表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
被虐の魔王〜異世界で家族になる〜  作者: 葉月十六夜
南の大森林
57/139

Story.56【治療と片付け】


 北の大魔術国―――北方国家ノースウェイド

 魔王の城の中で、“加虐の魔王”の腹心―――ペティーニャは肩を怒らせて広い廊下を歩いていた。


「あの女……また勝手な事を……アザミ様はどうしてあの女の勝手を許すの…!」


 数分前。

 ヨウの様子を監視してたアジェッサから、白角ハッカクの生き残りの鬼人族オーガ達との交戦後、その際に使用した大蜘蛛の一部を奪われたと連絡を受けた。


 ―――あの大蜘蛛は、妖魔老師の妖術と、アザミ様自らが魔力を注ぎ込み創り上げた合成魔獣キメラ……それをたかが鬼人族オーガの里を壊滅させるだけに持ち出した挙句に、此方の技術を敵に知られるような失態を犯したのに…!


『まぁ良い。お前は引き続き“半人半魔デイ・アンデッド”の監視を続けろ。隙あらば大蜘蛛の欠部は回収して戻れ』


 アザミはそれだけ言い残し、さっさと何処かへでかけてしまった。


「許せない…許せない…許せない…! アザミ様の計画を失敗させかねない、あの女の行動……!」


 ペティーニャの感情の昂りに合わせて、凍えるような冷たい魔力が上昇し、周囲を凍てつかせる。


「次はありませんよ……次に失敗したら……」


 ―――貴女自身の“死”を覚悟して……


 ペティーニャは氷の張った廊下を進む。

 周囲の冷気とは裏腹に、腹に抱える燃えるような怒りを抑え込みながら……



 大蜘蛛討伐から数日が過ぎた。


「まだ怪我の治療が終わっていない者はサクラの所へ! 動ける奴らは残った瓦礫の撤収にかかるぞ!」


 黒角コッカクの里の中央で、率先して指示を飛ばすグウェンの声が響き渡る。

 その指示に積極的に取り掛かる黒角コッカク鬼人族オーガ達。


「手が空く者は山道の作成組に加わってくれ! 今日明日中には完成させるぞ!」


 白と黒、双方の頭領同士の話し合いの元、白角ハッカク黒角コッカクの里を行き来しやすいよう道を作ることになった。

 今はただの道だが、復興と共に道幅を徐々に広げていき、いつか二つの里が完全に一つになるようにしていくつもりだ。


「おい。何故お前が指揮を執っている?」


 横たわる丸太の椅子に座って、仏頂面でその様子を見ていたデルフィノーム。

 不機嫌そうに眉を顰めるデルフィノームに、グウェンは鼻を鳴らして腕を組んだ。


「ヨウの魔術の影響で未だ万全じゃないんだろ? 里もこんな状態になってすぐだし、今は取り合えず心身共に十分に英気を養っとけ!」

「はぁ? お前は俺を何だと思っている! 俺を柔な奴だと思っているなら撤回しろ!」

「何だよ! 傷心中だと思って気を使ってやってるのに!」

「余計な世話だ! と言うか傷心などしとらん!!」


 呆れと怒りで憤激するデルフィノームがグウェンと言い争っている中、我関せずと言った感じでサクラが淡々と治療を進めて行く。


「どうですか?」

「ありがとう。もう大丈夫だよ」


 サクラに治療される黒い角を生やした大柄の鬼女オグレスが、控え目にお礼を言う。


「色々と悪かったね。黒角ウチの頭領の所為で、辛い思いしただろうに……」

「気にしないで下さい。今は特に……お互いに、協力し合いましょう」

「………本当に、ありがとう」


 優しく微笑むサクラに、鬼女オグレスは再度、頭を下げて礼を述べる。


「―――………」

「マスター。如何なされました?」

「ん? いや。ちょっと心配だったけど、何とかお互いに上手くやって行けそうだと思って」

「そうですね!」


 瓦礫を片付ける側に徹していた俺とアング。

 動ける黒角コッカク鬼人族オーガ達が集まったが、見るからに女子供が多かった。

 と言っても、大人の鬼女オグレスはサクラより大柄で、明らかに筋肉質だ。

 アメリカの女性スポーツ選手並み……


「ヨウ。そっちの瓦礫を頼む」

「ん。はいよ」


 ローソゥも俺達と一緒に瓦礫片付け班だ。

 器用に風魔術を使い分け、大小の瓦礫や木材を運び出している。


 ―――やっぱりローソゥって魔術の腕が断トツで良いな。天性の才能? 優秀な師匠でもいたのかな?


 好奇心でしかないが、落ち着いた時期にでも聞いてみたい。

 未だ性格が読み取りにくい相手故に、応えてくれるか分かんないけど…


「あの、ヨウの旦那? アタシ達にもソッチを手伝いさせてくれないかい?」


 と、気付けば俺の周りに鬼女オグレス達が集まっていた。

 大半が俺と同じか、俺より背が高い鬼女オグレス達。

 圧迫感に押し潰されそうになるも、俺は近くのデカい瓦礫を両手で抱えて立ち上がる。


「大丈夫。女性と子供はそっちの軽い方をお願いできる?」

「でも旦那? 言っちゃあ悪いけど、アンタの細身じゃ、この辺のデカい瓦礫は大変だろ?」

「平気平気。さっき良い譲渡品を貰えたからね」


 俺を心配そうに見下ろす鬼女オグレス達に笑い返しながら、俺は魔力を高めた。


「―――ぃよっ!」


 そうすると、俺の体の倍以上ある瓦礫が軽々と持ち上がった。

 体感では2キロくらいだろうか?

 序でに足元にあったデカい木材も、足の甲で難なく宙に蹴り上げ、抱えていた瓦礫の上に乗せた。


「「「おぉー!!!」」」


 湧き上がる歓声。

 傍から見れば奇妙な光景だろう。

 しかし、俺はグウェンから譲渡してもらった“怪力”のお陰でこうも軽々と持ち運べる。

 それを目の当たりにした鬼女オグレス達は見た目に反した甲高い声で「キャー!」と歓声を上げる。

 心成しか、頬が赤らんでハートを一杯飛ばしてる幻覚が見える……


「ほう。あの小童、見かけによらずのちからだな。お前の怪力と良い勝負じゃないか?」

「あぁ、アレか。ヨウの魔術で、俺はあの怪力をヨウに譲ったんだ」

「はぁ!? 魔術を譲るだと!?」


 遠目から俺の姿を見ていたデルフィノームが驚愕の声を上げた。


「あぁ。“未知魔術アンノウン”と言っていたな。俺も最初は驚いたよ……」

「―――……おい。少し詳しく聞かせろ」


 グウェンは、デルフィノームに此処までの経緯を話した。

 話し終える頃には、デルフィノームは口元を片手で覆い、ギラッと光る瞳を俺に向けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ