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被虐の魔王〜異世界で家族になる〜  作者: 葉月十六夜
南の大森林
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Story.82【対・北方連合―精鋭部隊vs.二人の鬼人ノ王―】


「―――おっ始まったみたいだな」

「その様だ…」


 白い角を三本生やした二人の“鬼人ノ王(オーガ・ロード)”は、頭上で繰り広げられる交戦の騒音の中を駆け抜けていく。


「ウチの同盟の当主達なら大丈夫だろうが、俺達は作戦通りに任された任務を完璧に熟すぞ!」

「あぁ!」


 森の中を疾走するグウェンとローソゥ。

 二人が里を守護するデルフィノーム達と別行動を取っている理由は、北方連合と二種族同盟の一番大きな戦渦……つまりは、戦場でヨウへの注意を逸らす役割を担っているデルフィノームとユリオスの許に余計な邪魔が入らぬよう、邪魔者を速やかに制止する事だ。

 一所に留まっているデルフィノームとユリオスは目的あって目立っているが、それ故に格好の的でもある。

 デルフィノーム達の目的の一つに、ヨウがビオニアとの一騎打ちで勝利を確信するまで兵士達の増援を阻止する意図も含まれている。

 当然、此方の思惑を知らずとも邪魔してくると踏んで、ちから有る鬼人ノ王(オーガ・ロード)の二人と偵察部隊に敵兵の動きを監視してもらっていた。

 

全身鎧フルメイル装備の十三名の精鋭部隊が、進軍する一団から進路を逸れて移動を開始した……確実に、狙いはデルフィノームとユリオスへの奇襲だろうな」

「それにしても、隠密の素振りを見せる者が居ないのは意外だったな…?」

「全くだ。正々堂々正面切ってり合っても勝てるっつー自信の表れかねぇ?」


 グウェンは忌々しそうに歯軋りして―――口角を上げた。


「まぁ、その自信も今回で崩してやるがな…!」

「あぁ―――近いぞ…」


 ローソゥはグウェンと行動を共にする矢先に魔技能スキルを発動させていた。

 “千里眼クレヤボヤンス”―――アグーラムの“大鷲ノ眼(イーグル・アイ)”と似ているが、その発動領域と虚像ニセモノを見抜く性能はずば抜けている。

 この魔技能スキルはヨウとの“等価交換トレース”で“精霊ノ飛翔シルフィード・フライング”を譲渡された際、己の階級レベルも上がり、それに相乗して魔技能スキルも向上したのだ。

 その魔技能スキルの効果で、あっという間に目と鼻の先に、北方連合の精密部隊の姿を確認した。

 身を屈め、茂みの中を慎重に進軍しているようだが………

 

「隠密ド素人かよ」

「………」


 グウェンとローソゥは遠目に精鋭部隊の様子を確認し、呆れ果てた。

 身を隠すにも全員図体がデカすぎて「尻隠して頭隠さず」状態だ。

 おまけに全身鎧フルメイルがガチャガチャ音を立てているのに、誰一人として外して移動するという考えが至っていないらしい。


「格下ばっか相手にして来た所為かね?」

「そうだろうな」

「んで? 隠密の達人としては、どう対応する?」


 グウェンは横目でローソゥを見やる。

 ローソゥは相変わらず無表情クールだが、その青い瞳は獲物を静かに狙う猛禽類の様に鋭かった。


「無論、狩る」

「お、おう…」


 普段は大人しい親友の時折見せる好戦的な姿勢に、グウェンは引きつった笑みを浮かべるしか出来なかった。


「えっとぉ……よし! じゃあ本物の隠密ってヤツを教えてやれ!」

「あぁ」


 機械的に、されど感情的な返答をし、ローソゥは瞬きの間に姿を消した。


「ガッ―――!!」


 瞬間、精鋭部隊の最後尾を行く兵士が膝から崩れ落ちた。

 後方の異変に瞬時に気付き、前方を進む他の兵士達が一斉に武器を構えた。

 だが、振り振り返った先には前屈みに倒れ込み気を失っている仲間の姿しかない。

 全員が互いに背を合わせて四方八方を警戒するも、一瞬の隙を突いてローソゥが牽制を仕掛け続けて相手を攪乱させた。

 精鋭部隊相手に、身を潜めながらも的確に任務を遂行するその様子を遠目から確認するグウェン。


「いや~、流石だわローソゥくんよぉ……」


 幼馴染が故に知っていた、ローソゥの必殺仕事人体勢(モード)

 グウェンは自分が加勢に入ると逆に邪魔しそうだな、と離れた所に控えて見守っている。


「―――にしても、相変わらず強ぇなぁ。“鬼人ノ王(オーガ・ロード)”になって余計に強くなったよな。まぁ、当然か」


 日頃から言動が物静かなローソゥには“隠密”の才があった。

 白角ハッカク黒角コッカク―――双方の中でも、彼の右に出る物は居ない程だった。

 ヨウも“等価交換トレース”の際に感じたローソゥの秘めたるちからの片鱗。

 それは幼い頃からの付き合いであるローソゥやサクラは既に知っている事実。


「正直、ローソゥ一人に任せときゃ問題無いんだよなぁ…」


 そう言って後頭部を掻くグウェンは、申し訳なさ気に眉尻を下げた。

 ローソゥは他者を凌駕するだけの実力を有しているにも関わらず、武勲を上げる瞬間をグウェンやサクラに譲る癖―――否、悪癖がある。

 グウェンとサクラは、白角ハッカクの前頭領の子息と令嬢。

 それ故に、白角ハッカク鬼人族オーガ達は幼かった二人の事も敬っていた。

 更に言えば、ローソゥの出自は鬼人族オーガが二つに分裂した当初から白角ハッカクの頭領に命を賭して従う役を担う家系だった。

 その内容は主に、里に害を及ぼす存在を駆除する事が仕事。

 所謂―――“暗殺”を専門とした家系だった。

 しかし、年月が過ぎるにつれてその御役目も必要価値を失って行った。

 役目を失ったローソゥの先祖達は、今までの自分達の苦悩を無意味な物にされたと憤り、里から独立した。

 しかし、それから更に年月が経ち、グウェンの年齢が二桁にも達しない頃、ローソゥは里に帰って来た。

 白角ハッカクの血統を主張する白い角を生やし、感情を宿さない青く虚ろな瞳をした見窄らしい格好と痩せ細った姿だったローソゥを、当時、領主に襲名して日が浅かったグウェンとサクラの父が保護し、大蜘蛛に里を襲われその命が立たれるまでの間、ずっと養って来たのだ。

 謂わば、ローソゥは命の恩人とも言える前頭領と、その子に当たるグウェンとサクラには返し切れない恩があった。

 それ故に、ローソゥは己の意志をあまり主張しない所か、グウェンとサクラを引き立てる役を自ら進んで担うようになった。

 それはローソゥの彼らに対する返礼であり、当然の事。

 しかしそれはグウェン達にとって過剰な行為に見て取れる。

 あくまでローソゥにとっては恩返しであったにしても、グウェンには恩着せがましい事を自分達がしているのではないか、と感じ取ってしまうのだ。


―――……まぁ、本人がそれで満足してんなら、俺が何か言っても逆に気を遣わせちまうよなぁ……)


 それでも、ローソゥは親友であり、強いては十年以上共に過ごしてきた兄弟のような存在だ。

 口調こそ友好的にタメ口を使ってくれるが、それも俺にお願いされたから(・・・・・・・・・・)だ。

もっとアイツ(ローソゥ)が自分の意志を主張出来るようにしてやりたい。


「やりたい……じゃねぇな。やってやる!」


 現状、今までの環境が良くも悪くも一変している。

 今までのギクシャクしてた関係を修正できる絶好の機会チャンスだ。


「その為にも、この戦いに敗北は許されねぇ!」


 俺達の希望が……ヨウが必ず、俺達を安寧秩序な暮らしへ導いてくれる。

 ヨウを信じてついて行くと決めた時から、俺ももう弱音は吐かないと誓った。


「―――チッ! 小癪な!」

「ッ…!」

 

 突如、影から牽制をするローソゥの存在に気が付いた兵士が放った朝星棒モーニングスターが、ローソゥの隠れていた木の枝を砕き、ローソゥの足場を崩した。

 落下し、敵兵の前に姿を見せたローソゥを空かさず別の兵士が大斧アックスが襲う。


「覚悟せよ!!」

「させねぇよ!!」


 大斧アックスがローソゥの脳天に振り下ろされる。

 だが―――


「“不死ノ鳳凰(フェニクス)”!!」


 前方から草木を焦がす程の灼熱の塊が、ローソゥを襲う兵士に向かって逆に襲い掛かった。

 全身を燃え上がらせ、熱さで地面に転がり回る兵士。

 その隙に兵士達と距離を取るローソゥ。


「い、今のは…?」

「俺の使い魔(・・・)だよ。まぁコイツも魔術で顕現させてんだけどな」

 

 兵士の体を燃やす炎が意志を持った動きで、その姿を形取る。

 その姿は鷲より少し大きな鳥類の体躯で、大きな四翼は炎々と燃え上がっている。

 黄金色の鋭い瞳は敵を見据え、優雅な飛翔で主―――グウェンの腕に留まった。

 薄暗い大森林の中に、美しい深紅色クリムゾンの炎が映える。

 未知の生命体を目の当たりにした敵兵達は、矛先をグウェン一人に向けて体勢を立て直す。


「魔術で顕現させた使い魔だと? 精霊でも妖精でもない自力創造オリジナルの生命体を生み出したと言うのか!?」

「驚くよなぁ。俺にちからをくれた奴のお陰でこんな事も出来る様になっちまってよ。俺も驚いてんだ」


 グウェンの腕から“不死ノ鳳凰(フェニクス)”が飛び立ち、向き合う両者の間で浮遊したまま留まった。


「ソイツへの恩返しと、これからの俺達の安息の為に―――お前等を“燃やし伏せる”!」


 大森林の一角で、深紅の炎柱が天高く燃え上がった―――


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