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被虐の魔王〜異世界で家族になる〜  作者: 葉月十六夜
転生
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Story.20【小人族と逃亡者】


「リ、リアトを……助けろだ?」

「はい!もう、俺達が頼りに出来るのは貴方だけなんです!どうか仲間を、リアトを助けてください!!」


 工房内へ飛び込み、ナスタ・チムの姿を見るや否や、三人の冒険者は床に手を着いて深々と頭を下げた。

 その三人組の中でも取り分けて年上と見える無精髭を生やした男が、一人だけ頭を上げてナスタ・チムに請願した。


「リアトは冤罪だ。アイツが貴族を殺したとされてる日はずっと俺達と一緒に行動していたんだよ。間違いなんかじゃねぇ!」

「なのに、リアトを告訴しやがった貴族が『証拠は揃ってる』とかぬかしやがって、遂には金に物言わせて狩人ハンターまで雇って、リアトを…!」

「お願いします、ナスタ・チムさん!リアトさんを助けて下さい…!」


 無精髭の請願に続き、細身でポニーテイルの青年と美少女の魔法使い(ソーサラー)も、一緒になって請願を始めた。

 自分の足元でボロボロの身形も気にせず仲間の救護を要請されているナスタ・チムは、頭を抱えた。


「アジューガ。ライリー。マル。俺もさっきリアトに殺人容疑が掛かった事を知らされたんだ。正直、俺はリアトが殺しただなんて信じてねぇ」

「じゃあ!」

「だがなぁ?お前ぇ等がリアトと話合わせてるって可能性も捨てきれねぇ」

「そ、そんな…」

「違います!私達は本当にリアトさんと一緒に仕事で大森林まで行ってたんです!お疑いなら団長にも確認を取って下さい!」

「それは難しいと思うッスよ?」


 今しがた、アジューガ達にドア越しで吹っ飛ばされたサザンが、強打した腰を擦りながら話に加わった。


「アンタ等の所の団長さん。王様に呼び出されて、今は城内に軟禁されてるって話ッス」

「団長が!?」

「そんな……王様までリアトさんを?」

「王が蜥蜴人族リザードマンを信じてるか知らないッスけど、団長さんを軟禁してんのは、もしかすると、貴族連中から守ってるって可能性もあるッスよ?団長さん、一応は王族の家系なんでしょ?」

「そうですけど…」

「成程な。そう言う事なら、まぁ団長の事は心配ないだろう。俺等が心配してんのはリアトだ!アイツの無罪を主張してぇのに、貴族が話も聞こうとしねぇ」

「所詮俺達みたいな末端の弱冒険者の言葉じゃ、金の力だけで捻じ伏せられてしまう……」

「ですので! 王様からも信頼を寄せられているナスタ・チムさんにリアトさんの弁護をしてもらいたく此処に来ました!」


 マルが魔法の杖を床に置き、両手でナスタ・チムの手を握った。

 雪のような白い手には幾つもの生傷があった。

 ナスタ・チムはそれを見て、リアトと共に追撃を交わす際に付いたものだとすぐに理解した。


「お願いします!リアトさんの弁護をして頂けるのでしたら、私達は何でも言う事を聞きますから!」

「頼むよナスタ・チムさん!俺達の仲間を助けてやってくれ!」

「お願いします!お願いします!」


 三人は何度も頭を下げながら必死に嘆願した。

 突如、三人の声を静める程の打撃音が響く。

 ナスタ・チムが握り拳で叩いた机から発せられた音だった。


「うっせぇ!!狭ぇ部屋ン中で寄って集ってデカい声撒き散らしてんじゃねぇ!」

「アンタの声が一番デカいッスよ」


 サザンのツッコミを無視して、ナスタ・チムは短い腕を組んで踏ん反り返った。


「お前ぇ等の言い分は理解した。俺も一応目に掛けてやってた野郎が冤罪吹っ掛けられりゃあ黙ってらんねぇさ」

「だったら…」

「けどなぁ? 残念だが相手が貴族相手じゃ、決定的な証拠を持って来れない限り金の力で幾らでも向こうの思うがままに進む。弁護人雇っても金で丸め込まれりゃあ、お終いだ」

「で、ですから、リアトの弁護人として俺等と一緒にナスタ・チムさんに弁護をお願いしたいと…」

「決定的証拠が無ぇなら、俺も弁護しきれねぇ。それどころか、俺まで犯人隠避の罪に問われて、この店を畳まれちまう。それは御免だ!」

「そ、そんな……団長も軟禁されてる今、頼りになるのはアンタだけだったのに……」


 アジューガ達は失望して床に膝を着いて項垂れた。

 三人を椅子に腰かけたまま見下ろすナスタ・チムは、またも部屋に響く大声で渇を入れた。


「馬鹿野郎が!!仲間の行く末を他人に丸投げする無責任者がどの世界に居やがんだ!?お前ぇ等の仲間なら、最後まで尽くせる手を尽くし切って諦めやがれ!!」

「アンタが最後の手段だったんだよ!王都に居る知り合いに片っ端から弁護を頼んでも、アンタと同じような理由で断られたんだ!所詮は他人の命だから自分の首絞めて王都で過ごせなくなるのが怖ぇからって!!」


 アジューガが怒りを込めた怒声を撒き散らした。

 その横で、遂に耐え切れず涙を流し始めるマルとライ。

 そんな三人の情けない姿を見限って、額に青筋を浮かべたナスタ・チムが椅子を倒す勢いで立ち上がった。


「告訴した貴族の裏は取ったか!? リアトが武器を預からせてた武器屋に問い質したのか!? 殺された貴族とリアトの接点は調べ上げたのか!? 逃げてた事は言い訳に出来ねぇぞ!!」

「そ、それは……」


 ナスタ・チムの正論にアジューガ達は口を閉ざした。

 すっかり意気消沈した三人に、ナスタ・チムは立ったまま話を進めた。


「お前らが今すべき事は証拠集めだ。俺も出来る限りでの情報集めぐらいはしてやる。あと、リアトがもしウチに逃げ込んで来た時は……上手く誤魔化しといてやる」

「ナ、ナスタ・チムさん!」

「ちょっと、ナーさん!?」

「サザン。お前ぇも手伝ってやれ。断るってんなら、減給だ。良いな?」

「そんな横暴ッスよぉ!」


 顔面蒼白のサザンを他所に、ナスタ・チムは奥から古ぼけたローブを三人分引っ張り出してきた。


「貸してやる。“認識阻害”の術式が付与された魔具だ。これ着てりゃあ簡単にお前ぇ等だとは気付かれねぇだろう」

「あ、ありがとうございます!!」

「おっと、タダじゃねぇぞ?事が無事に済んだら、騒動の原因の蜥蜴野郎と一緒に金払いな。一人に付き銀貨十枚だからな!」

「ぎ、銀貨十枚!?」

銅級カッパーの仕事だけじゃ何ヶ月かかるか…」

「嫌ならローブを返しな。顔が知られてるお前ぇ等が無事にリアトを助けて帰ってくる事を祈ってるぜぇ」

「ぐ、ぐぅう……足元見られているぅ……!」

「でも、リアトの命に比べればぁあ…!!」

「お借りしますぅう!」

「おう!マイドッ!」

「ナーさん」


 涙目になりながらナスタ・チムからローブを受け取ったアジューガ達三人は、それを羽織った。


「じゃあ、証拠集めに行ってきます」

「おう。その間にリアトが来やがったらサザンに報せに行かせるからな」

「俺ぇ!?」

「お願いします!」

「ナスタ・チムさん。本当にありがとうございます」


 マルが一礼した後、三人はローブのフードを深く被り、工房の出口から出て行った。


「あーあ。ナーさんのお人好しが出ちゃった所為で、俺等の先行きまで不安になってきたッスね」

「グダグダ文句言ってんじゃねぇ!せっかく捕まえた客を逃がすのが惜しかっただけだ!」


 そう言うと、ナスタ・チムは再び灼熱の炉に向き直った。


「………」


 密かに胸の内で膨らんで来る不安を掻き消す様に、拾い上げた槌で熱した鉄を、強く叩いた。


【ぷちっとひぎゃまお!(という名の詳細紹介)】


リアトの仲間達―――『アジューガ』『マル』『ライ』

名前由来:アジュガ『強い友情』、マロウ『柔和な心』、ライラック『友情』

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