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被虐の魔王〜異世界で家族になる〜  作者: 葉月十六夜
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Story.24【傲慢な貴族】


 ナスタ・チムの鍛治工房も建ち並ぶ王都最奥の『小人族ドワーフ工房街』。

 その工房街の公道を埋め尽くすのは、武装した兵士達と、それを先導する小太りな貴族の男。


「さぁ!重罪人リアト・ヴァル・リザードを差し出せ!匿う者は同罪と見做し、この場で斬首刑に処す!これは我らの尊き国王陛下様からの直々の采配である!」


 貴族が下卑た笑みを浮かべ、兵士を先導しながら公道を闊歩し始めた。

 まるで自分が“王様”にでもなっているかのような横柄っぷりだ。

 いっそ裸で歩いてくれれば“裸の王様”と命名してやったのに。

 闊歩する貴族と兵士に見つからない様に、俺とナスタ・チムは店の中からこの状況に対する打破策を講じていた。


「さて、どうしたモンかな?」

「よぉ、アンチャン? お前ぇが“蒼薔薇アオバラ”の弟子だと豪語するなら、アレだけの数がいようが関係無ぇんじゃねぇのか?」


 ナスタ・チムさんが片目を伏せながら俺に問うた。

 まぁ、小鬼族ゴブリン軍勢に比べればどうって事ない程余裕なのは確かだけど?


「何でそう思う?」

「勘だよ。まっ、“蒼薔薇アオバラ”の弟子っつーのが一番の理由だな」

「ほほう?流石は伊達に年食ってない訳ね」

「今の発言は若気の至りって事にしといてやらぁ…」

「ごめんなさい」


 ナスタ・チムが槌を構えて俺の背後に立っている。

 俺死なないけど、死にたくないから即謝罪した。


「一先ずは、リアトの安全確保だな」


 俺はもう一度“遠隔会話テレ・トーク”でアングに連絡を繋いだ。


「アング。ソッチは大丈夫か?」


《今の所は。ですが、時間の問題かと。せめて、リアト殿をこの場から遠ざけねば…》


 “遠隔会話テレ・トーク”で会話するアングの声に焦りがあると分かる。

 先程まで俺も一緒に隠れていた路地裏の入り口のすぐ近くを兵士が行進している。

 アングは勿論の事、リアトは平静ではいられないだろう。


「ナスタ・チムさん? 仮に上手くリアトをここに連れて来られたとして、あの兵士達に見つからずにやり過ごす自信ある?」

「二、三人程度相手ならちょいと槌振り回しゃあ、ビビって引いてくれたかもしれねぇが……この数は流石になぁ」


 強面のナスタ・チムの表情が悔しそうに歪む。

 ここの小人族ドワーフ達は国法によって王国に守られているらしいけど、あの小太り貴族は偽物と思われる令状を駆使して、多少強引な捜索に乗り出しているんだろう。


「国王の耳に入る前に、全て片を付けようとしているな」

「仮に問い詰められても『犯罪者リアトと手を組み王国に反旗を翻す反逆者を、貴族として粛清した』だの、リアトとその逃亡を協力した仲間達の息の根を止めた後で好きなだけ自分に有利な虚言を並べる事だろうよ。クソッたれが…!」


 ナスタ・チムも俺と似たような事を想定していた。

 ローベリアと言う貴族について俺より知識があるナスタ・チムがそう言うのなら、間違いなくそういう未来が待っているだろう。

 

「チクショウ!こんな状況じゃあ、さっきリアトの仲間を呼び戻しに行ったサザンも帰って来れねぇ!下手すりゃあ全員一網打尽だ!」

「そのリアトの仲間達って、すぐに帰って来そうか?」

「リアトの無実証明の為の証拠集めに行ってんだ。この王都内に居る事は間違いねぇから、恐らくすぐ戻って来ちまう!」

「そうか…」


 俺は顎に手を当てて考えた。

 こうしている間にも、兵士が次々と手近のドアを開けて強行捜索を始めている。 

 時間が無いのは確かだ。




 ―――やれやれ。こうなっては仕方ないか。




 出来るだけ目立たないように行動したかったが、友達リアトとの約束だからな。

 俺はローブを羽織り、店のドアの前に進んだ。

 その様子を目の当たりにして、ナスタ・チムさんが慌てた様子で俺をドアの前で制した。


「ア、アンチャン!何する気だ!?」

「このままじゃ見つかるのは時間の問題だ。それに、あのデブ公が持ってる令状が偽物で、尚且つ俺達がそれを奪う事が出来れば、リアトに冤罪をかけたかもしれないって疑惑を追及出来るんじゃないか?」


 ローベリアは自分の主張を正当化させる為に偽の令状(あんな物)を持ち出したが、それが逆に自作自演を証明する証拠になってしまうとは考えても居なさそうだ。

 腹と同じぐらいに思考回路も弛んでそうだし。

 俺の案を聞いて、ナスタ・チムは強張った肩の力を抜かした。


「そ、そりゃあそうだが……お前ぇ、まさか本気でこの数の兵士相手にする気か?分かってると思うが、魔術が使える兵士だぞ?」

「そりゃあ奇遇だ。俺も使えるよ、魔術」


 俺は冗談交じりでナスタ・チムさんに「余裕」だとアピールした。

 少しの間、開いた口が塞がらなかったナスタ・チムさんだったが、俺が“蒼薔薇アオバラ”の弟子という事実もあってか、呆れながらも期待に満ちた笑みを俺に向けた。


「ヘッ!面白ぇじゃねぇか。アンチャンがあの伝説の冒険者の教えを授かったってんなら、是非ともその勇姿を拝ませてもらおうじゃねぇか?」

師匠せんせいの評価にも繋がりそうだな。じゃあ満を持して期待に応えますよ。ナーさん(・・・・)?」

「お?ガッハッハッハッ!おう!序でにリアトに冤罪吹っ掛けたって証拠も洗い浚い白状させてやろうじゃねぇか!」


 槌を片手に握り締め、ナーさんも俺の後に続いて店の外へ出た。

 俺は兵士達と対峙する前に“遠隔会話テレ・トーク”でアングに連絡を取る。


「アング。兵士共とやり合うぞ。リアトを連れて、公道に出て来てくれ」


《はっ! 仰せのままに!》


 アングは一切の躊躇無くそう返答した。

 今までの苦労を無に帰すような唐突な発言だというのに…

 まぁそれも、俺への信頼から為せる事だろう。


「じゃあ始めるぞ! この機に、リアトの汚名を雪ぐ…!」


 俺達は、意気揚々と貴族が率いる兵士一団の前に躍り出た。

 小人族ドワーフ族が店を構える工房街の公道に、小人族ドワーフの体格に酷似した小太りの貴族と、それに続く数十の武装兵士。

 そして、それ等と対峙する俺―――まぁ所謂、無法者と鍛冶職人の小人族ドワーフ


「ん?何だ貴様等は?一人は汗臭い小人族ドワーフの鍛冶職人に……そっちの小僧は知らん顔だな?この名高き麗しのローベリア様の行く手を阻むとは、不届き者め!」




 ―――麗し? 不摂生の塊でしたら、今目の前に居ますけど?

 



 デブ公は俺達の存在を確認すると、ただでさえ出っ張ってる腹をより一層前出しに主張して俺達を見下してきた。

 見下すと言っても俺達の方が背が高いんだけどな。

 短い腕を広げ、何処か芝居掛かった動きをする度に、弛んでいる脂肪が揺れた。

 思わず吹き出し笑いをしそうになる俺を他所に、デブ公は想い付いた様にポンっと手を打ち、公道に響く声を上げる。

 

「はは~?さては貴様等が重罪人を匿っているのだな?我が呼びかけに応じ姿を見せるとは賢明な判断だ!さぁ、さっさとあの極悪非道な魔族を引き渡すのだ!!」

「「………」」


 この時、俺とナーさんは全く同じ目していたと思う。

 呆れや怒りを通り越した、哀れな存在を見るような目だ。


「ねぇ、ナーさん。俺コイツと真面に会話出来る気がしないよ?」

「あぁ。このローベリアって野郎は、傲岸不遜でエゴイスティック。そして筋金入りの魔族嫌い(・・・・)だ」

「あぁ、成程ね」


 それだけでも、このデブ公が今回の貴族殺事件を自作自演で起こし、その罪をリアトに擦り付けようとしている疑いが確信へ変わった。

 



 ―――いい度胸じゃねぇの…?




 俺の中で、このローベリア(クソ野郎)と対立する準備が、完全に整った。


【ぷちっとひぎゃまお!(という名の詳細紹介)】


下衆の極み公爵―――『ローベリア』

名前由来:ロベリア『悪意』

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