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7話~異変~

 レベリングをする場所を決めてから数日が経過した。

 相も変わらず上空からモンスターを探しては急降下して脳天を貫くという行動を繰り返していた自分は、突如として曇り始めた空を見ながら、片目の視界にフライヤの住む森を収めていた。

 相も変わらず鬱蒼とした森。その方角から広がるどんよりとした雲に「雨でも降りそうだな」と考えていた自分は、獲物を探しながらどこか休めそうな場所としてフライヤの住む森の中を考えていた。

 正直、いままではシステム上快晴続きだったために、悪天候下での狩りは初めてになる。

 下手にデスペナを貰う訳にもいかない自分は、天候が悪化し始めた時点で休める場所へ居る必要があった。烏がどこまで雨に耐えられるのかは分からないが、わざわざそのために実験というのも少し違う気がする。――というよりも、雨天の際に空へ鳥たちが舞っていないことを鑑みるに、雨の間は飛べないと考え雨宿りが出来る場所に居た方が無難だ。

 だからこそ、雨を凌げそうな森の近くでレベリングを続けていたのだが――


(あの雲、森のある方向というより、森の中心部から発生してないか……?)


 よく観察してみると、雲が発生している中心点はどうやら、森林が広がっている場所の中心辺りらしかった。

 そうなると、雨が強くなるのは中心地帯。ここは一旦王都のラドニスカにまで戻るべきだろうか?

 そう考えながら飛び回っていると、やがて雲がラドニスカのある方角まで到達した。

 完全に自分の居る上空を覆った、黒いどんよりとした雲。そこから雨がぽつぽつと降りだすまで時間はそうかからなかった。


(降り出したか……早く休めそうな場所を探さないと)


 時間と共に急激に激しくなる雨。それと共に、どうやら雷も落ちているらしく、腹へと響くような重低音が響き渡った。


(雷⁉森が燃えなきゃいいけど)


 突然響いた雷鳴に少しビビりながらも近場にあった木陰へと降り立つ。

 木々に当たり、パラパラという音を立てる雨粒。それと共に――


 グオオオオオォォォォォォォォ!!!!


 フライヤが住む森から、明らかに彼女の物ではない野太い咆哮が響いた。




「カア⁉」(なんだ、今の⁉)


 突如響いた咆哮。それはまるで地鳴りのような、気を抜けば気絶してしまいそうなほどの勢いと共に大地を揺るがした。


(フライヤの居る森から……⁉でも、一体誰が?)


 突如として響いた咆哮に戸惑う自分。だが彼女の居る森の中はおそらく結界の類があり、外敵は簡単に侵入できないはず……

 だが現に、何かが上げた咆哮は間違いなく森の――フライヤが住んでいるであろう方向から響いてきた。

 正直、絶交状態である以上助けに行く義理は無いと言えば無い。

 だが自分の心は、感情は「助けに行かない」という選択は取らなかった。


「カア!」(フライヤー!)


 ほぼ感情のままに飛び立った。今は理由なんていらない。なにがあったのか確かめたい。この心臓をよぎる胸騒ぎを鎮めたい。ただそれだけだ。

 ザアザアと降り注ぐ雨の中、自分は慣れない環境に四苦八苦しながら空を飛び続けていた。

 雨に濡れて重くなった翼。そして視界を塞ぐかのように激しく降り注ぐ雨粒は、まるで自分の航路を塞ぐかのように周囲へと降り注いでいた。

 視界は悪い。だがそんな中でも視界に映る大きなものがあった。フライヤの住む森だ。

 急がなければ。

 その一心のままに空を飛んでいた自分は、上空から森の中へと入っていった。




 シナノが森へ向かい飛行する少し前。フライヤが居た住処では、あり得ないことが起こっていた。

 彼女の視界に映る、一体のモンスター。真っ黒な闘牛のような見た目をしたそのモンスターは、頭部に生やした角の間から電流を迸らせながら、敵と見なしたフライヤを葬るために鋭い眼光を向けていた。

 彼女が住む住処の一帯には広範囲にわたって結界を張り巡らせてあった。だがフライヤの目の前にいたのは、その結界の外から来たとしか思えないほどに凶悪そうなモンスターの姿だった。

 モンスターの頭部から起こる、びりびりと周囲を迸る閃光。それが地面へと着弾し、小さな穴を穿つ。


(あんなものが当たってはひとたまりも無さそうじゃのう……)


 対峙するフライヤは、モンスターの頭部から時折放たれる電流を視界に映しながら内心で冷や汗を掻く。

 電撃はあらゆる生物へのウィークポイントとなりうる攻撃である。そしてそれは、如何に固い鱗に覆われた龍族であるフライヤでも例外でない。

 そして地面に穴を開けれるだけの質量を持った電撃が直撃すればどうなるか――それはフライヤ自身が誰よりもよく理解していた。


(一撃。それで沈めなければならんな)


 最高最強の一撃で消し去る。この際、周囲への被害は気にしていられない。

 命あっての物種。その言葉を今まで生きて来た何千年という期間で嫌というほどに身に染み込まされてきた。だからこそ、危険物体は早めに排除しなければ。


(わらわが取れる最高の攻撃で)


 その思いで、フライヤが口元へと巨大な火炎玉を作り出す。だがそれは、食物連鎖というものに置いて上位に位置する龍族の奢りや油断だったのかもしれない。ピリッという感触をフライヤが感じた直後、モンスターの放った雷撃がフライヤの右目を襲ったのだ。

 しまった――

 そうフライヤが思った時には既に遅く、モンスターの放った雷撃がフライヤの右目へと直撃した。

 全身へと走る電流。それと共に訪れた痺れを耐え抜いたフライヤは、自身の身体が抱いた違和感に気づく。

 右半分が見えない――

 彼女が抱いた感想は、まずそれだった。

 人間のように顔の正面に目がついている生き物と異なり、顔の両側に目のついている生き物は、一般的に片方の目で対応する方面の視界を担っている。そのため、その片目を潰されたフライヤが失った視界は、文字通り死に直結するレベルのものだった。

 例えるなら、スマホでもいい。何かしらの画面を正面へ置いたとしよう。

 人間のように顔の正面へ目がついている生物ならそれほど違和感はないが、これが馬やウサギなどのように顔の側面に目がついている生物だとどうなるか。一度、左右のどちらかを向いてほしい。その上で画面に近い方の目を閉じればその答えは出てくる。非常に簡易的ではあるが、そうして映った視界が馬やウサギのように顔の側面に目のついている生物が片目で見ている範囲である。

 構造上、龍族はそれらよりもいくらか正面寄りに瞳が配置されてるが、どちらにしろ右側の正面から右後方までの視界は完全に潰されてしまったのである。そうなれば、モンスターが取る行動は分かりやすかった。


(いない……⁉)


 正面に居たはずのモンスターが居なくなった。

 どこに行った……?

 そうフライヤが考えた瞬間、フライヤの右側から大地を揺るがすような足音が響く。


(右か!)


 飛ぶのは間に合わない。

 直後、跳躍するフライヤ。住処の中心部近くから端までジャンプしたフライヤは、見えない視界の後方から木々が粉砕されたような音を聞く。


(食糧庫の辺りか)


 冷静にモンスターの居場所を把握するフライヤ。だが内心では焦っているのか、その瞳には動揺が窺えた。

 直後、モンスターが咆哮を上げる。


「グオオオオオォォォォォォォォ!!!!」


 キーンという音と共に、フライヤが自身の耳までやられたことを悟る。

 視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の内2つを機能不全に追いやられたことで、フライヤがさらに焦る。


(これからが本番という事か。いよいよまずいな)


 未だに本気を出していなかったという事実を知り、フライヤが冷や汗を掻く。

 まともに聞こえない耳。片目を潰された視覚。

 正直言って、フライヤの方が圧倒的に不利だ。だが、彼女の瞳には諦めるという選択は浮かんでいなかった。

 その理由は彼女自身分からない。――いや、ただ一つ分かっていることと言えば、ある鳥野郎に笑われたくないからだ。

 片目が見えない? 耳が聞こえない? なんだその程度、わらわからのハンデじゃ。

 左目でぎろりとモンスターを睨むフライヤ。対するモンスターの方は、未だに戦闘の意思を失っていないフライヤが気に食わなかったのか、角を正面に突き出し突進してきた。

 ――来る!

 徐々に縮まる彼我の距離。

 頼りになるのは己の勘と左目だけ。だがそれなら、()()()()()()()()()()()()()


(いつでも来るがよい。完璧に投げ飛ばしてやろう)


 フライヤが覚悟を決めた、その直後。


「カアアアアアアア!」


「グモッ⁉」


「は⁉」


 叫び声のような鳴き声と共に、黒い物体がモンスターの鼻を貫き地面へと突き刺さった。

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