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2話~捜索のお時間~

一期一会。

 王都・ラドニスカの上空。

 教会らしき建物の屋根で青空を眺めていた自分は、思い立ったままに空を飛んでいた。

 特に理由は無い。だがおそらく、理由にしたくないだけで原因には心当たりしかなかった。

 何も考えずにぼんやりと飛ぶ空は何とも味気なく、それでいて余計な考えを全て消し去ってくれる。ただし、それは同時に大事なことも忘れてしまうようで、気づけば自分は、なぜこうして空を飛んでいたのか分からなくなっていた。

 衝動のままに、とか思えればよかったんだろう。

 けれども、それで済ませるのはなんとなく駄目だと考えた自分は、自分の行動について考え始めていた。


(そうだ、もう少しで「メグマレタモノ」を……)


 そうして、あともう少しで現状最悪のデバフを解除できる直前に居たことに気づき、それと同時にその状況を作り出してくれたフライヤに失礼な態度を取ってしまったことに気づいた。


(そうだ、フライヤ!)


 慌てて自分はフライヤに念話を届けようとする。

 だがかなり離れた位置に居るのか、それともフライヤから拒否されているのか――

どちらにしろ念話が届いた様子はなく、自分の中にわずかに焦りが生まれた。

 その直後、眼下へとここ数日の間にすっかり見慣れた少女らしき姿が映り、自分は一気にその少女の元へ向かおうとする。だが――


(待て、この距離なら念話は届くはず……だとすれば、あいつから拒否しているってことにならないか……?)


 先ほどの自分の念話に反応が無かったことに不安を覚え、思わずためらってしまった。だがその直後、自分はそれでもいいから彼女の元へ向かえば良かったと後悔してしまった。

 急に振り返ったかと思うと、人混みの中へと消えていく少女。それによって完全に姿を見失った自分は、自分の決断力の無さに内心で腹を立てた。

 だが、そうしている間にもフライヤらしき少女は自分から離れている。

 ――なら、するべきことは一つ。


(人違いでもいいから探そう。もしも違ったらその時はその時だ)


 そう考えた自分は、少女が消えた方向へと飛んで行ったのだった。




(くそ、どこに行ったんだ……?)


 王都・ラドニスカの上空を飛び回っていた自分は、都市を一周してもフライヤが見つからなかったことに、少なくない焦りを覚えていた。

 フライヤの姿は小さな少女である上に、周囲にあまりいない、蒼の映えそうな銀髪だった。

 だからこそ、上空からでも簡単に見つかりやすいはずなのだが――


(見つからないな……もう町を出たのか?)


 それでも見つからなかったことから、既に都市から出て行った後なのでは、と考える。

 だが、もしそうだとすれば、()()()()()()()()()()が重要だ。なぜなら、王都・ラドニスカは東西南北どの方面にも街道が続いるからだ。

 だからこそ、ここで間違えるとフライヤを追うことはまず不可能になるだろう。


(考えろ、フライヤが行きそうな場所……。もしも自分が同じ立場ならどうする)


 元の森へ戻る。別の場所へ向かう。見つけてくれると信じ、どこか分かりやすい場所で待つ――

 自分とフライヤはまだ出会って数日も立っていない。

 だからこそ、フライヤと同じ状況に自分が置かれたと仮定し、取りそうな行動をどんどんとピックアップしていく。

 そうして行き着いたのは。


(……初めて会った森に行ってみよう)


 フライヤが既に王都を出て、生まれ育ったであろう森へと戻ったという考えだった。

 兵は神速を尊ぶ。用い方は少し違うが、今はその言葉のように急ぐべきだ。

 そうして自分は、王都を出て西側にある森へと向かったのだった。




 再度訪れた森は数日前に訪れた時と変わらないようで、生き物の居る気配が全然しない、何とも薄気味悪い気配のまま自分を出迎えていた。


「カア……」(相も変わらず気味悪いな……)


 風で木の葉が擦れる音以外何も聞こえてこない森の中を見る。

 正直、ここで突っ立てていても何も変わらない。

 それは分かっているのだが、もしフライヤがここに居た時になんて声をかければいいだろうかと思うと、思わず足が止まってしまっていた。


(行くか)


 一度大きく深呼吸。そうして意を決したように動き始めた自分は、以前の記憶を頼りに森の中を進んでいく。

 幾度も同じ光景を見送りながら進んでいた自分は、どこで道を道を間違えたのか、始めの場所へとやってきていた。

 森の中の、不自然に開けた空間。

 大人のドラゴンが悠々と寝転がれそうなほどに広いその場所では、誰かが生活をしているのか、落ち葉などを敷き詰めた寝床らしきものがあった。

 大きさは大体1LDKのアパートの一室くらいの大きさがあり、あの寝床の範囲だけでも人間一人が生活できるスペースは作れそうなほどに広い。

 その傍には、切り倒した丸太で組んだ、食料を貯蔵しているらしき場所。それと飲み水などに使っていそうな小さな池があった。


(……誰か住んでそうだな)


 衣食住の内、食と住の二つを満たしているその空間に、誰かが住んでいると確信した自分が足元を確認すると、自分くらいの大きさの足跡がいくつも残っていた。

 おそらく、寝床や足跡の大きさからみてメートル単位の大きさの生き物だ。……おそらく、見つかったら命は無いだろう。


(なら、ここの家主に会う前に退散した方がいいかもしれないな)


 状況証拠からそう考えた自分は、すぐにここから立ち去ろうと動き出す。だが、その直後、足の裏へと小さな振動が伝わってきた。


 ――やばい、家主が戻ってきた。


 ズシン、ズシン、と一度振動が伝わってくる度に、ここの家主が近づいてきているのを感じる。

 今から飛んでいくのはおそらく間に合わない。かといって、このまま動いたら鉢合わせする可能性がある。

 だが幸いにも振動の発生源は自分の来た方向とは正反対らしく、このまま動かなければ見つかる可能性は低かった。


(ここは隠れよう。そのあと、隙を見て逃げ出すしかない)


 そうして消去法的に行動を決定すると、機会を窺うために出来る限り広場の方が見える位置に陣取った。

 そのまま待つこと数分。

 やがて広場に姿を現したのは、一体のドラゴンだった。

 蒼く美しい、クリスタルのような鱗。そこから覗く紫紺ヴァイオレットの瞳は透き通るように美しく、その姿はまさに「生ける宝石」と呼ぶにふさわしかった。

 だがそこで、自分は視界に映ったドラゴンに違和感を抱いた。

 ――なんとなくだが、どこか小さかったのだ。

 FLOのドラゴンの成体がどのくらいの大きさなのかまでは知らないが、今自分の視界に映るドラゴンは、以前、初めて出会った時に見たフライヤのドラゴン姿のように小さかった。


(おそらく、幼体なんだろうな)


 まだ子供だと言っていたフライヤと同じサイズだったことから、目の前に居るドラゴンがまだ子供の個体なのだろう、と断定する。


(そういえば、ドラゴンって人型になった時も瞳って同じ色なのかな?)


 我が家へと帰ってきたドラゴンの様子を眺めながら、ふとそんなことを思う。

 実は以前、フライヤと初めて会った時は今ほど視界が良好ではなく、瞳の色や鱗の色までよく分からなかった。

 だが、人型の時のフライヤは、間違いなく目の前に居るドラゴンと同じ紫紺の瞳だった。それに、あの鱗の色はフライヤの髪色によく似ている。

 おまけに、大抵ドラゴンが人の姿になったときはその辺は同じ、というのがお約束だ。

 ――つまり、目の前であのドラゴンが人型になればほぼ確定なのでは?


(――ちょっと観察してみるか)


 そうしてなんとなく好奇心のうずいた自分は、そのままそこでドラゴンの観察をすることにしたのだった。

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