2話~烏になりました~
人は陸に生まれ、蒼に憧れる。
正式サービス開始のFLOの中へと無事ログインできた自分は、自分の体に酷く驚いていた。
(・・・どう見ても烏だ。じゃなくて、この姿は自分で決めたことだろ)
艶のかかった真っ黒な羽毛。そして体長はおそらく五十センチ代。羽毛に艶がかかっていることを考えると、自分の個体は大分良い環境で育ってきたんだろう。なぜなら、劣悪な環境だと鳥類の羽毛はボサボサになってしまう傾向があるからだ。
そしてここからは後日聞いた話だが、正式サービスの際には個体に応じて「生活環境」という概念が追加されたらしく、優遇種である人種系列でもかなりの落差があるそうだ。――つまるところのバランス調整というやつだろう。
だがベータ版の際に不遇種と言われた種族には大した調整は入っておらず、せいぜい一%未満の基礎ステータス向上と、他種にはない4つ目の基本スキルが追加されただけらしい。
そしてこの「生活環境」という概念はかなり恐ろしい概念のようで、一部の環境下で育った存在はかなりの迫害を受けるようだ。プレイ開始時には気づかなかったが、自分にもデバフがかかっており「メグマレタモノ」というデバフがかかっていた。
この「メグマレタモノ」というデバフは、なんと一定条件を満たすまでステータス上昇が無くなるという鬼畜レベルのものだった。つまり、いくらレベルが上がっても能力が上昇しないというのだ。
デバフ内容がワンチャン詰むほどに凶悪なため、条件自体は難しいもので「自立する」簡単なもので「人助けをする」など、比較的優しい内容なのが唯一の救いだろうか。ただ、自立するという内容がどのくらいで達成になるのかは正式サービス開始から二ヶ月ほど経っても分かっていない。おそらく個人差が激しいんだろう。
時間を今に戻そう。
幸い自分は、恵まれた烏の中でもそれなりに下の方だったらしく、解除条件が「自分で餌を取る」という内容だった。だが――
(日本人としては、虫を生で食べるって……そしてそれを避けてもゴミだろ)
烏の食べるようなものを思い浮かべながら吐き気を覚えてしまう。
思わず「クソ神どもがーー‼」と叫んでしまいそうになったが、さすがに罰当たりな気がしたので心の中で思うだけにする。……ん? どっちでも罰当たり? ――気にするな。
だが食事を摂らないことには、いつしか餓死で死んでしまう。
プレイヤーである自分たちはデスペナルティ――通称デスペナを貰うだけで復活は出来るが、デスペナを貰った場合、現実時間で一週間は町から出られないというなかなかにきついペナルティを貰うことになってしまう。そしてそこに降りかかってくるのが、ゲーム内時間で二週間の間デバフがかかるという点だ。
これがかなり凶悪で、なんとデスペナ中は元のステータスの一割未満の能力しか発揮できない上に、あらゆるスキルが使用不可となる。まあ、一番厄介なのはデスペナの条件にはあらゆる死の条件が含まれており、復活する場所がまさかの死んだ場所という。正に「鬼畜ゲー」の鏡だろう。
ん? 死んだ場所で復活ならいつから町から出られなくなるのかって? 町のエリアに入った瞬間からだよ。ただ、ベータ版の時はデスペナを受けて町に戻れたのは一分にも満たなかったらしいので、死んだら間違いなく囚われるだろうな。……何にとは言わんが。
(うおお、これが人種の町か……)
ゲーム開始から現実で二時間。ひたすら空を飛び回っていた自分は、眼下に見えた大きな町に興奮していた。
五芒星の形の城壁に囲まれた町の中央に、今で言う市役所っぽい左右に伸びる大きな建物。屋根にレンガを使い、壁を漆喰のような真っ白な外壁にしているその建物の中央部にある、尖塔となっている部分には、高さだけでおおよそ大人一人分くらいはありそうな大きな鐘が吊るされており、パッと見た感じでは教会を兼ねた孤児院に見えるような造りをしていた。
ずっと飛び回るのも疲れたので、市役所のような孤児院の屋根に降り立つ。
「――――!」
「――」
「――――――」
(……嘘だろ、何話してるのか分からん)
屋根に降り立った自分がまず行った行動は情報収集だった。鳥類は聴力が良いという噂を聞いたことがあり、駄目元で今居る場所から情報収集が出来ないかと横着をしたのだ。
だが町を行きかう人種の言葉の意味を理解することは出来ず、自分の脳内は完全にパニックとなってしまう。
別に自分は異世界から転生したわけでもないし、なにかの因果で鳥――じゃない、烏になったわけでもない?ので、人種の言葉が全く理解できないというのは正直予想外だ。たしか前情報ではどの種族でもすべて日本語に翻訳――もとい、理解できる言語に変化されるという話だったのだが、現実は先ほど目にした通りらしく、自分の耳には理解できない言語がいくつも届いていた。
(言葉が分からないとなると、コミュニケーションを取るのが少し難しいな)
人――いや、生物は身振り手振りや会話で互いの考えを共有してきた。だがそれは、お互いに共通の言動が通じる相手だからに過ぎない。
これがお互いに言動が理解できないとなると、下手をすればそれだけで対象となってしまう可能性が非常に高くなってしまう。むしろ、そういった事があり今までの歴史は紡がれてきたと言っても過言ではないだろう。だが――
(第二の生き方……つまりは第二の一生ってことだよな。けど、いくらなんでもリアル思考すぎないか?)
自分に限らず、ほとんどの人間が現実以外で現実味の強すぎる作品を望みはしないだろう。しかし、今のところFLOはそれらに真っ向から喧嘩を売るかのようなゲームシステムばかりを発表・実装している。
もちろんこれらに賛否両論はあるが、現状は賛成派が過半数を占めている状態だ。
(言語が通じないんじゃ話にならないしな、気は乗らないが、デバフを解除しにいくか)
兎にも角にも、現状で一番悪さをしていそうな要素を取り除くために動き出すことにし、自分は気の乗らないどころか忌避感しかない条件を達成するために動き出した。
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