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被虐の魔王〜異世界で家族になる〜  作者: 葉月十六夜
南の大森林
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Story.80【対・北方連合―特攻歩兵部隊vs.霧の中の戦士達―】


「野蛮な魔物共め…!」


 北方連合陣営。

 歩兵部隊を率いる第五小隊の隊長、一眼族サイクロプスのベルニコフが大森林全体に放電する“雷神ノ槌(トール・ハンマー)”を目の当たりにして、忌々しく歯軋りした。


「同じ三魔将さんましょうと言えど、ビオニア様の足元にも及ばぬ木っ端の分際での御方の慈悲を拒絶するなど言語道断!! 我ら特攻部隊だけで二種族同盟の大方を排除してくれるわ!!」


 怒りの雄叫びを上げ、ベルニコフは大斧を掲げた。


「進軍だ!! 目に留まる鬼人族オーガ女蛇族ラミアは片っ端から始末するのだ!!」


 ベルニコフが率いる特攻歩兵部隊が喊声を上げる。

 地をちから強く踏み、武器を天高く掲げる。

 木々の合間を濁流の如く勢いで走り抜け、一気に鬼人族オーガの里に距離を詰めるにかかった。


「来ました! 勢力約三十! ベルニコフ率いる歩兵部隊と推測!」

「皆、離れるのじゃ!!」


 “大鷲ノ眼(イーグル・アイ)”を発動させたアグーラムの索敵を受け、先頭に居るユリオスが魔力を高めた。

 固有魔術ユニーク・“妖精ノ悪戯(パック・ミスチーフ)”を発動させ、里の周りを覆う木々で投石機カタパルトを始め、進行を食い止める自然のトラップを幾つも造り上げる。

 

「幻術展開!」

「はっ!」


 グウェンの指示で幻術を得意とする女蛇族ラミア達が幻術を発動させ、辺り一面を“霧”で覆った。

 里の周辺を護る戦闘員達の姿を霧に紛れさせ、先頭に構えるデルフィノームとユリオスの姿だけ敵に鮮明に見える様にした。


「コレは……止まれ!」


 先導するベルニコフは突然出現した霧に警戒した。

 歩兵の足を止めさせ、奇襲に備えさせる。


「姑息な手を……この程度の幻術など―――」


 ベルニコフが魔技能スキル・熱源探知を発動する。

 霧の中には明らかに複数人の鬼人族オーガ女蛇族ラミアが隠れている。

 同時に、トラップとして彼方此方に張り巡らされている草木の微かな熱も捉え、触れぬよう安全な道を進む。


「馬鹿めが。我が幻術避けの魔技能スキルを用いていないとでも思ったか…」


 不敵に微笑むベルニコフ。

 ベルニコフの指示で歩兵が霧に隠れる敵兵に向かって北方連合の兵士が気配を断って近寄る。


「―――がはっ!」

「何!?」


 だが、霧の奥に進む兵士達が次々と倒されて行く。

 熱源探知では、倒れていく兵士達の近くに居る敵など映っていないはずなのにだ。


「な…何故だ…? まさか、霧に毒でも…!?」

「迂闊過ぎじゃありませんか?」


 動揺で隙が出来たベルニコフの背後から突如、首筋に刀身が添えられた。

 それは、鬼人族オーガ(いち)の剣士―――アグーラムの剣。


「なっ…」

「熱源探知の魔技能スキルですか。成程、この霧に中を難なく進んで来るのでおかしいと思ったんですよね」

「っ…ど、どういう事だ!? 何故貴様に、()を感じない!?」


 そう。

 視覚では確かにその姿を捉える事が出来ているが、熱源探知にはアグーラムの熱を捉えられていない。

 アグーラムは小さく笑い、得意気に説明を始めた。


「簡単な話ですよ。熱源探知を妨害した(・・・・・・・・・)

「何だと!?」

「我が黒角コッカクには隠密に長けた部隊が存在している。決定打に欠ける魔術しか所持していませんが、こういった奇襲向けの魔技能スキルを多く持っているので同じ里の同じ主人に仕える者同士、必要と思う魔技能スキルを伝授してもらう事もしばしば有るのですよ」


 黒角コッカクの隠密部隊。

 二種族同盟で言う所の、ローソゥが率いり、サンが部隊長を務める部隊。

 

「私に熱源探知無効化の魔技能スキルを教えてくれた者は、優れた戦士でもあった。デルフィノーム様を操り、里を壊滅させた愚か者さえいなければ、今でも黒角コッカクの優秀な隠密部隊長だっただろう……」


 アグーラムがベルニコフを抑えている合間に、周りの歩兵達が次々に倒れていく。

 ベルニコフの誘導を失った歩兵達がトラップにかかっているのだろう。

 もしくは、木陰に身を隠していた白角ハッカク(いち)の槍使いのムックや女蛇族ラミアに倒されているのかもしれない。


「くっ…!」

「おっと。動かないでくださいね? 歩兵全てが静まるまで、私の話に付き合って頂きますよ?」


 アグーラムの刀身が喉仏を掠めて、ベルニコフは冷汗をかく。

 それでもアグーラムは涼しい顔で懐かしい思い出に浸る様に話を続けた。


「その隠密部隊の隊長は私の友でもあった。義理人情に厚く、仲間思いで、家族思い。特にデルフィノーム様の側近の()の事を大層尊敬していた」


 アグーラムの話の中、歩兵の数は次々と地に伏す。

 徐々に近づいて来る金属同士がぶつかり合う音。

 ブンッと空を切る様な素振りの音。

 それだけでも長物―――槍を振り回すムックの存在が近いと理解出来る。


「ば…バカな…! 我が小隊が!? こんな、木っ端共に…!!」

「話を聞いてますか? 我が友は先の里の災禍の中、瀕死の重傷を負いながらも、里の危機を主に伝えた。最期まで勇敢な男でした……」


 アグーラムの冷たい魔力が背中に突き刺さる様に感じ取ったベルニコフは、ここに来て初めて恐怖(・・)した。


「貴方はどうですか? 片目を失い、腹を割かれ、腕を捥がれ、足を骨折しても尚、主人の許に帰り着き、危機を報告するだけの―――忠義がありますか?」

「ひっ…」


 霧が晴れ、辺り一面に転がる強靭な味方だったはずの歩兵達。

 その合間に、大きな傷も無く立つ鬼人族オーガ女蛇族ラミアに睨まれ、ベルニコフは奥歯を震わせる。


 ―――ご…誤算だ! こんなの聞いていない! 木っ端のはずだ! 取るに足りぬ雑魚で、我の足元にも及ばぬ者共のはずだ!! なのに何故だ!?


 目の前に居るのは、まるで血に飢えた化物達。

 今までビオニアの配下として、己より下手に見ていた相手しか狩って来なかったベルニコフの自尊心をへし折るには、中々に強烈な相手だった。


「先日の、我等が“二種族同盟”の二大当主への暴言と今日こんにちの愚行への謝罪―――その身をもって購え」

 

 アグーラムがベルニコフの首から刀身を離した瞬間、目にも留まらぬ速さで巨体を斬りつける。

 無論、殺さずだ。

 全身から血を流し、苦しむベルニコフ。

 先程までの威勢は何処へやら、自慢の一つ目から大粒の涙を流し、血に倒れ、見下してくる二種族を怯える目で見つめる。


「な、何なのだ…!? 貴様等は、一体…!?」

「格の違い―――否。覚悟の違い(・・・・・)と言っておきましょう」


 アグーラムが刀身の血を振り払い、鞘に納める。


「我々は、負ける訳にはいかない。我等を見捨てず、尚且つ安寧秩序をもたらせてくれようとしている―――あの御方(・・・・)への恩を仇で返す訳にはいきませんからね」

「ひっ―――ひぃいい!!」


 ベルニコフが四つん這いのまま来た道を逆走する。

 その姿が見えなくなるまで見届け、アグーラムは服の土埃を掃って振り返る。


「皆様、お疲れ様です。引き続き、遠隔攻撃部隊への警戒を。近接部隊と精鋭部隊と衝突が始まれば、我等も微力ながら当主様達の助力に回りますよ!」

「おう!」


 ムック、そして女蛇族ラミア達がアグーラムの言葉に同意を示す。


「けどさ、アグーラム? アイツあのまま行かせちゃって本当に良かったのか? 報告されて、向こうが本腰入れて攻めてきたらキツイよ?」

「寧ろそれが狙いです。我々の勝機は、ヨウ様が無事にビオニアと一騎打ちに有る。故に、デルフィノーム様達が目立ち、勢力を里の方へ集中させる。ビオニアの警戒心が里の一点に集中してくれれば、それだけヨウ様を隠す死角となるのですよ」

「な、成程…」

「では、一度デルフィノーム様達と合流しましょう。特攻部隊の知らせを受ければ、遠隔攻撃部隊が動くはず。ユリオス殿の魔術の邪魔にならぬようにしなくては…」

「お、おう!」


 アグーラムを筆頭に、特攻部隊を相手にした部隊が一度帰還する。


 対・北方連合、特攻歩兵部隊戦―――【勝利】


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