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被虐の魔王〜異世界で家族になる〜  作者: 葉月十六夜
転生
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Story.36【勧誘】


「お前、冒険者にならないか?」


 めでたい宴の席で、グラジオから冒険者組合(ギルド)への勧誘を受けた。

 突然の勧誘に俺は目を点にした。

 そんな俺を他所に、グラジオの部下であるマルとライが賛同の声を上げる。


「名案です! どうですか、ヨウさん! 一緒に冒険者しませんか!」

「アンタが仲間になってくれりゃあ百人力だぜ! リアトも絶対に喜ぶしな!」


 何やら今日一番の盛り上がりを見せる二人だったが、勿論俺はそう簡単に「イエス」と言える訳も無い。


「冒険者に、俺が?」

「あぁ。実力はリアトやナスタ・チムから聞いただけでも、相当な手練れだと分かる。まぁ、大抵の冒険者が苦戦を強いられる狩人ハンターを倒したってだけで明白だけどな」


 グラジオはそう言うと、バーカウンター越しに酒を注いでいたバーテンダーに頼み、この南方国家サウサードを含んだ大陸地図をカウンターに広げて見せた。


「俺達の仕事は主に“悪意のある魔族の討伐”だ。私欲を満たす為に人間や弱者に手を出す者を許さない。逆に言えば、善良であればリアトやナスタ・チムのような魔族を仲間にしたり、その技術に頼る事はしている」


 グラジオは地図を指でなぞりながら話を続けた。


南方国家ここと正反対に領土を持つ、“魔王”が治める北方国家ノースウェイド。そこの魔族の動きが活発化し始めている」

「魔王……」


 この世界に来てすぐに、師匠せんせいから話を聞いた事があった。


《そんな天災級の魔王共が増え続ければ、無力な赤ん坊同然の人間や弱小魔族は既に滅ぼされている―――と、思うだろうね》

《じゃあ、何で…?》

《生物の……特に感情を有している生命の滅亡は魔王にとって不利益になるのさ。魔王ってのは大抵が負の感情、或いは信仰心を糧にちからを増す。最近じゃ、後者の方が多いかね》

《信仰心が、魔王の糧になる?》

《自身を“神”の様な存在として君臨し、より多くの信仰心を持つ民を募りちからを蓄える。人間側もまた、信仰すれば安寧秩序を約束される。滅亡なんてさせれば、それこそ魔王は自分の首を絞めるし、残虐的な支配で自害や謀反を起こされても同じ事。さっき言った滅ぼされた七人目の魔王が良い例だよ》

《信仰どころか嫌われるような事をやり過ぎちゃったんですね?》

《あぁ。故にちからある魔王である程、賢く他種族を支配してるんだよ。従えれば魔王の庇護下に加えられ、魔王より下級の魔族から命を狙われる危険性が圧倒的に減るからね》


 師匠せんせいがあの時話していた“魔王”は、その北方国家の支配者の事かもしれないな。


「その、魔族の活発化って言うのは、人に被害を出し始めてるって事か?」

「正確には、その兆しが見え始めたといった所だな」

「兆し?」

「四方国戦争を知っているか?」

「まぁ、常識の範囲内程度にはね。東西南北の四つの国家が領土や各地の魔術の研究成果をめぐって争ってるんだよな? けどここ数年は冷戦状態とか?」

「そうだ。だが、その間にも北方国家ノースウェイドの魔王は戦力を蓄えていると情報が入った―――……近々、二百年前の戦争を凌ぐ争いが始まるだろう」

「戦争…」


 転生する前の世界では、あまり実感が湧かなかった。

 戦争なんて、俺が生まれるずっと前の出来事だと思って危機感を持った事なんか一切なかった。

 それが今、転生した世界では、こんなに身近に感じるモノになっていた。


 ―――俺は俺に対して“死”に関して言うなら、ある種の“特別感”は無くなったが……


「……人が、沢山死ぬのか」

「悲しいかな、それが戦争だ。それも、圧倒的に人間側に勝ち目が無い。相手の筆頭に“魔王”さえ居なければ、種族別同士の統一意思が薄い魔族を倒す事に多少の希望は持てたのだが……」

「彼我の戦力は絶望的って事か」

「あぁ。だと言うのに、我が国の騎士団長は自棄を起こして、北方国家ノースウェイドに宣戦布告を吹っ掛けようとしている」

「宣戦布告?」

「まぁ、色々あってな? それで、既にこの国でも北方国家ノースウェイドに対抗すべく対抗勢力を募っていたんだが……」


 グラジオが言葉尻を濁した。

 何となく言いたい事は分かった。


「冒険者も駆り出されるって事か」

「えッ!」

「マ、マジっすか団長!?」

「お前等、頼むからデカい声で広めるなよ?」


 俺の発言に驚きの声を上げるマルとライ。

 彼等を小声で宥め、グラジオが宴に沸く人々を注視しながら話を続けた。


「仮にも王家の血統である俺は強制出兵する事が確定された。もしかしなくても、冒険者としての俺の最期の仕事になると覚悟を決めている」

「そ…そんな…」

「団長が居なくなっちまうなんて…考えたくねぇよ…」

「気持ちは嬉しいが、どの道俺が出兵を拒めば討魔団団長の座を降りざるを得ない」


 グラジオが狼狽えるマルとライに向き直る。

 眉尻を下げながらも真っ直ぐ二人を見つめ、グラジオは微笑む。


「だから、出来るならお前達にも一緒について来てほしい。勿論、強制はしないが―――」

「「ついて行きます!!」」


 その言葉尻を食う勢いで、マルとライがハッキリ返答する。

 一遍も迷い無い二人の様子に目を丸くするグラジオは、そっと笑みを零した。


「………そうか。きっと、アジューガとリアトもそう言ってくれるんだろうな」

「勿論ですよ! 私達は団長さんに拾ってもらえたから今まで冒険者をやって来られたんです!」

「例えこの戦争で死んだとしても、微力でもアンタの力になれるなら本望だ」

「殉職する事を前提で話すなよ。縁起でもない」


 グラジオの笑みは、微かに悲しみを含んでいる。

 その光景を一緒に見ていたアングが、こそっと俺に耳打ちしてきた。


「何やら、のっぴきならない事情があるようですな?」

「そうだな」


 異世界ファンタジーならではの世界情勢。

 二年前まで、普通よりも病弱だった男子高校生(不登校)だった俺には関与しようがない。


「………」


 ―――いや待てよ? 今から死を覚悟する戦争に赴こうって時に俺を冒険者に誘うって事は……


「………グラジオさんや」

「どうした? 改まって」

「いやね? もしかして今の話………その四方国戦争に、俺も南方国家サウサード側として参戦しろって事か?」

「ほう?」


 グラジオが屈託のない笑みを向ける。

 そして―――


「察しが良くて実に助かるな!」


 ……と、何の悪びれも無くグラジオは俺に期待の視線を向けてきた。

 一秒くらいかな? その間に俺は、その場から逃げ出そうか……マジで考えた。


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