3話~おうえぇぇぇ~
人は陸に生まれ、蒼に憧れる。
人種の集まる町を後にした自分は、先ほどまで居た町の郊外へと降りたっていた。
ひとまず周囲に見える草原の中から「メグマレタモノ」の解除条件である餌を探していると、町から続いている街道の方から人の声が聞こえてきた。
「――」
「――――」
3人組らしき人種の面々は、辺りを警戒する素振りを見せながら街道を進んでいた。
(……雰囲気的には面白そうな人種みたいだが、言語の分からない状態で近づきたくはないな)
今のまま近づけば、下手をすれば「獲物」と認識される可能性がある。プレイヤーが他プレイヤーを倒す行為――いわゆるPKは、幸いFLOには実装されていない。やたらリアル思考なゲームな割にそういった機能が無いということは、PK行為による無限デスループをさせないためとも、単純にゲーム内の治安を守るためとも言われている。――どちらにしろ、今後もPK機能の実装予定はないらしいので、永久に実装しないで欲しいところだ。
だがプレイヤー同士のキルは出来ないが、NPCとプレイヤーであればキルが成立してしまう。そのため、現在周囲にいる人種がNPCであれば、ほぼ間違いなく自分は倒されてしまうだろう。そして言い方を変えれば、それほどまでに烏族のステータスは低い。
(こういう時は逃げるが勝ちという。ならさっさとこの場を離れよう)
そう考えた自分は、ぴょんぴょん飛び跳ねながらその場を去ったのだった。
それから数分後。草原の中の内、人のこなさそうな場所までやってきた自分は「メグマレタモノ」を解除するために本格的に餌探しを始めていた。
(その辺で動き回ってるのが居れば楽なんだけれども、さすがにこんなに天敵から狙われるような場所じゃ見つからないよな)
周囲を見渡しながら餌となる虫を探す。だが、木一本すらない平原ではさすがに隠れる場所が少なすぎるのか、餌となりそうな虫は一匹たりとも見当たらなかった。
(もっと楽に見つかると思ってたんだけどな……もう少し足を延ばさないと駄目か)
あまりにも目的の存在が見つからず落胆した自分は、近くに見える森まで向かおうかと考える。が、そろそろプレイ時間が三時間を超えようとしていた。
なぜなら、あまりにもリアルなVRの世界に浸りすぎると現実との区別が曖昧になることがあるという症例が報告されていたからだ。そのため自分は「下手にゲームの世界に浸りすぎると危険」と考え、一日のプレイ時間を三時間までに制限しようと考えていた。
(まだ少しだけ時間に余裕はあるが……)
残った時間を確認しながら「メグマレタモノ」を解除できるかを考える。
正直なところ、早くこの余計なデバフを解除したいのだが、条件が条件だ、下手に沼にはまると抜け出せなくなりそうな気がしてしまう。
(……今日は諦めて明日にしよう。となれば、一度町に戻るか)
なんとなく嫌な予感のした自分は、時間が残り少ないことと、自分の直感を信じ町へ戻ることにしたのだった。
その翌日、再度「メグマレタモノ」を解除するために餌を探していた自分は、昨日諦めた草原と森林の境の地点に居た。
そこで周囲を見渡していた自分は、ふと視界の端に何かが動く様子を捉えた。
(餌だ。だけど・・・予想していたこととはいえ、芋虫を食べるのか・・・?)
自分の視界に映った存在に対して息を呑む。
(――これはあくまでも進行の為。そう考えれば――怖くはない!)
視界へと移った餌である芋虫に向け一目散に向かう自分。――もはや本能はゲームの種族である烏に支配されている。如何に芋虫が不味かろうと問題なく食べられるはずだ。
だが芋虫を口にした瞬間、自身の思い込みが非常に浅はかであったことを実感する。
「うええぇぇ……」
なんだ、この泥のような意味の分からない味は⁉
味は存在しない、ただ食欲を失わせるような、このなんとも言えない感覚。不味いとも言えず、美味いとも言えないこの複雑な心境。そう、これは――間違いなく珍味というレベルだ。――いや、珍味という称号ですら勿体ないほどに複雑というかなんというか……ただ一つ言えるのは、今すぐリバースしたいほどに気持ち悪いという一言だ。
「うおえぇぇぇ……ぇ」
その後、胃が口から飛び出そうなほどにリバースした自分はステータスを確認する。
(……やっぱりというかなんというか――もどしたから「メグマレタモノ」は消えてないな)
自分のステータスを確認した直後、静かに溜息を吐く。いや、一応自力で餌は取ったんだから消えててくれてもよかったんだがな……ていうか「餌を取る」っていう条件は満たしているだろ……鬼畜ゲーにもほどがあるぞ、運営。
心の中で運営に対して愚痴を呟きながら、次の獲物を探し始める。
だが周囲に餌となる存在はおらず、自分はただただ無意味な時間を過ごすことになった。
(森の中にまで来たのに居ないってどういうことだよ……)
そして現在、自分は昨日立ち入らなかった森の中にまで足を延ばしていた。
だが森の中にも餌となる存在はおらず、木々を飛び移りながら探していた自分は少なくない焦りを覚え始める。
(このまま見つからなかったらどうする……?)
まさか「メグマレタモノ」とずっと付き合っていく羽目になるのだろうか――だとすれば、自分のゲームライフは早速「お先真っ暗」状態になるんだが。
だが、例えそうなったとしてもどうにか出来るのはプレイヤースキルが必要なアクションゲームの良い点だ。
幸い自分には、一定値まで物理・魔法攻撃の威力を半減できるスキルと、即死系スキルを特定条件下で無効化出来るスキルがある。
圧倒的に低い耐久力とはいえ、このスキルがあればステータスが上がらなくとも、そこら辺の雑魚モンスターにはある程度対抗できるだろう。まあ、勝てるかどうかは別な点が痛いが。
とはいえ、最悪の状況になればこちらには翼がある。最悪不利になっても、飛んで逃げだせばデスペナを貰う確率は低い。
(デバフの解き方が曖昧な間は、下手に動かずに情報を吟味することも手かもしれないな)
その方がなんだかんだ言って安全策だし――
再度餌を口にする気が完全に失せた自分は、そうして逃げるように情報が出揃うことを待つことにしたのだった。
揚げ芋虫食べる?栄養満点だよ?
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