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被虐の魔王〜異世界で家族になる〜  作者: 葉月十六夜
転生
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Story.26【独壇場の蜥蜴人】


 魔導兵士を含む、ローベリアの近衛兵約30人。

 そして、指名手配犯と無法者の2人。

 魔術飛び交う戦闘が、小人ドワーフ工房街の中心で始まった。


「“炎ノ剛球(ファイヤー・ボール)”!」

「“風ノ鋭刃(ウィンド・カッター)”!」

「はぁ…」


 ―――やれやれ。魔導兵士とか言うからもうちょっと、骨が有りそうだと期待したのに…


「低級魔術しか撃って来られないとは、残念だな」


 俺目掛けて放たれる無数の攻撃を目視しながら、軽く手の平をそれ等に向けた。


「“魔力吸引マジック・サクション”」


 魔術の発動と共に、俺の掌に兵士達が放った魔術が吸い込まれて行く。

 その様子に、魔導兵士達がどよめいた。


「な、何だ今のは…!?」

「からのッ!」


 再び右手を兵士達に向けて構えた。


「“返戻発射リターン・ショット”!」


 その言葉と共に吸収された魔導兵士達の魔法が、俺の掌から放たれ、本人達に向かって放たれた。


「なっ!?」

「か、回避ィ!!」


 予想外のカウンターに回避する間も無く、返って来た魔術によって何人か吹っ飛んで行った。


「ば、化物…!」

「こんなのどっちも中級魔術だぞ? この程度で化物呼ばわりするなんて、よほど温い環境で育ったんだな、お前等」


 俺は「ふん」と鼻を鳴らし、地べたに転がる兵士達を見下した。


「お前等が“化物”と呼ぶ俺以上におっかない人を、俺は知ってるぞ」


 ―――何てね。これが師匠せんせいの耳に入ったら、俺また殺されるちゃうっての。


 瞬間、背筋に悪寒が走った。

 寒気を祓う為、俺はリアトの様子を伺った。


「くらえぇッ!!」


 大きく掲げた剣を振り下ろす兵士に対し、リアトは卓越された動きでその脇を潜り抜け、剣の柄頭ポンメルで兵士の後頭部を殴りつけた。


「がッ!」

「借りるぞ」


 脳震盪のうしんとうを起こして崩れ落ちる兵士の手から素早く剣を奪い取り、次々に襲い掛かってくる兵士達を双剣で薙ぎ払っていく。

 しかも全員、無傷だ。

 

「おぉ!」


 俺は自分の方の戦闘をほっとらかして忘れて見惚れていた。

 リアトの身の熟しもだが、何よりこの状況でも兵士を殺さず確実に気絶させているその剣技に。

 その姿はまさに、数多の強敵と渡り歩いた“英雄”の様な貫禄がある。


「何だよアイツ、普通に強いじゃん! 動きも何か独特だな?」


 まるで止めどない流水の様だ。

 あの筋肉質な体躯から繰り出されるとは思えない程滑らかな動きだ。


「へッ! なかなか見慣れねぇ動きだろう? アレ(・・)はリアトがガキの頃から親父殿に教え込まれたっつー、蜥蜴人族リザードマンの伝統武術の進化形態だ」

蜥蜴人族リザードマンの武術?」


 アングと共に少し離れた場所からリアトの見守っているナーさんが、何処か自慢気に語った。


「“殺生は幼子にも出来る。生かし護る事は誰にしても困難”―――そう言う親父さんの教えだとよ。リアトは何かを“生かし護る事”に関しちゃあ、得意中の得意だぜ!」

「あぁ、そうみたいだな」


 次々とリアトに薙ぎ払われる兵士は、一撃を喰らえばピクリともせず地に崩れ落ちる。

 けど出血は無い。

 ただの打撲だが、これは相当な技術を伴うはずだ。


「んー」


 だからこそ、不思議だ。

 こんな凄い奴なのに、何で銅級カッパーなんだろうな?


 ―――あ。そう言えば、魔力が殆ど無かったっけ?


 リアトには魔力が殆ど無い。

 先程“蛍ノ輝キ(ファイヤー・フライ)”分の魔力は授けたが、そんな物じゃ大して変わらない。

 冒険者である以上、剣一本で昇格するのは難しい事ぐらい俺にだって分かる。

 おまけに魔族で、剣技も“護る”が主体の物ばかり。

 あと、これは勘でしかないが、きっとあのローベリアみたいな魔族嫌いの連中の権力もあって、昇格も思う様に出来なかったんだろう。

リアトを仲間として引き入れたって言う団長さんは、リアトの実力をちゃんと見てる人なんだろうな。

 そんな人がリアトの周りいるだけでも安心は出来るが…


「こ…のぉ…隙ありだ…!」

「おっと」


 俺がリアトの勇姿に目を奪われている間に、回復した兵士が攻撃を繰り出してきた。

 勿論当りはしないが、回復担当がいる間は何度でもかかって来るだろう。


 ―――って言うか、何で「隙あり!」ってわざわざ声に出して攻撃してくるんだろ。意味ないじゃん?


 などと言う俺の場違いな疑問はさておき。


「面倒だな……さっさと気絶させるか」


 屍人族ゾンビの様に項垂れながら立ち上がってくる兵士達。

 後方で待機していた回復魔術専門の兵士が数名、手分けして回復魔術をかけている。

 遠目で見る限り、その回復魔術は上級だと見て間違いなさそうだ。

 

 ―――あぁ、そう言う事か。


 低級な魔術師や兵士しかいないのにローベリアが近衛兵として雇っている理由は、優秀な回復魔術師にちからを入れた屍人族ゾンビの如きしぶとさ(・・・・)を買われたからか。

 回復魔術師以外は、ただの捨て駒扱いみたいだが…


「アング! ナーさん! あと他の小人族ドワーフ達も! 少しの間、目を塞いでろ! リアトも極力コッチを向くなよ!」


 俺は警告しながら右手を天に掲げた。

 「目を塞げ」―――その言葉の意味を理解したアングが慌て始める。


「いかんっ! ナスタ・チムよ! マスターの言う通りに目を塞ぐのだ!」

「あ? 何で?」

「いいから早くしろ!」

「イテテテッ! わ、分かったから! 目に肉球押し当てんじゃねぇ!」


 アングがナーさんの目を強引に塞ぐ様子を見て、他の小人族ドワーフ達も慌てて目を塞いでいく。

 

「な、何じゃ…?」


 兵士の背後から顔を覗かせるローベリア。

 実にナイスタイミング。

 

「じゃあ死なない程度に―――」


 俺は魔力を高めた。

 本日、二度目(・・・)の上級魔法を発動する。


 「“悪魔ノ眼(デモンズ・アイ)”」


 ―――【Levレベル.1】で十分だな。


 天から降り注ぐの圧力プレッシャー

 狩人ハンターに使用した時と同様の魔力量で放つ。

 途端に糸が切れた人形の様に兵士達が地に倒れ伏せた。


「こ、これは…!」

「なっ…なななん、何という事だぁ…!?」


 目を逸らしていたリアトが倒れていく兵士達に気が付いた。

 驚愕に目を見開いて感嘆する。

 ローベリアも、信じられないという顔で腰を抜かしていた。


「チッ。デブは“眼”を見なかったか…」


 闇魔術―――“悪魔ノ眼(デモンズ・アイ)

 天空に顕現し、赤黒く輝く“眼”を見た者は、この兵士達の様に地にひれ伏す。

 レベルに応じて襲い掛かる圧力プレッシャーが増大する。

 【Levレベル.1】―――大抵の人間が身動き取れなくなり、魔力が低い者は気絶や失禁してしまう。

 狩人ハンターや地に倒れる兵士達がこれに該当する。

 【Levレベル.2~3】―――師匠せんせいの様な魔力の高い人間以外は下手すれば死ぬ。


「だ、誰かぁ…! 誰か、吾輩を護れぇ…!」


 気を失う所か失禁すらしていない様子のローベリアは、忌々しい事に俺の言葉を聞いて自分も目を伏せて術を逃れたのだろう。

 

「まぁ何はともあれ、魔術攻撃はこれで止まった。リアト! こっちは終わったから、思う存分暴れてやれ!」

「感謝するぞ、ヨウ殿!」


 そこからは、リアトの独壇場だった。

 魔術師の援護を受けられなくなった兵士達はすっかり及び腰になってしまい、リアトの攻撃に対して赤子同然に無抵抗だった。

 

 ―――というか、俺の“悪魔ノ眼(デモンズ・アイ)”を見てしまった様で、リアトにかかっていた兵士も何人かぶっ倒れてるな?


 そのお陰もあってか、リアトは最後まで立ち上がっていた兵士の鳩尾に拳を叩き込み、遂に兵士全てを打ち倒したのだった。


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