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被虐の魔王〜異世界で家族になる〜  作者: 葉月十六夜
転生
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Story.28【拡声】

  

証拠(・・)なら、見つけて来たぜぇ!!」


 その声は、突如としてローベリアの背後から聞こえて来た。


「なっ…! 何だと!?」


 当然の如くローベリアが反論し、声の主の方へ首だけで振り返る。

 そこには、古ぼけたローブに身を包んだ三人組と、その三人組に囲まれて委縮している細身の男が一人。

 更には…


「はぁ…はぁ…ナ、ナーさんッ! 何とか、間に合ったッスね…!」

「おぉ! サザン!」


 先程、ナーさんの工房で少しだけ顔を合わせた、そばかす顔の青年。

 息を切らせながら、ローブを纏う三人を連れてきた所を見るに、彼らが何者なのかすぐに理解した。


「リアトさん! ご無事で良かったです!」

「リアトー! 遅くなってゴメンッ、ほんとゴメンな!!」

「お…お前達…!!」


 フードを脱いで顔を見せた三人組に、リアトも再会の感動に声を震わせた。


「待たせたなぁ! グラジオ討魔団が下っ端予備軍! 自称最強四人組(カルテット)の“アジューガ特攻隊”の再集結だ!!」


 無精髭を生やした三人の中では一番年上そうな男が高らかに言い放つ。


「アイツ等がリアトの仲間なのか?」

「あぁ! 無事で、良かった…ッ!」


 リアトの赤紫色ワインレッドの瞳から涙が流れた。

 余程、安否が気掛かりだったんだろう。

 背中を支えてやらなきゃ、崩れ落ちそうになっている程にヨロけている。

 それは仲間達も同じようで、見るからに疲れ果てている体を根気だけで何とか立たせている感じだ。


「ホラ来い!」

「あ…あぁ…」


 アジューガが腕を強引に引っ張ってきた細身の男性を前に出した。

 油で汚れた作業エプロンを身に着けるその男は、見るからに貧相で不健康だ。

 目の下の隈なんか遠目からでも見えるくらいハッキリついている。


「いいか! 今からこの武器整備士が真実を話す! ここに居る全員、心して聞けぇえ!!」

「な…! き、貴様等、何を―――」

「“蔓ノ呪縛(バイン・カース)”」

「んがぁああ!?」


 ローベリアが明らかに動揺を見せた。

 邪魔しに行かないように、俺は魔術でガッチリ拘束する。

 雁字搦めに縛り上げられたローベリアは、地面に転げ回って蔓から逃げようと藻掻き続けて居る。

 生きたボンレスハムみたいだ。

 そんな物見た事ないけど。


 ―――て言うか本当に往生際が悪いな、コイツ。


「さぁ! 早く真実の証言を頼むぜ!」

「………私は」


 武器整備士が弱々しく口を開いた。

 何かに怯えているようだが、長い前髪の隙間から見える目には、何か決意を秘めた輝きがあった。


「私は……嘘の証言をするよう……ローベリア公に、強いられた……」

「な、何を言う!! 吾輩がそのような事を―――んぐぇっ!?」

「黙ってろ」


 俺はローベリアの口を“黒竜ノ爪剣(ドラゴン・クロー)”で再び鷲掴みにして黙らせた。

 

 ―――この武器整備士は、どうやら本当に真実を語ってくれそうだ。


 俺は武器整備士の発言に大いに期待を寄せた。

 そして期待を胸に、俺は武器整備士の方へ右手を掲げる。


「“拡声ラウド・ボイス”」


 武器整備士の顔の前に魔法陣が出現させる。


「え…? 《何を―――えっ!?》」

「うおっ!?」

「うるせぇっ!」

「こ、声が大きく…?」

「あぁ。ちょうど良い機会だ。王都中に真実を知らしめてやろうぜ」


 俺は“拡声ラウド・ボイス”の魔法陣を王都中の至る所に出現させた。

これにより、この男の証言に対する王都中の声も国中に轟く。

 

 ―――さぁ、国民達よ。真実の言葉を聞き届けてくれよ!


「頼むぞ!」

「あ……は、はい…!」


 暫く困惑している様子だった武器整備士も落ち着きを取り戻し、ゆっくりと、真実を口にし始めた。



 所変わり。

 場所は南方国家サウサードの王城内。

 その玉座の間に、威風堂々とした風格を醸し出し、玉座に腰かける白銀色の髪と髭を生やした老人が一人。

 現国王―――グラビアヌス=サウサードだ。

 彼は世界中で唯一、前代未聞の“人魔じんま和平協定”を制定した功績を持つ生粋の平和主義者だ。

 そんな彼の許に、一際強堅した装備を纏った騎士が参じた。


「陛下」


 男は玉座に座る国王の前に膝を着き、頭を垂れた。


「騎士団長か。何事か?」

「はっ。近日出兵を控えております案件に先立ちまして、早急に御耳に入れて頂きたい報せが御座います」


 その言葉に、グラビアヌスは眉間の皺を深くした。


「魔王“アザミ”の支配領域。北方国家『ノースウェイド』への宣戦布告か……」

「はい。騎士達の準備は概ね整っております。あとは発注している大剣三十振りが期日までに届けば、すぐにでも出立いたします」


 国王陛下側近にして騎士団長―――ドリトルトの三白眼が鋭く光る。

 その目を見れば子供は勿論、気弱い大人も泣き出すだろう。

 その目が見つめる先のグラビアヌスは、神妙な面持ちでドリトルトを見つめ返し、深い溜息を吐く。


「我が騎士団長よ。其方そなたの意気込みはも高く評価しておる」

「身に余る光栄のお言葉を頂き、恐悦至極に存じます」


 ドリトルトは深々と頭を下げた。

 その姿に、グラビアヌスは表情を曇らせる。


「だが、やはりは今回の出兵を承諾しかねる。いくら王族貴族の各当主が賛同したとは言えど、まだその時ではないのではないか?」


 その言葉には不安や恐怖と言うより、ドリトルトを気遣う思いが込められていた。

 だが、その言葉を受けたドリトルトは眉間の皺を深く刻み、国王に対し面を上げる事無く口を開く。


「御心遣い痛み入ります。ですが、あの“加虐かぎゃくの魔王”が北方国家ノースウェイドを支配して二百年。その間にも、あの国近隣に生息する魔族は“アザミ”の配下に置かれております。長きに亘る四方国しほうこく戦争も、いつまでも決着つかずと言う訳には行かないでしょう」

「確かに。“加虐の魔王”は四方国の中で最も警戒すべき存在だ。しかし、北方国家ノースウェイドに集まる魔族全てが我らの敵対戦力になるとは限らん。宣戦布告をし、罪の無い魔族すらも討伐する事は、人魔じんま和平主義に反す事だ。もう少し、内部調査を経てからでも良いのではないか?」

「王よ。此度の宣戦布告は、我が国を脅かす元凶を根元から討ち滅ぼす重大な役目。みな、すでに覚悟は決まっておるのです」


 ドリトルトは膝につく手に力を籠める。


「我が騎士団の中には、の魔王に家族を奪われた者も少なく居ります。この機を心待ちにし、この時の為に生き続けて来た者も……!」


 その瞳に、怒りの色が灯る。

 その心情は、グラビアヌスも理解が及ぶ所だった

 

「ドリトルト。最愛の妻子を失い、怒り狂う気持ちは分かるが、このままではお主も―――」


 グラビアヌスはドリトルトを宥めつかせようと口を開いた。

 しかし、その言葉を遮るようにして、再び玉座の間の扉が開かれる。


「失礼するぞ、叔父上!」

「な、なりません! お部屋にお戻りください!」

「話をするだけだ! 通してくれ!」


 怒鳴り声を上げ、城の召使に行く手を阻まれながらも強行してくる男。

 その姿に、グラビアヌスは更に悩ましく頭を抱えた。


「……グラジオ。外出は控えよと申したはずだが?」

「お言葉だが叔父上。ここは城内だ。外出しているわけではない」


 国王に物怖じしない態度で言い返す濃灰色グレーの長髪の青年。

 ポニーテイルにした髪を左右に振らせながら、大幅の足取りで国王の前に進み出ると、空かさずドリトルトに制される。


「グラジオ! 貴様、陛下に何という口の利き方か! 謝罪せよ!」

義兄上あにうえは口を挟まないでいただきたい!」


 ドリトルトと同等の剣幕を放ち、グラジオ討魔団団長―――グラジオはグラビアヌスの前で仁王立ちになる。


「いつまで俺を城内に軟禁する気だ? 仲間に無実の罪が掛けられているんだぞ! この様な所で手をこまねいて居られるか!」

「落ち着くのだ、グラジオ。今、蜥蜴人族リザードマンの捜索と真相の調査に向かわせておる。もう時期全て―――」


 グラジオを宥めようとして、落ち着いた口調で話すグラビアヌス。

 しかし、グラジオは苛立ちを露わにしてグラビアヌスに吠える。


「遅いんだよ! 悔しいが、リアトより実力のある狩人ハンターが放たれて二日だぞ! 時間が経ち過ぎている! 未だに追われている仲間の一人も見つけられていない状況で何故落ち着けようものか!」 

「グラジオ! 貴様いい加減にしないか!!」


 ドリトルトがグラジオの胸倉を掴み上げ、グラビアヌスから引き離そうとする。

 それでも引く気が無い様子のグラジオを見つめ、グラビアヌスは静かに胸を痛める。


「………すまない、グラジオ。だが、王族であるお前と告訴した貴族派閥のローベリア公を直接対峙させる訳にはいかんのだ。四方国しほうこく戦争まで時間がない。身内同士で争っている場合ではないのだよ」

「その為ならウチの仲間の危機を見逃せってのか!?」

「グラジオ!!」


 怒りが頂点に達したグラジオがグラビアヌスに詰め寄る。

 ドリトルトが即座に間に割って入り、グラジオを押し退けた。


「退け義兄上あにうえ! 邪魔をするな!」

「貴様! サウサード王家の生まれでありながら、これ以上恥をさらす気か……!」

「王家だと? それがどうした! 俺は冒険者“灰狼ハイロウ”のグラジオだ! 王家の面子なんぞより、仲間の命が最優先だ!!」

「グラジオ!!」


 遂にドリトルトとグラジオが互いに胸倉を掴み上げ争いを始めた。

 近くに居た兵士達が一斉に止めに入り、玉座の間はちょっとしたパニックに陥った。


「待て! お主等止めぬか―――」


 それに制止をかけるグラビアヌス。

 頭に血が上ったドリトルトとグラジオが魔力を高め始め、一触即発と思われたその時―――


《―――…たし……私は……ローベリア様に……偽の証言を……強要されました……》


 突如玉座の間に響き渡った“謎の声”。


「ん?」

「何だ!?」

「これは……何事だ?」


 その異変に気付き、玉座は一度静まり返る。

 いざこざを中断し、即座にグラビアヌスの護衛に移行するドリトルト。

 身構え、辺りを警戒するグランジオ。

 そして玉座の間に、血相変えた召使の一人が飛び込んで来る。

 

「ご…ご報告です!! 王城内……いいえ! 王都中に、謎の魔法陣が出現いたしました!! この声は、その魔方陣から流れ出していると思われます!!」

「何?」

「それは低級魔術の“拡声ラウド・ボイス”の事か?」

「一体どういう事だ!! 王都で何が起きている!?」


 身内同士の争いが沈静化したが、再びパニックに陥る玉座の間。

 そんな事とは露知らず、小人族ドワーフ工房街では、着々とリアトの無事が証明されていくのであった。


【ぷちっとひぎゃまお!(という名の詳細紹介)】


南方国家の国王陛下―――グラビアヌス・サウサード

名前由来:グロリオサ『栄光』


厳格な騎士団長―――ドリトルト・サウサード(婿養子)

名前由来:トリカブト『騎士道』


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