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被虐の魔王〜異世界で家族になる〜  作者: 葉月十六夜
南の大森林
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Story.62【墓前の決意】



「ここからは完全に予想の範囲内での作戦立てになるんだが……デルフィノーム。もし攻め込んで来るなら、ビオニアとユリオスのどっちが先だと思う?」

「…………」

「お~い。まだノビてんの?」


 頭が項垂れるデルフィノームの肩をバシバシ叩いた。

 いつものデルフィノームなら怒りながら俺の手を払うのだが、今日は大人しく叩かれている。

 やがてゆーっくり首を上げ、青白い顔を俺に視線を向けた。


「…………恐らく、西だ」


 首が横に傾き、目が虚ろな状態のデルフィノームが蚊の鳴くような声で発言した。


「西って事は、女蛇族ラミアのユリオスか」

「そうだ……奴は、ビオニアに対抗するだけの勢力を欲している……弱体化しているとは言え、この俺様を配下に置けば勝率が上がると思って、ビオニアが来る前に動くはずだ……」


 デルフィノームがようやく首の位置を正した。

 

女蛇族ラミアは総じて臆病だ。だから騙し討ちをする。厄介な事に、女蛇族ラミアの有する毒は解毒剤が作りにくい。半端な“治療ヒール”では完全に抜けきるのも難しい……」

「大蜘蛛が使ってた毒とどっちが厄介かな?」

「どっこいどっこいだろうな」


 解毒薬作りに特化した技能の持ち主でも味方に出来れば楽なんだけどなぁ…


「直接対決に持ち込めたら?」

「毒に気を付ければ余裕だ」

「……話し合いとか」

「無駄だ」

「うぅ~ん」


 穏便に事は進まない、と…

 

「対策としては、毒耐性のある奴が主体となって動く事。そして、もしもの時に備えて“治癒ヒール”の性能を上げる事。後は……“罠”への対処か」

「回避の手段も勿論あるが、何せ数が多い。一つ一つ避けている様では、隙を突かれる」

「それだけの罠を仕掛けるのだって時間がかかるだろう? この辺一帯を警戒させていれば、罠を仕掛けに来た相手を捕縛出来るんじゃ?」

「全てが手作業なわけないだろ」

「それってつまり―――」


 ―――()()か…


「“妖精ノ悪戯(パック・ミスチーフ)”……自然界の物であれば何でも“罠”に変えられる。一見ふざけた魔術だが、実際に目の当たりにすると厄介極まりない」

「それって、もしかしなくても“固有魔術ユニーク”か?」

「もしかすると“未知魔術アンノウン”かもな」

「本当にそうなら、厄介どころの騒ぎじゃないな……」


 せめて“未知魔術アンノウン”ではない事を祈ろう。

 魔術を相手するなら、使い手の魔力を“魔女ノ呪縛(ウィッチ・カース)”で何とかなるが、大量の罠を仕掛けるって事は、大元の術者は表に出て来ないって事だ……


 ―――戦う事になれば、罠を避けつつ、ユリオスを討つ方法も考えないとな。


 俺達は一日かけて、対“妖麗ようれい・ユリオス”の交戦策を思考した。



 鬼人族オーガ族の里から北へ離れた森林の中。

 ヨウを監視する命を受ける堕耳長族ダーク・エルフのアジェッサが一人、思考していた。


鬼人族オーガを配下につけ、次は“妖麗ようれい”との交戦ですか?」


 アジェッサは厚みのある唇から細く溜息を洩らした。


「貴方様には()()で行動してほしいのですがねぇ?」


 その方がアジェッサには都合が良かった。

 ヨウの配下に下った魔族は、ヨウを護り、ヨウもそれ等を護る関係が出来てしまうからだ。

 勿論、邪魔な連中は始末すればいい。

 けれど、それをヨウが許すはずもなく、自分と対立させる訳には行かない。


鬼人族オーガの里を壊滅させてしまったのは失敗でしたわね。まさかあの鬼人ノ王(オーガ・ロード)が他者の下に就くだなんて、これでは存分に魔王様と遊べませんわね」


 「やれやれ」と言いながら天を仰ぎ、アジェッサは細く微笑む。


「仕方ありませんね。少しの間様子を見ると致しましょう。このまま戻っては、また()()()()に小言を言われてしまいますし」


 片手を上げ、何もない空間に“望遠鏡テレスコープ”を出現させる。


「さて。女蛇族ラミアとの交戦……精々楽しませて頂きましょう♪」


 享楽的にヨウの動きを観察するアジェッサ。

 彼女の覗き込む“望遠鏡テレスコープ”に映る“ソレ”は、巨大な蛇の下半身を持つ少女の姿をしていた。

 “鎖”に繋がれた―――傷だらけの“女蛇族ラミア”だ。



 明け方。

 鬼人族オーガの幹部を交えた『対“妖麗ようれい・ユリオス”』の交戦対策会議を一区切りした俺は、アングと共に黒角コッカクの墓地へ赴いた。

 デルフィノームが腰を下ろしていた場所に同じようにして胡坐を組んで腰を下ろす。

 隣で伏せるアングの頭を撫でながら、墓地を一望する。


「先代の鬼人族オーガ達。今回の騒動の被害者達……もしかすると、今回の三大将さんだいしょうとの戦いで、またこの場所に名を掘られた墓石が並んでしまうかもしれない」

「マスター…」


 吐露した俺の言葉に、アングが心配そうに声をかける。


「何かの()に立つって、今更だけど結構重たいな……責任的なアレで」

「はぁ…」

「だけど。上も下も関係無く、俺はこれ以上鬼人族オーガ達を傷付けられたくない。王都でのリアトの時と同じだ。放っておいた所で、俺には何の被害も出ない」


 ―――でも。


「だからって放っておけない。助けを求める手を払う事に罪悪感が有るのは確かだけど、そういう事じゃないって信じてる―――()()()()()()()()()()()()()()ってな」


 ()()()()じゃなく。()()()()だ。


「と言うか、もしかしたら俺の所為かもしれないもんな…」


 “解析アナリシス”で判明した“加虐の魔王”の存在……

 師匠せんせいの言う様に、“デミ・アンデッド”を手中に収める為に、何の関係もない鬼人族オーガ達を襲ったのだとしたら……


 ―――俺に振られた喧嘩のトバッチリだ…


 相手が魔王だろうが関係ないし、許しはしない。

 グウェンやデルフィノームが背負った不幸の分……俺が“加虐の魔王”を撃つ―――!


「さぁ忙しくなるぞ! 俺の目が黒い内は、この墓地に加虐の魔王の犠牲となる鬼人族オーガ達の墓石は立たせない! 先代達も見守っててくれ。鬼人族オーガの頭目、その最初の一戦……」

 

 ―――打倒、女蛇族ラミア


 「転生して得られたこのちからを使って、鬼人族オーガを、武運長久してみせるぞ!!」


 煌々と輝く朝日に向けて拳を突き出し、俺は新たな決意を胸に刻む―――

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