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被虐の魔王〜異世界で家族になる〜  作者: 葉月十六夜
南の大森林
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Story.48【強者の愚考】


 ―――荒れ狂うデルフィノームの魔力を……


()()!」


 アングがデルフィノームの注意を逸らしている隙に、俺は魔術を発動させた。

 

「“魔女ノ呪縛(ウィッチ・カース)”!」


 途端にデルフィノームの足元の伸びる()が実体を持ち、デルフィノームの周りを囲うように円柱型に天へ伸びた。

 己の影で作られた檻の様な黒い壁に、デルフィノームは拳を固め、殴りかかる。

 

「止めておけ。その影はお前の()()も同然だ。もし不用に攻撃を続ければ―――」


 俺の忠告も聞かず一心不乱に影の檻を殴り続けていたデルフィノームの拳が、遂に壁にヒビを付けた。

 そして、同時にその巨体が膝から崩れ落ちる。


「あ…んぐぁ…な、なん…だ…!?」

「下手に傷をつければ、その分()()()となってお前に返るぞ」


 何度も殴りつけた分の負荷がデルフィノームの肉体に強度の疲労感となって蝕んでいる。

 それでも、尚も立ち上がるデルフィノーム。

 

「っ…ぐぅう…あああああ!!」

「タフな奴め。でも……」


 ―――そろそろだな。


 デルフィノームの背後に伸びる新たな影が徐々に形を変えていく。

 それはまるで、髪の長い女性が笑みを浮かべているようなシルエットで浮かび上がった。


「!―――うぁああああ……!!」


 デルフィノームも背後に立つ影に気付き、動きを止めて()()を凝視する。


「“吸い取れ”―――魔女ウィッチ


 その言葉に反応し、デルフィノームの影から生まれた魔女ウィッチが、デルフィノームを正面から抱き締める様に覆い被さる。


「こっ…のぉおおおお!!」


 デルフィノームが力づくで魔女ウィッチを払おうとするが、実態は()だ。

 触れることは出来ない。

 そしてこの魔術の真骨頂―――抱擁されるデルフィノームの魔力を魔女ウィッチのシルエットが取り込み始めた。


「っ…!! ぐっ、あぁあああ!!!」

「落ち着け。お前が死なない程度の魔力を奪うだけだ」


 魔女ウィッチが抱擁を続ける限り、デルフィノームの魔力は奪われ続ける。

 そして奪った魔力は周りの円柱を伝い、空高く飛ばされてしまう。

 

 ―――俺のお得意の“闇”属性の魔術だ。


「がぁあ…あぁ…っ…」


 抵抗していたデルフィノームも、魔力量が減っていくにつれて大人しくなっていく。


「ぐぅうう…あ…あぁ…」

「もう少しだな」


 攻撃魔法……特に大技トール・ハンマーが出せない程の魔力量になるのをじっと待つ。

 デルフィノームは膝を着き、遂に動きを止めた。


「……―――こ……ここ、は……?」


 ―――正気が戻った!


「“消えろ”!」


 その言葉を受け、デルフィノームに覆い被さる魔女ウィッチと影の檻が霧状に消えて行き、デルフィノームの足音へ戻る。

 身動きが取れるようになったデルフィノームは気怠そうに頭を上げ、俺を見上げる。


「!―――き、貴様ぁ…!!」

「ちょっと待て。アンタ今の状況をちゃんと確認しろよ」


 正気を取り戻しても相変わらず俺に怒りをぶつけて来る。

 そんな様子に半ば呆れながらも、俺は両手を上げて、これ以上の交戦を臨まない姿勢を示す。


「状況だと!? あの憎たらしい女を庇う忌々しい余所者を前にして、俺の状況など変わりはしない! 目の前に居るからには息の根を止めてやるまで!!」

「…………」


 ―――こ~んの分からず屋がぁ! 


「デカい口叩いてんじゃねぇよ! 今の今まで良いように操られてたクセに! 俺達への報復を良いように利用されてまんまと使われてた自覚あるか! ソイツには何の怒りも無いのかよ!!」

「ゔ…」


 俺は思わずデルフィノームと同じぐらいの剣幕で怒鳴り散らした。

 図星とばかりに顔を引きつらせるデルフィノーム。

 隣に並ぶアングが呆れたように「マスター…」と呼びかけて来る。

 

 ―――ゴメンねぇ、アング? でもコイツが悪いんだよ?


「……クソッ!!」


 俺の言葉が効いたのか、ようやく冷静さを取り戻したのか、悔しそうに歯軋りした。

 「クソッ」はコッチの台詞だっての。


「とにかく、正気が戻ったんならさっさと自分の里に帰ってくれないか? 今はタイミング悪く例の大蜘蛛が現れてテンヤワンヤ中だ。アンタに構ってるヒマ無いんでね」

「大蜘蛛? あぁ、白角ハッカクの里を壊滅させた魔獣か」


 デルフィノームは楽しそうに口角を上げて、鼻で笑った。


「はっ、いい気味だ。俺が手を下す必要がなくなったな」

「やっぱりお前は此処に報復目的で来たのか」

「当然だ! “三大将さんだいしょう”たる俺に反旗を翻す者など生きるに値しない! ましてやたかが蜘蛛一匹如きに滅ぼされる程の弱小―――同族である事が恥でしかない!」

「弱けりゃ殺していい理由になるってのか!」


 両親・友・同族を奪われ、それでも生き続けようと必死に藻掻くグウェン達の姿が過る。

 まだ幼い子供達の将来の為に、こんなクズの傘下に下ろうとまでした白角ハッカクの決意。

 それをコイツは馬鹿にしている。

 “己が強者である”という断固たる自信がある所為で。

 俺はこういう奴が一番嫌いだ。


「……とにかく。アンタはさっさと帰ってくれ。魔力もろくに残ってないのに、これ以上俺とやり合う事も出来ねぇだろ」

「舐めるなよ小僧? この程度で俺が引き下がるわけ―――……!?」


 不敵に笑うデルフィノームが立ち上がろうと足に力を入れたようだが、どうやら思っていた以上に魔力を消費させられていたお陰で、再度地に膝を着いた。


「フンッ。そら見た事か」

「っ……クソ、ガキがぁ……」

「言ったろ? ほら、もう諦めて帰ってくれ。去る意思があるなら俺もこれ以上やり合う気はない―――けど、そっちがその気なら……」


 俺は右手を掲げ、“炎ノ矢撃(フレイム・アロー)”の矢先をデルフィノームに向ける。


「他の連中はともかく、サクラはアンタみたいな奴が相手だろうと殺生を嫌ってるみたいだし……何より、この里にお前みたいな奴の血が流れるのは気分悪い……」

「貴様ぁあ…!」


 怒りを露わにして俺を睨みつけるデルフィノーム。

 そんな奴を、俺は冷たく見下す。

 もし本当に引く気がないなら、サクラには申し訳ないが、今後の白角ハッカク達の安住の為には仕方ない。


 ―――せめてコイツを操ってた奴の情報ぐらいは聞き出したいな。


 そんな事を考えていると、突如森の奥から地が揺れる程の爆発音が響き渡った―――


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