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被虐の魔王〜異世界で家族になる〜  作者: 葉月十六夜
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Story.33【最良の友】


 幻術の効果で屈強な騎士の姿に成りすましている執念深い刺客―――狩人ハンター

 何者かの後ろ盾を得て再び俺と対峙したが、不死身の俺の攻撃を受け、またも敗北した。

 焦げついた兜から黒煙を立ち込ませながら、地面に倒れ込む。

 俺の勝利宣言と共に、小人族ドワーフ工房街から歓声が湧き上がる。

 小人族ドワーフ、冒険者、そして無法者の俺が、倒れる狩人ハンターを見下ろした。


「ほ、本当に……やったのか?」

「攻撃受けたのに幻術解けねぇってどう言う事だ?」

「もうすぐ幻術の効果は消えると思います。どうやら狩人ハンター自ら幻術を使っている訳ではないようですし…」

「それって、じゃあ狩人ハンター以外にも今回の件に加担してる奴がいるって事か?」


 マルの言葉に、ナーさんやアジューガ達が顔を見合わせて不安を露わにする。

 そんな中、俺はリアトとアングに安否確認されていた。

 

「ヨウ殿、本当に大事無いのだな?」

「おう。大丈夫だ」


 さっき首が吹っ飛んだ光景を見ている所為か、執拗に身体の異常がないか確認してくる。

 まぁ、あんなの見たら不安にもなるわな。


「本当に大丈夫だ。お前も仲間達も、無事で良かったよ」

「……あぁ!」

「マスター!」


 アングが喜び勇んで、俺の肩に前足を乗せるような体制で抱きついて来た。

 よろめく俺の背を支えるリアト。

 その表情は実に朗らかだ。


「流石はヨウ殿だ。二度も狩人ハンターを打ち負かしてしまうとは…」

「偶々だって。それより、早くローベリアを追わないと」

「そうだった! あの野郎ぜってぇ逃がさねぇ!!」


 アジューガを筆頭に、マルとライがローベリアの後を追いかけて行った。


「俺達も追いかけーーー」


 そう言ってアジューガ達の後を追おうとした俺をナーさんが引き留めた。


「待ちな、アンチャン。お前ぇもリアトも休んどけ。碌に休んでねぇ上に、アンチャンなんか首飛んでっただろうが! 何ともねぇみてぇなのが意味わかんねぇけど、一応安静にしとくんだな!」

「う、うん…」


 ナーさんに強引に腕を引かれて、俺とリアトはその場に留まる事になった。

 俺が行かないからアングもその場から動かない。

 結局アジューガ達三名だけでローベリアを追っていった。


「大丈夫かな?」

「ローベリア一人ひとりの捕縛ならば、マルもいる事だし容易いだろう」

「ローベリアは魔術使えないの?」

「多少は使えるようだが………」


 言葉尻を濁すリアト。

 それだけでも、ローベリアが魔術に秀でていない事が理解出来た。


 ーーーだから近衛兵を連れてんのか。大口ばっか叩く割に大した事無いな。


 俺は呆れて完全に追いかける気力を失った。

 それに、正直言えば首を飛ばされて回復する際に結構な体力を消費させられてしまい、そこそこ怠かったから丁度良かったのだ。


「じゃあ、お言葉に甘えて待たせてもらおうかな」


 その場に残った俺達は、気を失っている狩人ハンターを“蔓ノ呪縛(バイン・カース)”で拘束し、見張りながらアジューガ達の帰りを待った。

 横たわらせた狩人ハンターを上から覗き込むナーさんが、槌で軽く突いて様子を伺った。


「コイツ……生きてるよな?」

「当たり前だろ? 無意味な殺生はしたくない。コイツとローベリアには、後でちゃんと罰を受けてもらうとしよう。命狙われてたリアトには複雑かもしれないけどな?」

「いや。俺も殺生は好まない。ヨウ殿のその慈悲深さに感服した。改めて、礼を言わせてくれ。本当に、感謝する…!」


 リアトは俺に頭を下げた。

 本当は自分の手で決着ケリを付けたかっただろうと思ったが、それを言うのは止めておいた。

 

「苦戦はしなかったけど、執念には関心すら覚えるヤツだったなぁ」

「金の為に依頼を熟す。俺達、冒険者と同じだな…」


 そうかもしれない。

 けど、“善”と“悪”の違いは明白だ。


「コイツとローベリアに下される処罰ってどの位重いモノになるんだ?」

「まぁ分かってるだけでも、犯行の偽装、王令状の偽造、モドベキア公爵の殺害、国法で守られる小人族ドワーフ含む市民への暴行……まぁとっ捕まればそれ以上の悪事も洗い浚い出てくるだろう」


 ナーさんの口調は重々しかった。

 その空気に、自然と俺達も口を噤む。

 不可避となる重犯罪者の末路……

 いくら公爵とは言え、身分を剥奪されれば金のちからも通用しない。


 ―――免れない“死刑”だろう……


 静まる工房街の中で、真っ先に口を開いたのは……今回の一番の被害者であるリアトだった。


「俺は……死刑を要求する気はない」


 その言葉にナーさんは呆れたように深い溜息で返した。


「リアト。お前ぇ何を甘い事言ってんだ? お前ぇが情け掛けるような相手じゃねぇだろ?」

「確かに、騙された上に殺されかけた相手に、無罪では俺も納得は出来ない。だが、奴等の死をもって晴らされる事でもない」


 リアトは清々しく笑みを浮かべ、胸を張った。


「俺は―――俺の信じる“正義”を貫き通す。死が絶対の解決策だと、誇りある我が種族の血統に伝え残したくない」

「リアト…」

「〜ったく! ばっきゃろうが!」

「痛っ!?」


 ナーさんは嬉しそうにニヤついてリアトの背中をバシッと叩いた。

 前のめりに地に膝を着いて背中を抑えるリアト。

 その背中にアングが無言で肉球を押し当てた。

 よく見れば、アングの口角が上がっている。

 何だか面倒を見てた部下が良い仕事をした事を誇らしく思う上司の様な顔つきだ。

 

「何はともあれ。これでリアトとの約束は果たせたっぽいな」

「あぁ、ヨウ殿、アング殿。この恩は一生忘れない。相応以上の礼をさせてくれ」

「ダメだ。それは俺の“等価交換トレース”に反してる。ちゃんと最初に言った三つの条件で頼むよ?」

「―――……ふっ、アッハッハッハ! 全く、貴殿には敵わないな!」


 蜥蜴人族リザードマン独特の大口を開けて笑い声をあげた。

 その屈託のない笑顔は、出会って初めて目にするリアトの表情だ。

 

 ―――ようやく気が抜けたって事かな?


 俺は右手を伸ばして、リアトを立ち上がらせた。


「お疲れさん」

「ヨウ殿も……人間(・・)でなかった事は、相当驚かされたがな」

「あー」


 ―――やっぱ“ソコ”気にするよなぁ……


 冒険者としては、やっぱ魔族は放っておけないよな。


「悪い。隠し事にする気はなかったんだけど……」

「………いや。言い難い事だったとは思う。俺も事実を知ったからと言って恩を仇で返すような真似はしない」

「そうか。ありがとう」


 俺は引き上げたリアトの右手を握ったまま、感謝の握手を交わした。


「此方こそ。死に際に、俺は最良の友を見つけられた」

「大袈裟だな? でも俺もお前が最良の友で間違い無いな」


 リアトも俺の手を強く握り返した。

 始まりこそ奇妙だったが、旅立ちの日から、良き出会いが出来た。


 ―――この一件がちゃんと片付いたら、師匠せんせいに手紙を出そうかな。


 そんな事を考えていると、ナーさんが俺達に向かって声をかけた。


「アンチャン! リアト! アジューガ達が戻って来たぜ!」

「ローベリアはちゃんと捕まえたか?」


 ―――もし逃がしてたら笑えないけど。


 何て不安が脳裏を過ったが、それもすぐに消え去った。

 アジューガ達が工房街の外から戻ってきた。


「ん?」


 だが三人と一人の逃亡者以外の人影も見える。

 

「あ、あれは…!」


 リアトの驚愕する声。

 アジューガ達に続き、縛り上げられたローベリアの背を押しながら現れた人物に、俺も視線を向ける。


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