流湾、陽呼子をデートに誘う
流湾は歩いていた。
すると、後ろから大きな声が聞こえた。
「おーい!流湾!」
流湾が振り向くと、そこには同じ大学の絵画サークルに所属する鮫郎がいた。
「鮫郎、おはよう。どうした?」
「おお、おはっ!それより、このポテトチップス見てよ。このポテトチップス、1,500円もしたんだぞ!すごいだろう?」
そう言って、鮫郎は一見してごく普通のポテトチップスを見せてきた。
高級な素材を使っているとか、とても量が多いとかそんな感じでもなかった。
「鮫郎、なんでこんな普通のポテトチップスが1,500円もするんだよ。150円くらいにしか見えないよ。」
その言葉に鮫郎は真剣な顔をして返した。
「流湾、よく聞いてくれ。オレはとっても頑張ったんだ!このポテチは、何度も何度もとれそうでとれなくて。それでもオレは諦めなかった。オレは頑張った!そして、ついにUFOキャッチャー15回目でこのポテチを手に入れたんだ。合計1,500円かけてね!やっぱり、頑張った後のポテチはうまい!!」
まさかの発言に、流湾は驚き、呆れ、こう思った。
「こいつ、馬鹿だ・・絶対、スーパーで買った方が安いじゃん。1,500円あるんだったら、ステーキレストランでスペシャルBランチを食べるわ・・」
内心、そう思いながら、流湾は鮫郎に言った。
「そうなんだ。頑張ったね。でも、今後、UFOキャッチャーは控えた方がいいと思うよ~。」
鮫郎は不思議そうな顔で言った。
「なんでだよ。オレはこれからもUFOキャッチャーをやりまくるぜ。そのためにバイトもしているし。人生はUFOキャッチャー。まぁそんな感じ。流湾もUFOキャッチャーをしたくなったら、誘ってな!じゃ~また。」
そう言って、鮫郎はポテチをおいしそうに食べながら去っていった。
「本当、鮫郎はバカな奴だな・・まぁそれがいいんだけど。」
流湾はしみじみ思った。
すると、そこへ陽呼子がやって来た。
流湾は一気に緊張した。
と、いうのも陽呼子は流湾の大学の友達であるが、流湾が気になっている人でもある。
今日、流湾は陽呼子を海辺の街にできた新しいカフェに誘おうと思っている。
いわゆる、デートのお誘いである。
流湾は、心を決めた。
「陽呼子、おはよう!いい天気だね。」
「流湾くん、おはよう。」
「あ・・あの・・そう!海辺の街に新しくカフェができたんだ。良かったら、今度の日曜にでも、一緒に行かない?」
陽呼子は、何も考える暇もなくこう応えた。
「そのカフェ、知ってるよ~。
でも、今度の日曜は忙しいから無理。私、流湾くんと違って、そんなに暇じゃないからね(笑)じゃ~またね。」
といって、去っていった。
流湾は、一縷の希望を持っていただけに残念な気持ちになった。
「まぁ 陽呼子はバンドもやっているし、そんなに暇じゃないか・・」
そう思って、心を落ち着けていた。
すると、そこに嫌な気配を感じた。
「る、流湾!」
誰かが名前を呼んだ。
少し怖いが恐る恐る振り返ると、嫌な予感が的中した。
そこにはちょっと苛立った感じの鮫郎がいた。
鮫郎は言った。
「さっきの聞いたぞ!流湾、陽呼子ちゃんにあの新しいカフェに一緒に行こうって誘ってたな・・なんでだよ!」
流湾は鮫郎がなぜそんなに怒っているのか分からないが、陽呼子をデートに誘ったことを聞かれてしまい、動揺していた。
鮫郎は真剣な顔で言った。
「あの海辺の街にできた新しいカフェは、まず、オレらで行こうって話をしてたじゃん!なんで、陽呼子ちゃんと一緒に行こうとしているわけ~。オレと一緒に行こうって、約束じゃん。なんで~!」
予想していなかったまさかのことを鮫郎に言われて、流湾はとてもびっくりした。
そして、流湾は思い切り息を吸って鮫郎に言った。
「なんで、お前と二人で海辺のカフェに行かないといけないんだよ!ひとりで行ってろ!!」
(つづく)