

 ドラゴンの方は一向に人型になる気配を見せず、狩場があるのか何度も姿を現した方向へと姿を消しては獲物を持って戻ってきていた。

 正直、まったくといっていいほどに動きを見せないドラゴンの観察に飽き始めていた自分は、そろそろ王都へ戻ろうかと考え始めた。

 これで最後にしよう。

 あまりの暇さ加減も相まって、この一往復を見届けたら去ってしまおうと自分が考えていると、急にドラゴンが大きな溜息を吐いた。


(……? いきなりどうした?)


 不意にドラゴンが見せた動きに喰いつく自分。

 直後、寂しそうに空を見上げたドラゴンの姿に既視感を覚える。


 ――フライヤだ。


 そう自分が思ったのはほとんど直感だった。

 なぜかは分からない。なぜかは分からないが、理屈では説明のつかない確信が自分にはあった。

 直後、衝動のままに身を隠していた茂みから姿を現す自分。


「カア」(やっと見つけたぞ)


 姿を現したと同時に声をかける。

 対するドラゴンの方は、急に茂みから自分が出てきて驚いたのだろう。

 驚愕する視線をこちらに向けると共に、警戒するように口元へと火炎玉を作り出した。

 そのまま二人で対峙する。

 世界の食物連鎖の頂点ともいえるドラゴンと、その覇者には気にもされないであろう道端の石ころである烏。

 この両者が対峙したまま過ぎていく時間は、狩る側と狩られる側といった緊張感から来る焦りは無いものの、長い沈黙と共に流れるあまりにも気まずい空気は、それ以上に自分の心を焦らせてきた。


「カア」(さっきは悪かった)


「おぬしが悪い!」


 直後、ほぼ同時に自分とドラゴン――フライヤが声を上げた。

 互いに重なる声。

 謝った自分とは異なり、あくまでも自分に非は無いと主張するフライヤは、これだけ見るとなんとなく混ざり合いそうな雰囲気だった。

 だが、目の前にいるフライヤの方はかなり怒っているようであり、決して許すことは無いといった態度を見せていた。――今の状況を例えるなら、自分が水でフライヤが油のような状態だろう。

 勿論こんな反応は予想通りだったし、今回のことは自分に非があると思っている。だからこそ、こうして謝罪するためにフライヤのことを探したのだ。簡単に諦めるつもりはない。


「カア、カア」(分かってる。だから、謝りたくてフライヤのことを探してたんだ)


 正直に伝える自分。だがフライヤの方はそもそも自分の話を聞くつもりが無いのか、紫紺ヴァイオレットの瞳で自分を睨みつけてきた。

 フレイヤから向けられる、初めて敵対意思を孕んだ鋭い眼光。それによって心臓をわし掴みにされているような感覚を覚えた自分は、内心で冷や汗を掻き始める。


(大丈夫だ、こんなことは前もあっただろう)


 引きこもっていた同僚の弟と話をした時と同じだ。正直、あの時は本当に精神的に病みかけたが、なんとか弟君を立ち直らせただろう。――だから、今回も大丈夫だ。

 以前あった、本格的にやばかった出来事を思い出しながら自己暗示をかける。

 慎重に、でも寄り添うように。そして巧妙に導け。それが交渉事でなにかと上手くいく秘訣だ。

 ――大丈夫、今回も大丈夫だ。


「カア」(ここで住んでるのか?)


「……そうじゃ。用がないなら帰ってくれ」


 凛と響く、冷たい声。明らかに警戒していることの分かるフライヤの態度に、自分は一度周囲を見渡した。

 遠くから見ているだけでは分からなかった、何年も使い込まれているらしい寝床。

 長いこと使っているのだろう、獲物を貯めていた場所にある丸太は、所々に虫に入られたような跡が開いており、気を付けなければ簡単に倒壊しそうだ。

 その隣にある小さな池は、補修したらしき箇所に形の不揃いな石がいくつも積み上げられていた。

 ――きっと、フライヤはずっとここで暮らしてきたんだろう。

 王都で両親に申し訳ないとも言っていた。おそらく、何かが原因でここで暮らしているんだ。


「カア、カア」(そうか。だとしたら、凄いな)


「凄い、じゃと? それはわらわを嘲笑っておるのか?」


「カア」(まさか)


 相も変わらず鋭い視線を向けるフライヤに対し、首を振る。


「カア、カア?」(だって、この前言ってただろう? まだ50歳だって。だって、人間からしたら10歳くらいの子供が自分一人で生活してるんだ、十分すごいだろう?)


「わらわにとってはこれが普通じゃ。――もう、何十年もな」


「カア」(何十年も一人って寂しくないか?)


「普通をなぜ寂しく思わねばならん」


「カア」(孤独が普通、か)


「普通じゃ。――もう用が無いなら帰ってくれ」


 褒めてみる方向で話題を振ってみたものの、取り付く島も見せない様子のフライヤにどうするか考え始める。

 だが大していい話題も出てこなかった自分は、この際ストレートにぶつかってみることにした。

 ――デスペナ?それで済むなら甘んじて受けようじゃないか。


「カア、カア」(残念だが、こっちの用は済んでないんでな、まだ帰るつもりはない)


「わらわは済んだ」


「カア」(なら、ここから先は全部自分の独り言だ。聞くかはフライヤに任せる)


 独り言といったのが功を奏したのか、それとも聞くつもりが無いのか。

 自分の元を離れたフライヤが忌々しそうに呟きながらこちらに背中を向けた。

 だが自分は気にすることなく話し始める。


「カア、カア、カア」(さっき王都の郊外でフライヤがやってくれたことは自分のためだって分かってる。だけど自分は逃げ出してフライヤと距離を置くような行動をしてしまった)


 まずは何が悪いと思っているか。そして、それに対してどう思っているか。それをはっきりと伝えないと、誠意を伝えるのは難しい。

 正直、自分のとっている行動は諸刃の剣だ。

 なぜなら、これでフライヤが話を全く聞いていなければ意味は無いからだ。


「カア」(だから自分は、フライヤに礼を言って謝りたいんだ)


 だが今はそんなことは気にしない。

 ただ、自分の思っていることをはっきりと伝える。あくまでも自分の今の主目的は謝意を伝えることなんだから。

 そしてあわよくば、フライヤが自分と話をする気になってくれというところだ。

 自分の台詞を最後に、再度訪れる沈黙。それは果たして、フライヤが自分にかける言葉を考えているのか、それともはなから聞いていなかったのか――

 自分がその答えを知るには、フライヤの反応を窺うしかなかった。


「…………謝意は受け取ろう。じゃが、わらわとおぬしはこれっきりじゃ。だから、もう二度とこの森に近づくでない」


 沈黙が続くこと数分。

 どうやらフライヤは自分の話を聞いてくれていたようで、やがて返ってきた言葉に内心でガッツポーズをする。

 だが残念ながら、得られたのは最良の結果ではない。良し悪しのどちらかというと、悪い方だ。

 そしてそれと付随して、狩場になるであろうこの森に入れなくなるのは困る。


「……カア、カア」(……わかった。けど、自分のステータスじゃこの森か草原くらいが精いっぱいなんでな、ちょくちょく森には入らせてもらう)


「……好きにせよ。じゃが、今度見かけたら焼き殺すからな」


 そのため咄嗟に交渉をしてみると、案外上手くいったらしく、森で狩りを出来るようになった。

 とりあえず、これで目的は果たした。

 そう考えた自分が、その場を去ろうとすると――


「そうじゃ、そこの食糧庫の中から好きな魔物を喰らえ。そうすればおぬしの「メグマレタモノ」とやらは消えるじゃろう」


 思い出したかのようにフライヤが口を開き、先ほど狩っていた獲物を入れていた、丸太で組まれた場所を示す。


(……これで完全に縁切りにするぞっていうことか)


 フライヤのとったその行動をそう捉えた自分は、これを「メグマレタモノ」という鬼畜デバフを安全に解除できるであろう最後のチャンスと考え、フライヤの提案に乗った。

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