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被虐の魔王〜異世界で家族になる〜  作者: 葉月十六夜
南の大森林
54/139

Story.53【二人の王】


―――――――――――――――

――――――――――――

―――――――――


 ―――少し、時間を遡る。


「“等価交換トレース”?」

「そう。“未知魔術アンノウン”だ]


未知魔術アンノウン”という言葉に、鬼人族オーガ達はどよめく。


「等価値のある物で所有権を交換する。物々交換は勿論だが、俺の“等価交換トレース”は魔術や魔力も交換できる」

「そっ…そんな魔術があるのか?」


 疑いの目を向けるグウェンとローソゥ。


「だから俺から提案だ。時間が無いからグウェンとローソゥの二人だけ。二人に合った魔術を譲渡するから、それに見合った対価をくれ」

「み、見合った物と言われても……」


 混乱気味にお互いの顔を見やるグウェンとローソゥ。

 仕方ない事だが、急を要している。

 サクラや子供達、アングの事が気掛かりだ……


「お前等にとって、不要な物でも構わない。デカかったり、高価な物だが不必要だとか、邪魔に思ってたりする何かがあれば、それで構わない」

「不必要……―――あ」


 グウェンは少し考えた後で、心当たりがある様に短く声を上げた。


「だったら、俺の“怪力”とかも“等価交換トレース”出来る代物か?」


 グウェンの“怪力”。

 昨日、素手で地鳴りを起こす程の腕力がある事は目の当たりにしているから容易に理解した。


「出来るだろうけど、良いのか? アレ結構使い方によっては重宝出来るだろ?」

「皆そう言ってくれるが、俺には扱いづらいじゃじゃ馬だ。逆にヨウの力になりそうなら、遠慮なく貰ってくれ」

「分かった。なら、俺はお前の得意魔術を譲渡する。炎系か?」

「あぁ。俺は親父譲りの炎属魔力を所有している。更に言えば、“イン”だともっと相性が良い」

「“イン”か」


 “陰陽インヨウ二属性”―――

 炎属魔力には、“闇”の力を持つ“イン”と、“聖”の力を持つ“ヨウ”の二種類が存在している。

 その中でも“イン”の属性は魔族が主に宿す。

 その逆も然り、“ヨウ”の属性は聖者や人間が主に宿すのだ。

 まぁ、俺は半分“魔”で、半分“人間”だから、どっちも使える変質者チーターだから、あんまし関係はない。


「なら、グウェンには“火竜ノ降臨サラマンダー・アドヴェント”を譲渡する。俺が使える炎魔術でも上位級だ。きっとグウェンの役に立つだろう」

「あぁ! 頼む!」

「じゃあ、次はローソゥだな。ローソゥは……」

「俺は、風と水だ」


 表情一つ変えずに、ローソゥは両手の手の平を上に向け、片手ずつに風と水を出現させた。

 右手には小さな竜巻。

 左手には手の平から溢れて地面に零れ落ちる湧き水。

 

 ―――と言うか、さも当たり前の様に二つの魔術を同時に使ってんだけど……え? 天才?


 ローソゥの意外な才能に唖然としていた俺だが、すぐに思考を元に戻した。


「なら、風か水のどちらかの魔術を譲渡するよ。交換する者によっては。どっちも渡せそうだけど―――」


 俺がそこまで言うと、ローソゥは真っ直ぐに俺の目を見据えて口を開いた。


「風だけで良い。譲渡品は―――水の魔力。その全てだ」

「え」


 俺は耳を疑った。

 只でさえ“元素魔術エレメント”の内の二属性を使いこなせる存在は貴重だ。

 それを手放すなんて……はっきり言って勿体無い。

 

「良いのか? 貴重な二属性持ちだぞ?」

「構わない。俺に水の魔力は不必要だ」

「何か訳アリ? 水魔術嫌いとか?」

「―――………まぁ、そんな所だ」

「そ、そうか…?」


 ローソゥは明らかに話をはぐらかした。

 追及されたくないと言うなら……まぁ、構わないけど……


「勿体無い気もするけど、ローソゥがそれで良いなら、俺も文句は言えない」

「あぁ。ありがとう…」

「それじゃあ“精霊ノ飛翔(シルフィード・フライ)”でどうだ? こっちも風魔術の上位級だ」

「そうか」

「ただ“ヨウ”の属性しかないんだけど、いいか?」

「今より強くなれるなら、有難く貰い受ける」


 俺は、グウェンとローソゥは双方合意のいく譲渡品を定め、例の口上と共に譲渡した。

 譲渡した上級魔術の効果もあり、二人の魔力は驚異的な上昇を見せた。

 それから数分後には、見事に仇である大蜘蛛の討伐に成功。

 斯くして、二人の若き鬼人族オーガ達は里を救い―――白角ハッカク()()()鬼人ノ王(オーガ・ロード)”となったのだった。


 この時の俺はまだ知らなかった。

 後にこの二人の“鬼人ノ王(オーガ・ロード)”と共に、とある一大結成を成すのだが……


 それはまだ、先の話―――

 

 

 時は、大蜘蛛討伐作戦の終結時に戻る。

 致命傷とも思われたサクラの傷は、二人の鬼人族オーガの懸命な治療のお陰で完全に塞がった。

 完全な回復までにはもう少し時間がかかりそうだけど、無事だった子供達と再会出来た事で、元気を取り戻したようだ。

 ローソゥは……完全に眠りに落ちた。


「仕方ねぇな。今日一番の功労者だからな」


 眠ったままのローソゥを、まだ体力に余裕のあったグウェンが負ぶって里まで戻る事になった。


「アング。サクラと子供達を乗せてやってくれ」

「御意。時にマスター? あの無礼な青鬼は、如何なさいますか?」

「あ」


 アングの言葉で、すっかり記憶の端に追いやってしまっていたデルフィノームの事を思い出した。


「いっけねぇド忘れしてた……」


 里の門前に魔力空っぽ状態で放置してたんだった。

 このまま戻ったら、また厄介な事になりそう……


「あ~、グウェン! どうせ早く戻れないだろうけど、ゆっくり戻って来い! 俺はデルフィノームがまた暴れ出す前にどっか遠くに放り出してくる!」

「え? あ、おう…?」

「じゃっ!」


 早口でそう言い残し、俺は“空間転移テレポーテーション”で白角ハッカクの里まで早急に帰還した。


 ………だが。


「―――………居ないじゃん」


 そこに、デルフィノームの姿は無かった。


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