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被虐の魔王〜異世界で家族になる〜  作者: 葉月十六夜
転生
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Story.22【交渉開始】


 ―――あっつ……


 室内はモワっと熱気で蒸し返っていた。

 見た所、建物の窓は全部開いてるようだったが、それでも羽織っていたローブを脱がないとやってられない程の熱気だ。

 

「あ。いらっしゃい」


 作業台と思われる広い机の上に武器を広げて、一つずつ手入れをしていた男が軽い口調で声をかけて来た。

 年齢は俺と同い年か、少し年上かもしれない。

 俺はその男の傍に近付き、一般の客を装った会話を始めた。


「どうも。知人にここの武器を薦められて、試しに寄ってみたんだけど……思ってた以上に良い品が揃ってますね。目移りしちゃいますよ!」

「ハハ、それは良かったッス。どれもウチの鍛冶職人の手掛けた一級品ッスから、値は張りますけど、耐久性と使い勝手の良さは保証するっスよ?」

「う~ん。これだけあると素人同然の俺には判断し辛いなぁ~。出来れば、その鍛冶職人さんに直接お話を伺いたいのですが?」

「あ~、すんません。今は受注品の作製で立て込んでるんで、ちょっと長話は出来ないんスよ」

「そうなんですか?残念ですねぇ…」


 俺は男の背後にある締め切られたドアを見つけた。

 その奥から、微かに鉄を打つ音が鳴り聴こえる。




 ―――直接話をするのは難しいか……なら……




「じゃあ、暫く店の中を見て回ってても良いでしょうか?」

「えぇ、勿論っス」

「ありがとうございます―――ところで」


 俺はイチかバチか、この男の反応で判断する事にした。


「この近くで、とある冒険者が貴族殺しの容疑に掛けられたという話を聞いたんですが、ご存じですか?」

「!………えぇ。まぁ」


 男の空気がピリッと引き締まった。

 これは、俺の発言に警戒を示している証拠だろう。


「聞く所によると、その冒険者の仲間も数名一緒に逃亡中だとか?」

「そうらしいッスね。まぁ俺は、そこまで詳しくないって言うか、興味無いんで……」 

「そうですか?」


 当然の如く、相手には俺が犯罪者リアトの容疑に対してどういった考えを持っているのか確認が取れない以上、正誤どちらの意見に賛同しても反発されるという危機感はあるだろう。

 そう言う事なら、ここは堂々と攻め込んで行く。


「いやね? 此処だけの話……実は俺、その話信じてないんですよね」

「は、はい?」

「だって何か矛盾だらけじゃないですか? 噂じゃあ、告訴した貴族が裁判待たずにあの狩人ハンターを雇ったとか。何かもう正しい判決が下される前にさっさと殺したいって意志が感じられて気味悪いって言うか……何処となく胡散臭くないですか?」

「は、はぁ…」


 俺は、リアトの容疑否定派としての意見を並べた。

 男はさっきよりも俺に対する警戒が薄れた様子だ。

 今の反応に好印象を感じた俺は本題に話を向け始めた。


「アンタはどう思ってます? やっぱ疑われてる犯罪者は理由関係無く許せない感じですか?」

「あー……いや。貴族殺しの理由もハッキリしてないし、矛盾があるって話は俺も聞いてるッスからねぇ?」


 男は歯切れこそ悪いが、確実にリアトの擁護に回る意思を示しつつあった。




 ―――これは、もう核心に迫って良いかもな。




 俺は意を決して口を開いた。


「なら、もしリアト(・・・)がアンタ達に助けを乞うたら、助けてくれるか?」

「ッ…!」


 男は驚いた表情をして、狼狽える挙動を見せた。


「ア、アンタ…何言ってるんスか…?」

「実は俺ね、今ある蜥蜴人族リザードマンと一緒に行動してるんだけど、面白い事にそいつの置かれてる状況がその貴族殺し容疑のヤツと類似してるんだよ」

「!」


 男は更に驚愕した表情を見せた。

 ここぞとばかりに俺は畳みかける。


「そいつは俺を用心棒にして、一番信頼の置けるこのナスタ・チムって小人族ドワーフの工房に身を隠してもらおうと考えてるんだけど……どうかな? リアトを匿ってくれるか?」

「………」


 男は不審な目で俺を見つめ返す。

 だが男の意識下では、俺がリアトを擁護していると認識してもらえた事だろう。

 



 ―――しかし、未だに警戒心が強い。リアトの事はともかく俺への信用が得られていない様じゃ今の話も嘘として流されてしまいそうだ。




 俺はもう少しリアトを擁護する発言を続けようとした。


「リアトとは今朝出会った。腹に大怪我負って、洞窟内で身を隠しながら一人で狩人ハンターを迎え撃とうとしてたんだよ。自分を庇ってくれる仲間を護る為に、死にそうになりながら闘おうとしてたんだ。俺はアイツの無実を証明させたい。その為には、アイツ自身が信頼してる人達が一人でも多く協力してくれると助かる。このままじゃアイツは国を追われ、野垂れ死ぬ事は必須だ。放っておくか?」

「………ちょっと、待ってろ」


 そう言うと、男は素早く締め切られていたドアの中へ入って行った。

 間も無くして鉄を打つ音が止まる。

 熊が歩くような足音を立てながら、一人の小人族ドワーフが汗まみれの体をタオルで拭きながら出て来た。

 焦茶色ダークブラウンのふさふさした髭を小さく三つ編みにして結い、髪を全て包むように大きなタオルで頭を巻いていた。

 腹は樽の様な形で弾力性が高そうだ。

 そして何百……否、何千回以上も槌を振り下ろして来たと思わせるゴツい筋肉質の両腕はとても雄々しい。

 

「お前ぇ。リアトと一緒ってのは本当か?」


 俺より低い身長で、一見鈍そうに見える太った体躯。

 しかし、その身に纏う覇気オーラや眼光の鋭さは大の大人でも怯む程の圧を感じる。


「アンタがナスタ・チム…さん?」

「俺の紹介はいいらしいな。それで? リアトは今何処に居る?」

「その前に、アンタがリアトを匿ってくれるっていう保証はあるか答えてくれ」

「何だと?」


 ナスタ・チムの眉間の皺が深くなる。

 一般人ならこれだけで気圧されそうだが、俺からしてみれば師匠せんせい覇気オーラと眼光に比べたらこの程度どうってことない。


「俺は一時的なリアトの用心棒だ。アンタ達がアイツの信頼を裏切って告訴した貴族に売ろうって腹心算なら、俺はこの店を潰す」

「なっ!? お前何言ってるッスか!」

「サザン、お前は黙っとけ!」


 ナスタ・チムの隣に並ぶ男が懐に携えていた短刀に手を伸ばした。

 そんな男をナスタ・チムが制し、脅迫に怯む様子も無く悠然と構える。


「逆に聞くぜ。お前ぇがリアトの用心棒だって保証は有んのかい? 上手い事言ってアイツを擁護してる層を焙り出そうとしてんじゃないのか?」

「そう思われてもしょうがないか。う~ん……証拠と言われる程でもないけど、コレ(・・)を貰った」


 俺は先程リアトと“等価交換トレース”した短刀を見せた。


「あ? そりゃあウチの売れ残りだった商品じゃねぇか?」

「コレって―――あ!銅貨一枚にもなんねぇからって、ナーさんがタダ同然でリアトにくれてやった俺の作品じゃないっスか!自信作だったのに!」

「あんなガキのママゴトで使う様なちゃちなモンで自信作とかほざいてんじゃねぇ!」

「じゃあ二人共。短刀(コレ)がリアトの物だって事は分かってるよな?」

 

 俺は短刀を机の上に置いた。

 顔を近付けて隅々まで観察する男は、呟くように「間違いないッス」と言った。


「俺は短刀(コレ)と引き換えに、リアトに“蛍ノ輝キ(ファイアー・フライ)”を譲渡した」

「「は?」」


 ナスタ・チムと男が同時に間の抜けた声を上げる。


「魔術を譲渡って、そんな事出来るんスか?事例を聞いた事ないっスけど?」

「いや待て。確か俺のひい爺さんが昔読んでた本に、そう言った未解明の魔術について書いてあると聞いた事があるぜ……」


 ナスタ・チムは自前の顎髭に手を添えて昔の記憶を思い出しているようだ。


「お前ぇ……まさか“未知魔術アンノウン”が使えんのかい?」

「流石に詳しいな」


 俺は短刀をナスタ・チムに差し出した。

 「何だ?」と言いたげに眉を顰めたナスタ・チム。

 徐に机に置かれた短刀に触れようとすると……


「……ん?んん?んんん?」

「ちょっと何してんスか、ナーさん?」

「いや、これ、んーッ!」


 どんなに触れようと腕に力を入れた所で、ナスタ・チムは短刀に触れられない。

 先程リアトに試した通り、この短刀はもう俺以外に触れる事は出来なくなっているからだ。




 ―――リアトの事は話した。この人達は恐らくリアトを擁護してくれる。このまま交渉を進めるぞ!




 俺には余裕があった。

 この二人からリアトを非難する様子は―――ゼロ(・・)だと判断したからだ。


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