Story.58【三度目の決戦】
「貴様は“半人半魔”だな?」
「な…」
唐突に自分の正体を暴かれ、俺は明から様に動揺を見せてしまった。
「どうやら俺の勘は当たっているようだな。先祖が残している古書にも貴様が使ったとされる魔術に関してかかれている。最近では二年前にも“終焉ノ洞窟”で魔王誕生の兆しもあったと噂されていたしな」
もう誤魔化しは効かないだろう。
デルフィノームの態度は堂々としている。
確信がある証拠だ。
「マジかぁ。隠してたつもりはないけど、案外あっさりバレちゃうもんだな」
「隠していない割には大っぴらにしない辺り、誰かに釘でも刺されているな?」
「あぁ。俺の師匠にね。俺は一所に居すぎると良くないってさ。別に環境に異常をきたすとかじゃなくて……」
「お前の力を手に入れようと各国の権力者が争いを始め、手中に収めた国や組織が世界の頂点に立つ……世界の調和が大きく崩れる事に繋がりかねんからな」
「まぁ、そういう事らしいんだ……」
デルフィノームが腕を組んで推理する。
そして全て的中。
師匠と同じ事を言ってて、俺は自分の置かれている状況と、俺が及ぼす世界への影響を再確認した。
「旅してるのは、そう言った権力者に見つかりにくくしたいのと……大事な人達が居る場所に危険を及ぼしたくないからでもある」
「それで放浪の旅か。そこに出くわしてしまうとは、俺も運が悪い」
そう言って俺を睨んで来る。
そこはお門違いだろ?
敢えて口には出さなかったが、俺のジトーッとした視線を感じ取ったのか、デルフィノームはワザとらしく咳払いをした。
「―――と、お前が新生の魔王であるという事実が取れた」
デルフィノームはそう言うと、強面を一層険しくさせた。
俺は思わず身構える。
こういう目を向けてくる相手には、少なからず気を引き締めてかからないといけない。
そう言う教訓も、ここ2年間で身に染みて分かっている。
そして、案の定―――
「新生の魔王。この場で俺と一騎打ちをしろ」
これだよ。
「一応聞いとくけど、何で?」
「俺の実力が魔王に通じるか試す―――と言うのは建前だ」
「え? 本音でしょ?」
明らかに個人的な内容じゃないか。
「本音は、お前が俺に勝てたら教えてやる」
「何だよ。勿体ぶるなよ」
「喧しい! 知りたければ俺に勝て!」
そう言うや否や、デルフィノームは魔力を高め始める。
全くせっかちで仕方のない奴だ。
「ちょっと待て! こんな所で闘えるか! せめて場所を変えるぞ!」
「………それもそうだな。さっさと決めろ」
「お前マジでフルボッコにしてやるからな?」
二度目の怒りマークを浮上させながら、俺はデルフィノームと共に“空間転移”で、数日前に大蜘蛛を討伐した場所まで移動した。
「この辺りなら大蜘蛛討伐の大騒動で動物も逃げて近くに居ないだろうし、他の鬼人族達も気付いて近付いて来ないだろ」
「魔王のクセに随分と弱者に気を遣うんだな」
「俺は別に魔王って存在になる気は無いし、魔王って生き物が傍若無人である必要なくない?」
「そんなんだと舐められるぞ。只でさえこの世界は弱肉強食が固定概念だ。同情心を見せればそれが弱点に代わる」
「だからお前も傍若無人っぷりを気取ってたわけね? 仲間達の為に」
「だ、黙れ…!」
偉そうに説教垂れるデルフィノームの弱点を突いてやると、ちょっと照れ臭そうにそっぽを向く。
実は仲間想いで、世間の様子もちゃんと視野に入れてる真面目な奴なんだな。
意外な面も見れて、ちょっとだけデルフィノームへの好感度が上がったかも。
「さ、さっさと構えろ!」
「はいはい」
「言っておくが、手を抜くなよ。お前の全力を俺に見せてみろ!」
デルフィノームの全身から放電が始まる。
「また“雷神ノ槌”か? 他に使える魔術無いのか?」
「無い訳ないだろ。お前相手に小技を出しても意味が無い」
「魔力消費量半端ないだろ?」
「心配ない。どうせ、この一撃で終わらせる…」
デルフィノームの魔力の高まり方が限界値に達していた。
―――何つう魔力量。こんなデカさの大技撃ったら辺り一面消し飛ぶぞ……!
俺は直ぐ様“魔力吸収”を構えた。
しかし―――
「全力で来い―――ヨウ!!!」
「!!」
滝の様な汗を垂れ流し、デルフィノームが牙を見せながら二ッと笑った。
その頭上には、初めて出会った時と……更には操られていた時と比較にならない程の特大の“雷神ノ槌”が掲げられている。
―――マジの全力か…!
「いいだろ!」
つられて俺も笑みを浮かべてしまう。
―――確かにこれだけの大技に、全力で応えないのはデルフィノームへの侮辱だ。
右掌を頭上へ掲げる。
「“鍛治神ノ槌”!」
天に掲げた右腕から、向き合ったデルフィノームの放つ巨大な雷の球と同じくらいの大きさの炎の球が出現する。
「俺が持つ炎系魔術でも最高位の魔術だ。コイツでお前に一騎打ちを挑むぞ! デルフィノーム!」
「やはり、神級か―――面白い!!」
デルフィノームは怖気付く素振りも見せない。
もしかすると、この場で死ぬ覚悟も出来ているんじゃないかとすら見受けられる。
「念を押しておくけど。殺しはしない。お前は殺す気で来ても構わないけどな」
「殺しても死なない奴に言われた所で無意味だ―――だが敢えてそうさせてもらう!」
悪質さは感じないが、明らかな殺意が俺の肌に刺さる。
「デルフィノーム。殺さないって言ったけど、ある程度の負傷は覚悟しとけよ」
「無論だ」
俺達は向かい合い、動きを止めた。
一騎打ちの合戦ではよく有りがちな、暗黙の了解とも言える合図を待つ。
そして、その瞬間はやって来る―――
「「―――」」
高い所で鳥が羽ばたいた。
太陽に照らされる地面に、その影が横切る。
頭上からひらひらと舞い落ちる、白い羽。
その羽が地面にふわりと音を立てずに―――落ちた。
「行くぞぉ!! ヨウ!!」
「おう!!」
強大な“雷”と“炎”が辺りを焦がつかせながら徐々に距離を詰めて行く。
三度目の対戦。
これが本当に最後の一戦となると覚悟し、俺達は互いの力の限りをぶつけ合う。
―――と、思ってたのだが……
「何をやってるんですかぁ!!!」
後頭部をガツンと殴られるような怒号を受け、俺達は衝突する直前に集中力が乱れ、魔術を解いてしまった。
再び静まり返ったその場所で、俺とデルフィノームは互いに間抜けた顔を見合わせたまま固まった。
そして、怒号の主はか細い足でズンズンと此方に近づいて来る。
「お二人共! こんな所で、一体どういうおつもりですか!」
「サ、サクラ?」
可憐な顔立ちを怒りで歪ませて、サクラは俺達の前に仁王立ちになった。
よく見れば、後ろの方からグウェン、ローソゥ、サンも同行していた。
三人揃って呆れた顔をしている。
「皆、何でここに?」
「お二人の強大な魔力に気付かないとでも? それも尋常ではない魔力の高まり方をして、何かまた異常が発生したのかと思いましたよ!」
「いや、異常じゃなくて、これは……」
「サンさんから聞いております。デルフィノーム様がヨウ様を呼び出して、それっきり戻って来ないから心配して見に行ってみればお二人が居なくなっていたと!」
「頭領。貴方はまだ懲りておられなかったのですか?」
「サ、サン……お前……」
デルフィノームが苦虫を噛んだように顔を歪ませる。
かく言う俺も、目の前で頬袋を膨らませながら怒るサクラから視線を逸らし、言い逃れ出来ない状況下にいる。
「ヨウ様もです! やっと皆が落ち着きを取り戻した矢先に!」
「いや、先にデルフィノームが…」
「喧嘩を買ったのなら同罪でしょ!」
「す、すいません……」
有無を言わせないようなこの剣幕……益々脳裏で蘇る師匠のお叱りモードを彷彿とさせる。
俺は観念して、サクラに頭を下げて謝罪した。
「やれやれ。アホみたいに元気だなぁ、お前等」
「里の皆が怯えている……いい加減にしてくれ」
「「………」」
グウェンとローソゥにも咎められ、俺とデルフィノームは完全に沈黙した。
黒角族の頭領補佐―――『サン』
名前由来―――サンフラワー(向日葵)『あなただけを見つめる』




