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被虐の魔王〜異世界で家族になる〜  作者: 葉月十六夜
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Story.05【温かな説教】

 

 夢を見た。

 そう古くない過去だが、懐かしい夢だった。


「葉君。さっきお母さんがいらしてね。君が元気になる為に、何としても尽力をお願いしますって、何度も頭を下げて先生にお願いしてたんだよ?」

 

 俺の担当だったナースの花岡さんが、寝たきりの俺に微笑みながら話してくれた。


「優しいお母さんだよねぇ。早く元気になって、お母さんに親孝行してあげなきゃね!」


 俺も笑って、「はい」と答えた。

 そして、すぐに気付いた。




 ―――この人は、嘘を吐いている。




 俺は毎日の様に聞かされる“息子想いの母”の話に、嫌気がさし始めていた。

 当然だ。

 母は毎日のように病院に足を運んでいない。

 お見舞いの花だと言われ、花岡さんが差し替えてくれる花も、病院の中庭に咲いている花だって事はすぐに分かった。

 だってその花は実家の花屋で扱ってないし、母は香りが強い花はあまり好きじゃなかったし…




 ―――この人(ナース)も大変だな。毎日俺の為に嘘を吐いて、元気付けようとしてくれて…




 花岡さんにも先生にも、感謝はしてる。

 それでも一向に回復しない。

 俺は生まれながらにして、あって邪魔な存在だ…




 ―――あれ?何か……急に眠たく…?




 夢の中なのに抗えない睡魔に襲われ、俺は眠りについた。



「キャンッ」


 目を覚ましたら、俺はベッドの上に横たわっていて、腹の上に子犬が乗っかっていた。

 朝焼けの光でキラキラと光る銀色の毛並み。

 ルビーの様な赤い瞳。

 両手足と尾の先が黒く染まった子犬。

 見覚えのあるその子犬は、俺が目を覚ましたのを感知すると、遠慮無しに腹の上で跳ねまわった。

 



 ―――ちょっと待って。鳩尾の上で飛び跳ねないで?




 俺は子犬の両脇を抱えて制止させた。

 尻尾を左右にブンブン振って、喜んでいる様にも見える。




 ―――やっぱり、銀狼族シルバーウルフの子供だ。




 艶々でふかふかの毛並みに癒されていたが、徐々に覚醒してきた頭が、今までの記憶を辿り始めた。

 銀狼族シルバーウルフを探して森に入って。

 緑色の化物に遭遇して。

 その化物に食い殺されて。

 今、ベッドの上で意識を取り戻した。

 ……いや待て。




 ―――俺……死んだよな…?




 何だろうか、このデジャヴ感…

 此処はさっきの異世界なのか?


「キャンッ、キャンッ!」


 この銀狼族シルバーウルフの子供が居るなら、変わらずあの異世界か。


「………俺、何で生きて―――!」


 口に出して喋れた事に、俺は驚愕した。

 あの化物に首を噛み切られ、喉も潰れていたはずなのに、喋れた。

 恐る恐る首筋に触れてみたら、傷の痕が綺麗さっぱり消え去っていた。


「な、何で…?」




 ―――もしかして、誰かが魔術で治してくれたとか?魔術が存在するこの世界でなら、無くも無いか…?




 困惑する俺を他所に、両手で抱えられたままの子犬は未だに尻尾を振っていた。

 その時、部屋のドアが開かれた。

 中に入ってきたのは、湯気の立つ湯飲みを手にしたローザさんだった。

 俺の顔を見るや、怒るでも喜ぶでもない……

 感情が読めない顔を向けてくる。


「目が覚めたか」

「ローザさん…」

「まだ横になってな。傷はともかくとして、流した血液まで戻ったかは分かんないからね…」

「は、はい…」

「まったく」


 ローザさんは呆れた様子で、俺のベッドの脇の机に湯飲みを置いた。

 部屋から出ていかず、近くにあった椅子に腰かけた。

 色々迷惑をかけまくった自業自得な俺が口を閉ざしたままなのは、言うまでもない。


「………」

「………」

「………あの、すみませんでした」


 勇気を出して謝罪した途端、ローザさんの鋭い手刀をデコに喰らった。

 

「~~~っ!!!」

「キャンッ!?」


 あまりの痛さにベッドの上で悶える。

 子犬が心配そうに腹の上で飛び跳ねる。

 お願い、鳩尾は止めて…!


「今のはアタシが丹精込めて作ってやった晩飯を無駄にしたのと、雨の中森まで探しに行かせてずぶ濡れにさせてくれた事への罰さね」

「ご、ごめんなさい…」

「あとは、命を無駄にしようとした事への罰だが……命を簡単に捨てられるヤツへの罰なんて、常識ある人間には到底思い付かなかったよ」

「……ごめんなさい」

「謝りゃ良いなんて思うな」


 ローザさんの言葉は鋭かった。

 感情的ではないけど、物凄く怒っているのは馬鹿な俺でも分かった。

 ローザさんは、俺をわざわざ森まで探しに来てくれた。

 雨の中を形振り構わず。




―――物凄く心配してくれていたんだ。だから、物凄く怒ってくれているんだ。




『君が元気になる為に、何としても尽力をお願いしますって、何度も頭を下げて先生にお願いしてたんだよ?』




 あの時の言葉は、甘くて、冷たい嘘だった。

 聞く度に、自分の存在に嫌気がさした。

 けど、ローザさんの言葉は、厳しくて、怖くて―――優しくて、温かい。

 



 ―――何でだろうな。こんなに怖い顔してるのに…




「ローザさん……ありがとう、ございます」

「何だい急に気持ち悪いね!謝って駄目だったからアタシをよいしょする気かい?」

「アハハッ。そんな事で、俺のした事を許す気ないでしょ?」

「分かってるじゃないか。生意気な小僧め」

「ひでぇ」




 何だか笑いが込み上げて来る。

 同時に、目頭が熱くなるのも感じた。

 ようやく心から安堵したんだろう。




 ―――まったく。何処まで行っても情けないな、俺は……




 俺は目頭が冷めるのを待って、ローザさんに向き直る。


「ローザさんが、俺の傷を治してくれたんですか?」


 その質問を聞いたローザさんは、一瞬表情を硬くした。


「……いいや。アタシに回復系の魔術もスキルも無いよ」

「じゃあ、町の誰かが俺の治療を?」




 ―――誰だろう? あとでお礼を言いに行きたいな。

 



 しかし、どうもローザさんの表情が険しい。

 あのローザさんが何かを言い淀んでいるみたいだ。




「……お前さん、あの後何が起こったのか、本当に覚えてないのかい?」

「あ、はい。俺はあのまま死んだと思ってたんで…」

「そうかい。なら説明してやるが、いいか?」




 ―――覚悟して聞くんだよ。

 



 俺は、真剣な表情をしたローザさんの言葉に、耳を傾けた。

 


ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。

宜しければ、感想や評価を頂けると励みになりますので、宜しくお願い致します。

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