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被虐の魔王〜異世界で家族になる〜  作者: 葉月十六夜
南の大森林
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Story.44【討伐作戦】


「―――着いたぞ。此処だ」

「これは……」


 グウェン達に連れられて、俺達は鬼人族オーガの一族のとある集落―――“白角ハッカク”の里へやって来た。

 その道中、元凶である大蜘蛛の過ぎ去った痕跡が幾つも見つかった。

 周りの植物はおろか、土までもが腐っている(・・・・・)




 ―――タ〇リガミでも通ったのかよ……




 鼻を刺す異臭を放ち、里の中まで伸びる大蜘蛛の通った跡。

 しかし、里の中はもっと悲惨だ。

 里を囲む塀、矢倉、食材庫、鬼人族オーガ達各々の家族が住んでいたであろう家らしき建物まで破壊され、全体が腐り落ちていた。

 それらの材木を黙々と片付ける数人の若い鬼人族オーガ達。

 その中には、明らかに10歳以下の子供もいた。

 物陰には痩せ細った老体が膝を抱え座り込んでいる。

 



 ―――小学生の時に見させられた原爆の資料写真みたいな光景……まるで戦時中の原爆被災地だ……




「思ってた以上に被害がデカいな」

「あぁ。大蜘蛛と交戦したのは大人の鬼人族オーガばかり。それでも、巻き込まれて死んだ子供も少なくいる―――情けない話だが、俺の力だけじゃ全員を養っていくのは難しい……」

「だから、デルフィノームに頼んで黒角コッカクの里に移住しようとしてたのか?」

「まぁな。もうその頼みも聞いてくれないだろうが………今は、これで良かったのかもしれないと思い始めている。同族でありながら権力に物を言わせる相手に扱き使われ、日に日に痩せ細っていく同志達の姿を見なくて済むからな」


 そう言うと、グウェンは安堵の表情を見せた。

 実の妹すらも生き抜く為の道具にせざるを得ない立場だった。

 苦渋の決断を手段はどうであれ放棄出来た事は、グウェン本人は勿論、後々の白角ハッカクの皆にとっても良かった事だろう。

 俺は里の中を見渡した。




 ―――とりあえず、当面の問題は食事と住居だな。




「と来れば…」


 乗り掛かった舟だ。

 手助けに妥協はしない。


「グウェン。お前達は牛とか飼った事あるか?」

「は? いや、家畜を育てる習慣は無いが?」

鬼人族オーガが乳製品好きか分かんないけど、俺がいた町では牛飼いが作った牛乳や乳製品チーズが絶品だった。腐った土や草を浄化出来れば農作物だって自給自足で手に入るし、この大森林なら食える魔獣や野生動物も多いだろ」

「えっとぉ、すまん。何の話だ?」

「助力の内容を増やすだけだよ。大蜘蛛退治の後、俺も里の再興に協力するって話。乳牛の手配は王都の知り合いに当てを聞くとして、家畜の育て方と乳製品の作り方、農作物の育て方は、俺が元居た町の人達に手紙で詳しく教えてもらうから、それで食料の足しにすればいいかなって」

「え……えぇ!?」


 驚きの声を上げるグウェン。

 傍に居たサクラやローソゥも、俺の言葉に耳を疑ったようだ。


「よ、宜しいのですか? 再興出来るまで、かなりの時間を有する事は明白ですよ?」

「当面の拠点にするって条件も有るし、俺もどうせ暮らすならより良い環境の方が良い。アングもそう思うよな?」

「アングはともかく、マスターに野宿させる事を快くは思いません。異論無しです!」

「それに十分な食事を取れれば、鬼人族オーガの同胞達も元気が出て作業が捗るだろ? 屋根の無い場所でだって、皆で寄り添って暖を取れば寒い夜も温かく過ごせるってもんだ」

「マスター。季節は間もなく夏季ですぞ?」

「そこはツッコむなっ!」

「ふっ……ふふふっ」


 俺達のやり取りを見て、サクラが口を押えて笑った。

 



 ―――さっき命を狙われたばかりで緊張しっ放しみたいだったけど、少しは気が抜けたみたいで良かった。




「どうだ頭領? 悪くない話だろ?」

「………」


 俺からの提案を受け、頭領グウェンは顎に手を添えて考えている。

 そして徐に顔を上げ、俺に向き直る。

 

「ヨウ。俺からも頼む! 協力してくれ」

「勿論。寧ろ大変な時に余所者がのほほんと居座ってるわけにはいかないもんな」

「被害が少ない住居が奥にある。そこを自由に使ってくれ」

「ありがとう―――けど先ずは……」


 俺は大蜘蛛の痕跡を見据えた。


「粘液は無くなったみたいだな」

「液状だったから土に沁み込んじまったか…」

「腐食してる地面で解析出来るか試してみるか」


 俺はどす黒い地面に指を添えた。

 



 すると―――




「ッ―――!!」


 指の肉がドロリと溶かされ、地面に崩れ落ちた。

 熱いのか痛いのか判断しかねる感覚に、俺は息を呑んだ。




 ―――触れられない程の毒素……これじゃ“解析アナリシス”が出来ない……!




「おっ、おい!ヨウ!!」


 俺の解析を横から覗き込んでいたグウェンが焦りの声を上げる。

 その声に反応して、サクラとローソゥも此方に駆け寄ってくる。


「ヨウ様! 如何なされましたか!?」

「ッ……心配ない……思ってた以上に毒素が強かった……」

「おいお前指が!!」

「は、早く治療を!!」


 慌ててサクラが俺の溶け落ちた指を囲むように両手を添えた。


「“治癒ヒール”!」

 

 サクラの両手が優しい光で発光し、俺の溶け落ちた指を癒していく。

 それに加えて、本来の俺の持つ“超回復”のお陰もあって、あっという間に指が元通りになった。


「ど、どうですか…?」

「問題無いよ。大した“治療ヒール”だな」

「よ……良かったぁ……」


 サクラが安堵して膝から崩れ落ちた。


「大丈夫か?」

「ヨ、ヨウ様こそ……復元出来て良かったですよ……」

「悪かった! 解析を頼んだばっかりに…!」

「軽率に触った俺が悪い。腐食を早く取り除かないと、この辺一帯の土も使い物にならなくなりそうだな」

「住居を立て直す前に、先ずそれからだな。作業を一度中断だ。女子供はもう休ませて、男共は休憩後に腐食した場所の取り除き作業へ移行する様に伝えよう」

「万が一の為に、私も同行します」

「じゃあグウェンとローソゥには大蜘蛛討伐作戦の為に、この辺の地形やら戦力やら詳しく聞いときたい」

「分かった」


 俺達は一番形を保っている住居の一室で大蜘蛛討伐作戦に必要な情報を共有した。



 正午を過ぎた頃から始まった作戦会議には鬼人族オーガの里の若い衆も加わり、真夜中まで行われた。

 最初は得体の知れない相手を里に留める事に警戒していたみたいだが、グウェンの助言もあり、俺とアングは白角ハッカクの里に身を置く事を許された。

 そんな余所者が物珍しいのか、作戦会議中の部屋の中を子供の鬼人族オーガ達が覗いて来た。




 ―――細い。どの子供も……。




 俺は荷物の中から王都で買っておいた果物や干し肉を分けてやると、嬉しそうに食い付いた。




 ―――こんなに腹空かして……作戦決行前に、何処かで食える物を集めておいてやるか……。




「でっかいワンコ~!」

「しっぽフワフワ~!」

「マ、マスター……」


 腹が膨れたのか、元気を取り戻した子供達の遊び相手にされるアング。

 「助けて~」と言いたげなアングに「我慢しろ」とアイコンタクトで宥め、俺達は作戦を煮詰めた。



「少し休まれませんか?」


 サクラは湯飲みにお茶を入れて部屋に入って来た。

 花嫁衣裳から普段着と思われる服装に着替えている。


「どうぞ」

「ありがとう」


 俺は湯気の立つ湯飲みを受け取り、一口飲んだ。

 程良い苦みと甘みの調和がとれたお茶の美味さに、感動の声が漏れた。


「このお茶ウマいな!」

「お口に合って良かったです」


 サクラが嬉しそうに微笑む。

 笑った顔は本当に年相応の可愛らしい少女の顔だ。




 ―――きっと里でもモテてるんだろうなぁ。




 俺は半分が“不死身アンデッド”だから性欲無くなったけど、これだけ可愛い子に慕われたらきっと人生がもっと楽しくなるんだろうなぁ……

 などと想像していると、段々虚しい気持ちが込み上げて来た。

 

 それにしても、どうして異世界ファンタジーってのは、当然の如く美女が沢山いるんだろう。

 マルしかり、サクラしかり。

 今でも気品を感じさせる師匠せんせいだって、ナーさんから聞いた話じゃ現役時代は南方国家サウサード一の美女だったって言うし。

 



 ―――「可愛いは正義」と言う格言を聞いた事がある。この子や幼気な子供達を悲しませる大蜘蛛とデルフィノームには相応の天罰が必要だな。うん。




 全員が美味いお茶を飲み干し終える頃、作戦の実行計画が仕上がった。

 



「―――では。大蜘蛛討伐の作戦はコレで行く。いつ出現するか不明な相手故に、罠の取り付けと見張りは今より交代で、夜通し行う。厳しいかもしれないが、俺達の里は俺達の手で守り抜くぞ!!」


 グウェンの音頭に、数少ない鬼人族オーガ達が声を揃えて「おう!」と返答する。


「長い夜が続きそうだな」

「あぁ。油断出来ない。だが今度こそ、奴の息の根を止めてやる…!」


 鬼人族オーガ達の意志は固かった。

 この作戦で彼らの亡くなった仲間達の無念を晴らせるなら、俺も全力で助力する。


「勝つぞ、必ず!」

「おう!」 


 こうして、夜は更けていく。


 しかし、神は無情にも俺達の計画を阻んで来た。




 ”白角ハッカク”の里に、デルフィノームが乗り込んで来たのだ―――



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