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被虐の魔王〜異世界で家族になる〜  作者: 葉月十六夜
転生
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Story.34【勝利】


「あ、あれは…!!」


 目の前に現れた人物の姿に、驚愕の声を上げるリアト。

 その視線の先に居たのは……


「リアト! 息災で何よりだ!」


 王族の生まれにして、グラビアヌス国王の甥。

 そして、リアトの所属する冒険者組合(ギルド)の最有力者にして“グラジオ討魔団”の団長―――グラジオ・サウサード、その人だ。

 濃灰色グレーの長髪をポニーテイルを風になびかせ、つり上がった紺碧色アジュールの瞳が真っ直ぐ此方を見つめる。

 その姿は言い表し様のない凛々しさを醸し出し、正に王族と呼ぶに相応しい佇まいだった。

 そして彼の背後には二十人の騎士小隊が並んでついて来ていた。


「団長!」


 リアトは嬉々とした声を発し、グラジオの許に駆け寄った。

 俺とアングも歩いてその後ろを追った。


「団長こそ、ご無事で良かった!」

「恥ずかしい話だが、俺は保護の為に軟禁されてたようなもんだからな。仲間の危機に何もしてやれなかったのは歯痒かったぞ」

「団長…」

「本当に、すまなかったな。リアト」

「ッ……いいえ! 俺の方こそ、ご迷惑を…」


 悔し気に自分の無力を吐露して謝罪するグラジオに対し、肩を震わせて顔を俯かせるリアト。

 感動の再会のはずなのに、双方謝罪し合っていては意味がない。

 その事にグラジオ自身も気付いたのだろう。

 雰囲気を一変して、リアトの肩をバシバシ叩いた。


「おいおい、何泣きそうな顔をしてるんだよ?」

「あ、これは…失礼しました…!」


 リアトは姿勢を正した。

 尊敬する団長に、これ以上情けない姿を晒す訳には行かないのだ。


「それはそうと―――ほらよっ」

「ひぎゃぁあ!」


 グラジオが騎士の一人から縛られたローベリアの身柄を受け取り、その背を強く押して地に転ばせた。

 よく見れば、先程まで誰一人手を出せなかったローベリアの頬に、赤い腫れが出来ていた。


「もしかして、殴った?」

「出会い頭に思わず小突いただけだ」

「小突いた、ね?」

「あぁ。見た目通り、良い具合に弾んだぞ」


 などと、グラジオは意地の悪い笑みを浮かべていた。

 確信犯だろうが、その場に居合わせた全員が追究しなかった。

 寧ろいい気味って思ってそうだ。

 その場の全員の視線を受け、ローベリアが怒り心頭で地面に転がったまま叫び散らした。

 

「き、貴様等! よくも吾輩に手を上げたな!! 公爵たる吾輩に傷をつけてタダで済むと思っておるのか!?」

「それなら心配無用だ」


 そう言いながら、グラジオが懐から見た事がある様な巻物を取り出した。

 

南方国家サウサード王国法律第三四一条『本国に在籍する他種族への不当な誹謗中傷含む傷害を起こした罪人には重罰を持って処する』。そして、第五一一条『王家・公家間での争いは法廷で決するべし。其れ以外を用いての決しは如何なる理由を持ってしても関係者全てに賠償金を支払う義務がある』」


 グラジオが淡々と巻物の中身を読み上げていく。


「ここに記される法律を聞いて分かる通り、ローベリア公爵は法律に違反している! よって、我が国の尊きグラビアヌス国王陛下に成り代わり、陛下自らが下した判決を言い渡す!」

「はぁ!?」


 目に見えてローベリアの顔から血の気が引いて行くのが分かった。

 顔面蒼白の公爵を他所に、グラジオが陛下から下される処罰を言い渡した。


南方国家サウサード現国王、グラビアヌス=サウサードの名において―――重罪人ローベリアから貴族位を剥奪! 協力者各位共々、国外追放を言い渡す! 二度とこの地に足を踏み入れる事は許さない!」

「あ……あぁ……」


 痛快―――否、きっとローベリアには死刑宣告にも似た宣言だっただろう。

 重罪人への判決が下された小人ドワーフ工房街に、今度こそ清々しい風が吹き抜けた。


「そして狩人ハンター。其の方は今回の件を含む数多の被害報告を受けている。それ等を考慮し、判決は終身刑に処するものとする」

「…………」


 騎士二人がかりで持ち上げられた狩人ハンターは反応を示さなかった。

 ぐったりと項垂れるその騎士姿が徐々に霧状に拡散していく。

 真の姿を露わにしていく狩人ハンターは、先程相見えた時の姿だった。

 深緑色カーキのフードを深く被り、顔は見えない。


「あの狩人ハンターもここまでだな…」

「何か呆気なかったッスね」

「どれ! 娑婆に居る間にその面でも拝んどいてやるか!」


 と、意気揚々と言いつつも腰が少々引き気味のアジューガが、狩人ハンターのフードを捲り上げ―――一同驚愕する。


「え!? マ、マジかよ!?」

狩人ハンターの正体って……」

「―――……女?」


 フードの中から露わになる鳶色セピアの長髪。

 前髪から見上げる様に此方を睨みつける深紅色スカーレッドの瞳はキリッとつり上がり、それ等を含めた顔立ちは、眉目秀麗と呼ぶに値する。


「……お前、名前は?」


 色気すら感じる小さな口から玉を転がすような声が発せられる。

 変声の術も解けているのだろう。

 狩人ハンターは俺を射抜くように見つめた。


「ヨウだ。ヨウ=クロキ」

「………その名前。忘れないからな」


 こんな美女にそんな事言われたら色々期待するようなシチュエーションなはずなのに、突き刺すような殺気の所為で台無しだ。


 ―――終身刑か。コイツの執念深さなら、また何時か会う気がしなくもないな。超怖いけど… 


 厳重な拘束をされた狩人ハンターが近衛兵達と一緒に連行されようとしていた時、リアトがその近くに歩み寄った。


「………」

「貴殿に遺恨が無いと言えば、嘘にはなる。出来れば次に相見える時は、互いに息災で……良き好敵手ライバルとなっていたいものだ」

「………自惚れを。お前が私に敵う訳がないだろう」


 狩人ハンターが冷たく言い放つ。

 しかし、リアトは「当然だ」と笑みを浮かべて告げる。


「また相見える時までに、俺はもっと強くなる。それこそ、貴殿に打ち勝てる程の“冒険者”としてな」

「………物好きめ」


 そう呟き、今度こそ狩人ハンターは騎士に連行されて行った。


「ほんと何処までも良い奴だな、お前」

「ヨウ殿に言われるのは素直に嬉しいんだが?」

「皮肉も通じないとはね。見た目の割に清々しい奴だよ」

「見た目の事は何にも比較しないでくれ。蜥蜴人族リザードマンは只でさえ強面だと言われて、怖がられているのだ」

「でもリアトはイケメンだぞ?」

「え?」

「性格もな」

「え?」


 俺とアングは戸惑うリアトと一緒に歓喜に沸き立つ工房街の中心に居た。

 勿論周りには、今回の事件に関与した小人族ドワーフ達と冒険者達も集まっていた。

 

「貴族位剥奪と国外追放。誰も死刑にはならないみたいだな」

「あぁ。だが、それでいい」


 リアトが満足そうに笑みを浮かべた。

 やれやれ…、と呆れながらも笑みを零すグラジオ。

 グラジオの背後で、アジューガ達がハイタッチしながら喜びの声を上げている。

 そして―――


「ローベリア。これでお前ぇさんも年貢の納め時ってやつだな」


 ナーさんは大きく深呼吸した後に、ゆっくりと地に転ばされているローベリアの傍に歩み寄った。


「ナーさん?」


 俺はナーさんの動向に目を向けた。

 

「おい、グラジオ。貴族位剥奪なら、もう構わねぇよな?」

「あぁ。俺はもう済ませた」

「なら遠慮はしねぇ」


 そう言い放ったナーさんは、血管が浮き出る程に拳を強く握りしめた。


「え? ナ、ナスタ・チムさん!?」

「ちょいちょい! ナーさん何してんスか!?」


 何やら不穏な動きに、リアトとサザンが慌てて声をかける。

 無論、ローベリアも怯えながら後退って行く。


「なっ…! 何だ!? 吾輩に近寄るなぁ!!」


 もう何をされるのか察したのだろう。

 ローベリアが、ここ一番の慌てふためきっぷりを見せた。


「リアト! お前ぇは最期までその誇りを守って勝利した! 俺ぁ誇りに思うぜ!!」


 ナーさんの拳が、天に掲げられた。


「お前ぇ等よく見とけ!! これが汚ぇ手を使って、俺等の同志を破滅に陥れようとしやがった―――クソ野郎の見せしめだぁあ!!」

「やめッ―――!!!」


 小人族ドワーフ工房街にナーさんの咆哮と―――ローベリアの顔面に拳が撃ち込まれる打撲音が響き渡る。 



 ナーさんによるローベリアの見せしめの後、滞りなくローベリアとその近衛兵達が騎士達によって連行された。

 

「アジューガ。お前達も無事で良かった」

「団長! 心配かけてすんません!」

「また討魔団に帰って来られて嬉しいです!」

「俺が叔父上に捕まってたばっかりに、色々と面倒をかけたな。今夜は仲間の生還祝いに組合ギルドで祝杯を上げよう! 組合ギルドの冒険者全員を招集して朝まで飲み明かすぞ! ナスタ・チム達も是非参加してくれ!」

「当然だ! 良い酒かき集めて来いよぉ!」

「んもー、サーさんってばぁ! 納期期限近い注文立て込んでるってのにィ!」

「酒を前にしてお預け喰らうなんざ辛抱ならねぇ! 祝い酒程上手ぇ酒は無ぇしな!」

「あーあー。俺知らねぇッスからねぇ?」


 どうやらこの後、リアト達の所属する冒険者組合(ギルド)総出の宴が開かれるようだ。

 先程までとは打って変わった陽気な雰囲気に包まれ、俺とアングもようやく一休みが出来そうだと息を吐いた。


「さてと。俺達は宿でも探しに行くか?」

「はっ。お供します」


 俺とアングは盛り上がるリアト達から離れた。


「ヨウ殿! 待ってくれ!」

 

 背を向けた後ろから、リアトが慌てたように俺達を呼び止めた。


「何処へ行く?」

「今夜の宿を探しにな。今の内に探さないとマジで野宿になりそうだし」

「なら俺が宿を紹介する。そういう契約だったはずだろ? 宿代も、勿論俺が払わせてもらう」

「けどお前、今から祝杯だろ? 主役が居なくちゃ意味ないぞ?」

「何を言っている? 当然、ヨウ殿とアング殿も参加してくれ。御二人こそ祝杯に必要だ!」

「良いのか? 俺達、そもそも冒険者じゃないし」

「関係無いだろ? 美味い食事も酒も出る。何より俺が御二人と共に酒を酌み交わしたいのだ」

「う~ん」


 ―――まぁ、断る理由も無いか。


「じゃあ、お言葉に甘えようかな。アングもいいか?」

「勿論です!」

「では行こう! 皆にも紹介したい!」


 こうして、俺達の王都での一騒動は“勝利”という形で幕を閉じ、文字通り“勝利の美酒”を頂く時間がやって来たのだった。


【ぷちっとひぎゃまお!(という名の詳細紹介)】


グラジオ討魔団団長―――『グラジオ・サウサード』

名前由来:グラジオラス『勝利』

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつもお世話になってます! 堀子タツです! Story34までの感想を書かせて頂きますね! 新たな旅先、ついに王国が出てきて、登場キャラも増えてきて、世界が広がった感じがしますね。 メイ…
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