1話~逃避。~
今話から2章のスタートです!
雲一つない晴天の空へ、突如として黒雲が立ち込める。
今にも大地へと落ちてきそうなほどに重苦しい色をした黒雲は、自身を召喚した存在の意思に従い、自らの敵たる一羽の烏へと雷撃を落とした。
――ピシャッ、ドォオン……!
腹の底を揺らすような重低音と共に地面へと落ちる雷撃。それが音を立てた直後、落雷を受けたらしき黒い塊が地面へと横たわっていた。
わずかに鳴動することも分からないほどに跡形もなく焼けただれ、炭のようになっていた塊。
それを視界に収めた、落雷を発生させた張本人である、百獣の王・ライオンですら一突きでこの世から永遠に退場させられそうなほどに鋭い角を持つ、牛型の魔物。
いわゆる「モンスター」といわれる存在の魔物は、黒焦げになった敵対生物に対し、満足そうに鼻を鳴らした。
『一番簡単なのは魔物どもを狩ることではないか?』
フライヤと町を歩いた翌日。
自分のステータスに掛かっている最大のデバフである「メグマレタモノ」を解除するために「ラドニスカ」という王都の郊外を飛び回っていた自分は、直下を歩く幼女の姿をしたドラゴン・フライヤの提案を念話で聞いた直後だった。
『抵抗されたら自分のステータスじゃ倒せないんだけど』
『わらわもおる以上心配はなかろう。むしろ、精神的には家畜どもよりも抵抗は無いと思うぞ?』
自分が狙っていた獲物である家畜よりもモンスター共の方がマシだというフライヤの台詞に、自分はどうにかそれを避けようと視線を向ける。
『でもどっちも生き物だろ? ゲテモノならまだしも、生き物らしい見た目のを……』
『ゲテモノなら良いと申すか。なら、わらわの知っている中で最も気持ち悪い――』
『それはパス』
なんとなく――いや、全身の毛穴から嫌な予感がした自分は、即座にフライヤの台詞を遮った。
そしてその判断は正解だったようで、フライヤは「なんじゃ、ノリの悪い……」と呟いた。
(食うなら大人。出来れば同情しない……)
同情しない、出来れば生き物っぽくない出で立ちのモンスター。
そこまで行きついた自分は、そこで「初めからゲテモノのモンスターでもいいから狩って「メグマレタモノ」を解除すればよかった」と後悔することとなった。
王都・ラドニスカの郊外。現実時間で昨日、ゲーム内で数日が経ったにも関わらず、以前訪れた時と姿の変わらない風景に、ゲーム世界でありながらなんとなく気味の悪さを感じていた。
そのせいか、自分は昨日フライヤとした会話を思い出し、半ば「あとの祭り」となった状況に、無意味と知りながらも抗うような策を考え始めていた。
だがこれといった有効な策を思いつくことは無く、自分はフライヤと共にラドニスカ郊外へと足を運ぶ。
思わず自分の浅慮さを嘆く。
(なんで気づけなかったんだ……)
最初の段階で気づけなかった事と、自分の口にした内容に、今更になって後悔している自分の脳に対し、頭を抱える。
だが自分の意思とは裏腹に時間は進んでいくようで、少しするとフライヤが数体のモンスターの群れを引き連れながら自分の元へと戻ってきた。
自分と目が合った途端、フライヤが悪い笑みを浮かべる。
「さあ、こやつらを倒し、肉を喰らえ。そうすればおぬしを苦しめる一番の問題は解決しよう」
目が合った途端、フライヤが狂気に染まったような台詞を口にする。
「カアッ!」(いやいやいや、無理無理無理ッ!)
だがどこか愉快そうなフライヤとは対照的に、まるで押してくる波のように迫るモンスター達に、自分は完全にビビってしまっていた。
「ふむ、ならば――」
直後、フライヤの手で続々と退場していくモンスター達。
「さあ、これで問題は無かろう」
そうして自分の元へ迫ってきていたモンスターの内、気を失ったらしきモンスターの上に降り立ちながら、フライヤが嬉々とした様子で呟く。
だが、自分の都合で命を奪ってしまうことにどうしても忌避感を覚える。
「カアっ!」(やっぱり無理っ!)
直後、逃げ出すようにその場から飛び立つ自分。
そうしてゲーム開始初日に降り立った、ラドニスカにある教会らしき建物の屋上へと降り立つと、自分は現実逃避をするように青空を眺めたのだった。
王都・ラドニスカの城下町。
その中にある教会らしき建物の前で、人の姿をとっていたフライヤが上空に見えた黒い小さな点を見つめていた。
(そんなに嫌なことなのかのう)
彼女が見つめる先に居た小さな黒い点は、まるで現実から逃避するように空を飛び回っており、その原因を知っている彼女は内心で溜息を吐くと共に、自身の行動を振り返り始める。
シナノと名乗る、念話のようにしゃべる烏。
喋る烏という、明らかにこの世に生を受けてきた生命とは思えない彼に、フライヤはいつも独りぼっちな自分をどこかで重ねていた。
そのため色々と手助けをしようと息巻きあの手この手を尽くしたのだが、結果として、彼女はまた一人となってしまった。
もう、自分は永遠に一人で居るしかないのだ――
そう考えたフライヤは、最後にシナノが居るであろう場所へと足を運んだのだった。
(まあ、もう関わることはなかろうて)
空を舞う、一羽の孤独な烏。その光景を見納めるように天を仰いでいたフライヤが、不意に視線を落とす。
なんとなく、ほんの少しだけ熱く感じる目頭。
その熱を冷ますように歩き出したフライヤは、やがて人混みの中へとその姿を消したのだった。
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