「お前はユニコーンではない」と村を追放された私、ユリコーンだった ~遠くから女の子を静かに見守りたい馬生~
「お前はユニコーンではない、ユニコーンの面汚しめ!」
ある日突然、村の長であるオサコーンが私に向かって言い放った。オサコーン、最近情緒不安定なところあるから、また変なことを言い出したと私は嘆息する。
ちなみに私は短足ではない。
「やれやれ……それを言うなら馬面汚しだろう。我々ユニコーンは幻獣ではあるが、馬であることに変わりはないのだから。ユニコーンである前に馬であることに誇りを持て……亡き父の友人の母の友が言っていた」
「それはワシの繋がりだ! それに、お前にはほぼ関係ないだろう!」
「そうとも言うがそうとも言わない」
「ええい、黙れ! お前の話を聞きに来たわけではないっ! お前をこの村から追放する!」
「追放? 最近巷で流行っていると噂の追放物か。オサコーンもブームに敏感だな」
「何の話をしているんだ、貴様は! 第一、貴様はここをどこだと思っている!?」
「森では?」
「《神聖な森》だ! それなのに、お前は時々森を抜け出して……人間を見に行っているらしいな」
なるほど、どうやらオサコーンは私が人間に会いに行っているのが問題だと言いたいらしい。
だが、私は直接人間に会っているわけではない。
あくまで遠くから観察しているだけだと言うのに、なにが問題だと言うのだろう。
「確かに、私は人間を見に行っている」
「やはりな……。我々ユニコーンの掟を忘れたか?」
「『ユニコーンの馬面も三度まで』」
「初めて聞いたわ! いいか、我々はもう人間には関わらないと決めたのだ。その掟と破ると言うのなら……お前はもうユニコーンではないということだ!」
「なるほど、オサコーンの言いたいことは分かった。では、私がこの村を出ていけばいいのだな?」
「むっ、なんだ……やけに素直ではないか」
「私が出ていかなければ物語が始まらないのだ。誰が森の中で寛ぐユニコーンの一生を見たいと思う?」
「貴様は先ほどから何の話をしているのだ!?」
――そんなこんなで、私は村を追放されることになった。
なんだかんだ二か月くらいゆっくりしたが、旅立ちの日はすぐに来た。
「……どうしても行くの?」
旅立つ私に問いかけてきたのは、幼馴染のトモコーンだ。
「ああ、私は旅に出ようと思う」
「どうして村の掟に従えないの?」
「『馬の上にも三年、か』」
「それは初めて聞いたんだけど……人間に会いに行くなんて」
「トモコーン、人間は嫌いか?」
「嫌いというか、人間の中にはユニコーンの角を狙っている者もいると聞くわ。それなのに、わざわざ危険な場所に行くなんて」
「危険……危険か。それでも、私にはいかなければならない理由がある」
「危険を冒してまで行かないといけないところに、なにがあるっていうの?」
「それは――ここにはないものだ」
私はそう言い残して、トモコーンと別れた。
トモコーンに言ったところで理解できないだろう。そう、私は人間達のある『もの』を見に行こうとしている。
――村を旅立ってから数日、私は馬車に揺られていた。
私は追放された身ではあるが、気高いユニコーンなので馬車は引かない。故に、馬車に乗るのだ。
馬車を引く馬の「え、お前が乗るの?」みたいな顔は一生忘れられないだろう。はて、どんな顔だったか……。
「いやあ、まさかこんなところで幻獣のユニコーン様にお会いできるとは思いませんでしたよ」
「ユニコーンは人間の前には姿を現さないからな。特に、お前のようなおっさんの前に姿を現すことは基本的にない」
「めちゃくちゃひどいこと言ってません!?」
「すまない、嘘は吐けない性質なのだ。お詫びに、私の『削りカス』をあげよう。万能薬になるからな」
スッ、スッとヤスリで角をこすりながら、私は御者に向かって答える。
なんでも、ユニコーンの角は人間にとって万病に効くらしい。
村の者達は角が取られることを恐れているようだが、ユニコーンの角は折れても生えてくる。
別に気にするようなこともないのだが……おそらくこの事実を知る者は私くらいだろう。
森の中でタップダンスをしていた時に折ってしまったのだが、そんなことをするのはきっと私くらいだからだ。
「ヒヒーン」
「わっ、どうした?」
「ヒヒーン、と言っているな」
「いや、それは分かりますけど……というかユニコーン様は馬の言葉は分からないんです?」
「馬の言葉は難しくて理解できん」
「は、はあ……? でも、急にどうしたん――」
「むっ!」
馬の異変の直後、すぐに私の角が輝き出した。
この光は――間違いない。
「御者よ、ここまで連れて来てくれて感謝する。お礼の『削りカス』は天井裏のそれっぽいところに入れておいた」
「え、天井裏? それっぽいところ!? どこです!?」
「さらばだ」
私は御者に別れを告げ、馬車を飛び出した。
すぐに森の中へと入っていき、私は『角の光』に導かれるままに進む。
しばらくすると、『目的地』が見えてきた。そこには、
「ね、ねえ……本当にここでするの?」
「いいじゃん、どうせここなら誰も見てないし。それに、部屋でするよりスリルがあると思わない?」
「でも……森の中でなんて、なんか恥ずかしいよ」
恥ずかしそうに俯きながら答える少女と、そんな少女を木に追いやるようにする少女の姿があった。
あの会話、そしてあの対応――間違いなく、私の求めたものがそこにはあった。
「いいぞ、そのままキスをするのだ……」
茂みに隠れて、私は息を殺してその瞬間を待つ。
――そう、私が村を抜け出して見に行っていたもの。それは、『人間の百合』である。
『百合』という言葉を知ったのはいつだったか……そういうものがあると私は知ってから、ずっとそれを追いかけてきた。
「誰も見てないって言っても――んっ」
「ふふっ、隙だらけなんだから」
「もう、いきなりキスしないでって言ってるのに!」
いたずらっぽい笑みを浮かべる女の子と、怒った表情を浮かべる女の子。最高かな?
「ふっ、これだから人間観察はやめられんな……」
そう――私はユニコーンではなくユリコーンだった。
これからは掟に縛られることなく、気付かれないように百合を見守ることにしよう。
***
「……ねえ、誰かの視線を感じる気がするんだけど」
「大丈夫よ。さっきから向こうでこっち見てるの、馬っぽいし」
「馬っていうか、あれユニコーンじゃない? 幻獣の」
「バカ言わないでよ。こんなところにユニコーンがいるわけないでしょ。それとも、あなたに反応してきたのかしら」
「あ、またそんなこと言って……! わ、悪い口は塞いじゃうんだから!」
――百合を見守るユリコーンの名が知られる日は、そう遠くはないのかもしれない。
書いたことは後悔していないので、公開しようと思いました。
さきほど勢いで書いたコメディです。
ちなみに馬が「ヒヒーン」と鳴いたシーン。
近くにこれから魔物が現れるんですが、ユニコーンには関係ないイベントなのでフラグが折れました。