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大切な一人

作者: 黒造 歴

高校三年生になり2学期が始まった頃だった……


俺には幼馴染みと言うものがいる。

仲は悪くないが良くもない、いや正確には良かったという方が正しいのだろう。

でも、それは小学生の頃までだった。

特定の女子と親しいというのは冷やかしの対象だと知った中学の時、俺は幼馴染みとあまり学校で話さない近づかないを心に決めた。

幼馴染みに話すと「わかった」といって学校で話すことはなくなった。


そのまま1年を過ごし、中学三年が終わり無事に進学、同じ学校だった。

高校に入り、周りも自分も成長して特定の女子と親しみを持つのは羨望の対象へと変わった頃、俺は幼馴染みとまた楽しい時間を過ごせると思った。

だが現実は非情だった、あいつは幼馴染みは成長していた見た目は美しさを体現したようなものだった、今の他人も同然の付き合いで1年を過ごした俺には話しかけるのは無理だった。


そしてまた1年が過ぎ2年生になった。

俺はそこそこ運動神経がよく、勉強もできた、勉強は苦手だったが中学の最初の頃に幼馴染みと同じ勉強法を身につけた成果だと言って良いものだ、そう考えると今の状況に苦しくなった。

中間テストで上位の成績をとった、あいつは一位だった。

体育祭、運動をそこそこできる俺にとってはワクワクする行事だった、徒競走は一位の座を取り終了、去年も一位をとっていたのでとても嬉しい、タイム的には中くらいだがそれでも満足だった。

体育祭が終わり夕方、皆が帰り始めた頃俺は校舎裏に呼び出された。

それは人生初の告白だった、一年生の女子だった、俺は嬉しくなり了承した。


しかし、その一年生の子と過ごしている最中も幼馴染みが忘れられないことに気づいた。

俺は一年生の子に申し訳ないことをしてしまった、だから潔く振られておいた。

そしてやっと決心のついた俺は幼馴染みに話してみることにした。

そこでとある噂を聞いてしまった、幼馴染みが先輩と付き合っているというものだった。


俺は話しかける勇気が無くなった。


それでも時は過ぎ三年生、寒くなり始めた11月

幼馴染みと先輩が付き合ってると言う噂はすっかり消え、進学するものは勉強に励む時間となった、俺もその一人だ。


それは偶然だった、放課後、2年が主体となる部活動が始まった頃、俺は屋上へと行ってみた。

一回だけいってみたかったそこに開いてないだろうと思いつつ行くと、いつもかかっているはずの南京錠は床に落ち、ドアは半開きになっていた。

開けると誰もいないように思えたが横から声が飛んできた。


「何だ、君か……」と、何か色々な思いがこもってるのかただ思ったことを口にしただけなのかわからない、がそれは確かに幼馴染みのあいつが俺に向けた言葉だった。嬉しくなった。


だがあいつは独り言のように呟き始めた。


「……君は私と居ない間は楽しかったかな?私は……とても辛かったよ。それでも君は男子の友達といる方が楽しそうに見えて、自分から近づいて拒絶されるのが怖くて、君はなんともないように見えて平気そうにしてるのが悔しくて悲しくて、だから私は悔しくて、高校に入って周りも成長した、君の心配してることは無くなったよ、そう思った、けど君は私なんていなかったように生活を楽しんでいた。あぁ最初っから私は君に必要なかったんだ、そう思った、追い討ちのように君に君は後輩の女子と付き合い始めたあのときが一番辛かった、叫んでしまいそうだったよ?君は私のものだ!ってさ」


そうだったのか思ってることは同じだったんだ。


「それでさ」


幼馴染みは柵の向こう側へと立った。


「辛くて辛くて紛らわすように告白してきた先輩と付き合った、でもさ先輩と過ごしてる間も君の笑ってる顔が浮かんできて、先輩の私を見る目は気持ち悪くて、振ったんだ。自分勝手だよね、自分のために付き合っておいて自分が嫌だから振った。」


そんなことない……俺も同じことをしている、そういいたくても嫌われるのが怖くて声に出せない、そんな自分が嫌になる


「でさ、やっとわかったんだ私はもう良いんだって私は私の人生に価値を見いだせないから、もういいんだって、だからここに来たんだ……最後に君に話せて良かった」

「待て!」


幼馴染みが手を離そうとした瞬間声が出た、反射的なものだった。

それで幼馴染みは止まったが足を滑らせ落ちてしまいそうになっていた。

ここで手をとれていなかったら一生自分を呪っていただろう。

目を見て幼馴染みに、自分に問う。


「お前はなんだ?」

「……え?」

「俺はお前の幼馴染みで友達だ。」

「……わ、わたしも」

「そうだ、だけど今までずっと他人だった。」


そうだった、他人だったのだ、俺たちは、とても小さなことがこんなにも大きな存在を消してしまっていたのだ、ずっともとの関係になりたいと願った。願うだけだった。


「今までの俺は独白だ。小さなことを積み重ねて大事な人を失うところだったどうしようもない、小さな男だった、だけど俺は独白はもう嫌だ。」

「……」


幼馴染みは無言で聞いている。

そして俺の独白はもう終わりする。


「おまえはどうだ?」

「私は、一人でいるのが好きだったけど独りは嫌だってわかった。」

「じゃあ大勢の友人と俺、どっちと一緒にいたい?」

「ずるいよそれ、私がこの四年間、望んでいたのはずっと君だ。これだけは変わらなかった」

「ずいぶんと気が合うな」


漫画みたいな劇的な展開は無い

そこにあるのは小さな多くの悩みと自分にとっての大きな存在との小さな物語

長いようで短い、短いようでとても長い、人生のたった一部


俺の独白はこれで終わり

大切な友人で居続けるかはわからないが

俺とあいつが大切な一人であることはこの先ずっと変わらない

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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