4話~なんか変な奴に会いました~
人は陸に生まれ、蒼に憧れる。
森で餌を取ることをしばらくの間断念した自分。すると、今まで気にしていなかった周囲の状況が一気に脳裏へと流れ込んでいく。
(……なんだろう、今、寒気が――)
周囲の様子を感じ取った直後、背筋に悪寒が走る。だが自分が周囲を見渡しても、それらしき存在は見当たらなかった。
気のせいだったのだろうかと1人首を傾げる。
(……⁉ ――まただ。一体どこから?)
首を傾げた直後、再度背筋へと悪寒が走る。
その感覚に「狙われる側ってこんな感じなのだろうか」などという、呑気な考えが浮かんでしまう自分。
「おい、そこの。わらわを無視するとはいい度胸じゃのう」
そんな呑気なことを考えていた自分の耳へと、重低音のような、それでいてはっきりと聞き取れる言語が届いてくる。その言語は、自分がまともに理解できる言語である日本語だった。
「カア、カア!」(日本語だー!)
「お、おい。そんなに喜ぶでない。わらわの威厳が台無し――おい、聞いておるのか!」
キャラクターメイク時以来のゲーム中で会話が出来る存在に思わずテンションが上がってしまった自分は、そのまま小躍りしてしまう。いや、ゲームの中とはいえ、まさか言語が通じるだけでこんなに嬉しくなるなんて誰が予想できるよ? ――え? お前「カアカア」しか言ってない? ……通じればどうでもいいんだよ、そんなことは。
「おいこら! 少しは落ち着け……焼き殺すぞ!」
やがて小躍りし続けていた上に話を聞こうともしない自分に痺れを切らした様子の声の主が姿を現す。――口元に周辺の木々を焼き払えそうな灼熱の火球をこさえながら。
「カアッ!」(焼かないでッ!)
その姿を見てしまった自分は絶叫と共に硬直してしまう。
なぜなら自分の目の前に現れた存在は、銃弾ですら通しそうにない強靭な鱗を持ち、自分なんて一飲みで飲み込めそうなほどに巨大な口の中にある歯は頑強な鋼鉄ですら嚙み砕いてしまいそうなほどに鋭かったからだ。
そしてその肢体は、爬虫類であるトカゲに翼が生えたような姿をしており、鋭利な手足の爪は、刺されば一瞬の内に昇天できそうなほどに太く凶悪そうな見た目をしていた。
(どらごん……おわった……)
自分は硬直しながら、正面に現れた存在であるドラゴンを眺める。あんな凶悪そうな得物にやられたら、自分なんて一秒も経たずに胃の中へご招待されることだろう。それは何としても避けなければ……
「おぬし、どうやら普通の烏ではないようだな――と、この姿では威圧感に負けてしまうのか」
自分が硬直している理由を自分が威圧感に負けてビビっていると思ったらしく、その姿を人型へと変化させた。
「カアっ⁉」(よ、幼女⁉)
ドラゴンが取った人型の姿。それは10歳未満――それもせいぜい8歳もいっていればいいところの少女の姿だった。
「む? わらわの「でーたべーす」とやらでは、雄は皆このような子供の姿に興味を惹かれると載っておるが……違うのか?」
oh……あんたのデータベースはどうなってんだよ。ていうか、この世のどこに何があって全オスが子供の姿に惹かれるなんてことが載っているんだ。――あ、これはゲームの中だった……じゃなくて!
「カア、カアッ!」(んな訳があるか。明らかにあんたのデータベースとやらは間違ってる!)
「なに……龍族すべての叡智を集めた「でーたべーす」が間違っている、じゃと……」
なぜかショックを受ける幼女な見た目のドラゴン。いや、なんでショックを受けたのかも知らんし、そもそも「龍族の叡智」とやらは酷すぎないか? なんでそういう認識に至る記載があるんだ? ほぼすべての人間に対する冒涜行為だろ、これ。――いや、子供に保護欲がそそられないのかと言われれば「ノー」とは言えないが、こいつの場合は絶対に違う気がする。
「即座に新たな「でーた」を「あっぷ」じゃ。おぬし、助かったぞ」
ていうか、なんだ、この「SNS使い始めたばかりのおばあちゃん」感漂う発言は……ここゲームの中だよな?
「これで我ら龍族はまた賢うなった。しかとおぬしの教えてくれた「雄は幼女よりも年増のほうが興味がある」という内容、我が同胞と共有したぞ」
――ん?待て、こいつ、今なんて言った?「年増」がどうたらって聞こえたんだが……一応聞いてみよう、聞き間違いかもしれないから。――なんて考えていた時期が自分にもありました、はい。
「カア?」(ちょ、今なんて言った?)
「む?「雄は年増の方が興味がある」といったが……どうした?」
はい、この馬鹿ドラゴン、余計な所に喧嘩を売りながら虚偽の内容を仲間と共有しやがったー!
「カア、カア⁉」(待て待て、何をどう聞いたら今の会話でそういう結論になる⁉)
「幼女が嫌いであればそうなろう? おっと、わらわはおぬしのようなちっこい存在など好まぬから安心せい」
零か百しかねえのか、こいつ! 中間はどこ行った⁉ ――つか、後半は余計なお世話だこの野郎!
「カアッ!」(人間の常識をしっかりと教えてやるからそこに直れ! それと、今アップした内容は即座に訂正しろ!)
ほぼ怒りのままドラゴンに説教をしてしまう自分。
その後小一時間に渡って自分は幼女の姿をしたドラゴンに人の常識を教え込んだのだった。――今思えば焼き殺されてなくて本当に良かったと思う。普通に焼かれてても文句は言えない状態だったからなぁ。
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