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6話~王都での出来事~

人は陸に生まれ、蒼に憧れる。

 昨日立ち寄った町へと舞い戻ってきた自分は、強制イベント的な何かで仲間になった幼女の姿をしたドラゴンと共に町を歩いていた。

 以前――というか、昨日来たときは上空から町を眺めた程度に終わったのだが、改めて近くで見てみると、どうやらこの町はかなり栄えている町らしく、多少小さな道でもひっきりなしに人々が行きかっている様子が窺える。


「ここは「王都・ラドニスカ」というらしい。わらわもよくは知らぬが、なんでもいにしえの時代から残る都市らしいぞ」


「カア」(古……ってどのくらい前なんだ?)


「分かっておるだけでざっと数千年前じゃの。さすがに(よわい)五十の幼龍たるわらわでは答えられんぞ?」


 数千年……下手をすれば人類史よりも長いんじゃないのか? ――いや、待て? 今こいつ「齢五十」って言ったか? ドラゴンがいくつくらいで成人――もとい成龍なのかは知らないが、もしも年齢と人型時の見た目が一致するならかなり幼い部類に入るとおもうんだが。


「カア、カア、カア」(その古の時代とやらも気になるけど、それよりもドラゴンの成人基準の方が気になる)


「我らの成人基準? 遅くとも二百歳くらいとは言われとるが……それは行き遅れた阿呆どもの基準じゃのう。わらわの知る範囲では七十で婚約して百まで続いて子が成せれば大人とは言われておるのう」


「カ、カア……」(そ、そう。……あまり聞きたくなかったかもしれない……)


 おそらく、ドラゴン達の百歳が自分たちで言う子供が出来るような年齢のことを指しているんだろう。だとすれば、今年で20代前半の最後の年になる自分はドラゴン基準なら相当遅れているんだろう。――うん、言ってて寂しくなってきた。

 だが話の通りであれば、百歳のドラゴンで大体二十歳前後、若ければ十八歳前後といったところか。寿命が長い印象のあるドラゴンの割にはかなり早い結婚だな。

 だが自分はそこで気づけなかった。――自分と一緒にいるドラゴンが、つい先ほど「五十歳」と言っていたことに。


「そしてわらわくらいの年であれば、普通は子を成す相手を探す年頃じゃ。まあ、そんな時期に婚姻相手を探していないわらわはよほどの馬鹿じゃのう」


 そうして自虐気味に笑い声を上げるドラゴン。そう、こいつの年頃のドラゴンは、貴族の子供たちが()()()()()()()()()()結婚相手を決めるのと同じなのだ。そんな時期にこんなことをしている――それは暗に()()()()()()()()と宣言しているのとほぼ同義なのだ。

 もちろん、その後次第ではその考えが変わることもある。だが、現状においてドラゴンのとっている行動は「結婚しません」宣言に等しい行動なのだ。しかも年頃の女子がそんな行動をしているとあれば、それがどれだけのことかは言わずもがなだろう。


「カア」(言ってて悲しくないか?)


「なに、もうわらわを拾ってくれるような輩は龍族にはおらぬからのう、長老たちにとってもちょうど良いじゃろう」


 自分の口にしたことに対し、意味ありげな台詞を返してくるドラゴン。その瞳は何かを諦めきった、どこか悲し気な雰囲気を湛えていた。――それだけで間違いなく何かを抱えていることはよく分かった。だが――


(下手に深入りしたところで、自分はこいつのことを何も知らない。ただ分かっているのは、やけに陽気で人の話を聞かないくせに何かを諦めていることだけだ)




 その後町を探索していた自分たちは、古の時代からあるという王都・ラドニスカにある冒険者組合ギルドへとやってきていた。

 五芒星状の西側にある冒険者組合には、肉体美の美しい男性や、すらっとした体躯から覗くいくつもの暗器。さらにはこれぞ冒険者といった出で立ちの男性など多くの人々が出入りしており、自分と幼女姿の――いや、幼女ドラゴンはその光景に若干押され気味だった。


「おお……あやつの筋肉はどうなっておる?あのような美しい肉体美……同族の中でも見たことが無いぞ……‼」


 数ある冒険者の中から、腹筋と背筋、そして肩甲骨の辺りが剥き出しになっているという特異な鎧を着た冒険者の筋肉を見て興奮し始めるドラゴン。


「カア」(ああ、女性と考えればかなり筋肉質だな)


「あれがわらわと同じ雌じゃと……?」


 自分の台詞に驚愕した声を上げるドラゴン。しかし、初めて……かは知らないが、あそこまで筋肉に興奮できるとは――こいつ、できる。


「カア」(おまえならあっちのも気に入るんじゃないか?)


 そうドラゴンに言いながら、自分たちの右前方に居た男性を視線で示す。

 ふっくらとした胸筋。そして六つに割れた腹筋、そしてそれらにアンバランスにならないように鍛え抜かれた上腕二頭筋や、服の上からもわかる、まるで丸太のような太さの太ももは、その筋力と肉体美がただならぬ努力で得られたことを証明していた。だが――


「雄か。悪いが、わらわは雄は軟弱な方が好みじゃ」


 こいつの好みに当たりそうな男性は、彼の知らないところであっけなく玉砕してしまう。だが、()()()()()()()()()()()()()()()ようで。


「じゃが、あの何人も寄せ付けなさそうな強靭な肉体きんにく、わらわも欲しいのう」


 好みではないと言い放った途端に、手のひらを返したような発言をするドラゴン。普通なら「素直じゃないな」とか言うんだろうが、こいつの場合は素で言っているがゆえに微妙に感情が読みずらいところがある。――まあ、これもゲーム内で出来る「異種族交流」や、現実で体感出来る「年の差交流」と考えれば大したことでもないが。ん? お前は二十代? 馬鹿野郎、十代――特に中高校生くらいからしたら自分くらいなんておっさんレベルだよ……体力的にもな……


「カア」(じゃ、じゃあおまえが良いと思うのはほかに居るのか?)


 すると、急に自分の台詞に対して不満そうな表情を浮かべるドラゴン。


「む……居ることは居るが、そろそろ「おまえ」や「こいつ」というのはどうにかならんのか。わらわにはちゃんと名前があるというのに」


 怒り心頭といった様子でいきなり自分の方を見てくるドラゴン。

 確かにこいつの名前を聞いたことはなかった――というより、お約束的なもので名前なんて無いと思い込んでいた。

 人間が子供に思いを込めて名前を付けるように、言葉が通じないだけで他の生き物――ペットとして一番多いであろう犬や猫だって、産みの親から名前を貰っている可能性だってあるわけだ。


「カア……」(すまん、悪かった……)


「構わん、おぬしに我が名を伝えていなかったわらわにも非はある。……だが、今後わらわのことを「おまえ」や「こいつ」で呼ぶでないぞ?」


「カア」(了解)


 肩を落としながら答えた自分に対し、まるで「気にするな」と言うような台詞を口にするドラゴン。


「うむ、それではわらわの名前を教える。――わらわの名は――」


 ――フライヤ。

 頭へと響く雑音のような、心地の良い鈴が鳴ったような――その両方が複雑に混ざり合い、結果として深みのある一音が鳴り響いたような感覚を覚える。

 そのこの世のあらゆる幸福をまとめたような、何といえない心地よさに、思わず脳内で反芻しながら聞き入ってしまう。――無理に例えるならそう、母親の腕の中と言えばいいだろうか、そんなすべてを優しく包み込んでくれるような感覚だ。


「我らの言葉で「母」「花」「幸せ」という意味らしい。――まあ、この名を授けてくれた両親には申し訳ないがな」


「カア」(なんでそんな風に思うんだ?)


 何とも言えない幸せな感情に包まれた自分は、ほぼ勢いのままにドラゴン――フライヤに尋ねる。だが直前にフライヤの複雑そうな心境を耳にした後で、そんな無神経なことを口にした自分を殴りたくなってしまう。


「カア」(すまん、忘れてくれ)


 申し訳なさからそれだけ伝え口ごもってしまう自分。だがフレイヤの方は大して気にした様子も無く――


「気にするでない。これはわらわの問題じゃ、おぬしが気にすることでは……ない」


 ということもなく、目尻へと涙を浮かべながら顔をくしゃくしゃに歪めていた。今にも泣きだしそうな幼い少女の顔。それを見て何もしないという選択肢は自分の中にはなかったようで――


「――カア」(――話したくなったら話せ。何を聞いても一緒に居てやる)


 自分の人生で初めての、歯の浮くような告白まがいな言葉を口にしたのだった。

pixiv、アルファ、なろう様同時で「My Diary」、アルファポリス様のみで「WORLD CREATE」を連載中です!


なろう様作品一覧→https://mypage.syosetu.com/mypage/novellist/userid/1620560/


アルファポリス様→https://www.alphapolis.co.jp/novel/51413550/969403698

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