【書くことを始めたきっかけ】かつて中学生だった僕とアイツの話。
小説を書こうと思ったきっかけって、みんなあると思うんです。
中学生の頃、ものすごく気の合う友人と出会った。
絵を描くのが好きで、お話や設定を考えるのが好きで、漫画のツインシグナルが大好きで、とにかくお互いの好きが全部重なっているくらい気が合った。
ツインシグナル。
当時ガンガンで連載していた人気漫画で、片田舎の研究所から始まる、人間とヒューマンフォームロボットの交流の物語だった。
この作品にはAからSまでのイニシャルを使ったAナンバーズというロボットたちが登場するのだが、当時の僕は中学生らしくもSの次のTのロボットキャラを考えてノートに書き殴っていた。
あるとき、それを彼に見せた。
すると次の休み時間に彼はUのロボットキャラの絵と設定を描いて渡してくれた。そこから僕と彼の絵の交換が始まった。休み時間になるたびにノートのページを破いたものを渡し合った。それは学年が上がってクラスが分かれてからも続いた。休み時間になるとどちらかが相手の教室に行って、描いた絵を渡した。
僕らはちょうど同じくらいの力量で、だから相手の絵をもらうのも自分の絵をもらってくれるのも、とにかく全部が嬉しかった。
僕は彼が絵の仕事につくのではないかと思っていたし、もしかしたら彼もそう思ってくれていたかもしれない。
中学生特有の夢見がちな将来予想図は、稚拙だが輝いていた。
高校生になった。
僕と彼は別々の高校に行くことになった。
彼と離れたことで僕はあまり絵を描かなくなった。彼とはずっと仲良くありたかったけれど、現実は漫画みたいにはいかなくて、このまま疎遠になるのだろうなと思っていた。
その後僕はなんとなく弓道部に入った。
本当になんとなくだ。格好いいかも、以上の理由はなかった。
そして練習の日々を越え、試合の会場に行ったとき――向こうの高校で弓道部に入っていた彼と再会した。
本当に、恐ろしいほど気が合う男だった。
そうして会場で合うたびに相手の場所に出向いて二人で絵を描いたりしていたのだが、彼は少し見ない間にとてつもなく上達していた。
上達のコツを聞くと彼は言った。
「コピー用紙ってあるじゃん。500枚いくらで売られてるやつ」
「ああ、あるね」
「あれを買って、無くなるまで絵を描くんだよ。ずっとそれだけやってた」
その日、僕は500枚のコピー用紙を買った。
そして絵を描いた。でも、描いても描いても残った紙の厚さは変わらなかった。
彼との差はいつの間にか明確に開いていた。描けば描くほど、それが目に見えるようで苦しくなった。
彼と会って話して絵をもらうのは楽しかったけれど、同じ紙に載せた自分の絵はひどく色褪せて見えた。
そんなとき、とある作品の二次創作を投稿できるサイトに出会った。
僕はキャラクターの設定を作るのは大好きだったので、絵を思い浮かべながら一人のキャラクターを考え出した。
未熟で弱くて劣等感の塊だけれど、だから周りの人間がすべて輝いて見える男。
そのキャラクターだけを決めて書き殴った文章を投稿した。
そうしたら褒められた。
自分の書いたものを、知らない人に、褒められたのだ。
それでその気になって、僕は文章を書く訓練を始めた。
その後、当時電撃文庫がやっていた電撃SSSという素人投稿企画で採用されたことを機に、僕は文章の道に進むことを決意した。
大学生になった。
枕元にメモ帳を置いて、寝る前に思いついたことと、夢で見たことをすべてメモするようになった。それを元に小説を書こうと思ったのだ。
アイデアは積もりに積もり、メモ帳は10冊を越えた。
大学生になっても、彼との付き合いは続いていた。
二人でオリジナルの話を考えてアイデアを出し合ったりした。
彼の絵はさらに巧くなっていた。電撃のイラスト賞に応募しようかな、なんていう話もしていたような気がする。僕は自分が書いた話に、彼が絵を描いてくれたら最高だな、なんてことを考えたりもした。
しかし、何度小説を書こうとしても、まったくと言っていいほど進まなかった。
なぜなら、一度たりとも想像の中の自分に勝てなかったからだ。
想像の中の僕はもっと面白い話を書いていた。もっと読みやすくて感動する文章を書いていた。だというのに、現実の僕はいつも地を這っていた。
だから書くたびに全部消し、真っ白になったテキストにまた文章を書いていた。
結局卒業までに完結させたのは、卒業論文として提出した短編小説だけだった。
このままではいけないと僕は思った。
このままでは何も残せない。一つだけでも書き上げて、新人賞に投稿したい。
どうせなら大好きなラブコメにしよう。原体験である天地無用にならってダブルヒロインのものがいい。一人はサドで主人公を超けなし、一人は主人公を超褒める。けれど都合のいい方を選ばずに、二人の愛を平等に見ることができる主人公の魅力を書こう。
そう思って書き始めた。
書いているうちに当初のプロットから色々と変わっていった。ヒロインの性格が変わった。いつの間にかバトルものになっていた。
そして――いつの間にか、ライバルの男キャラが出てきていた。
恋愛のライバルではない。自らのライフワークとして武術を研鑽する主人公の横に立ち、競い合い高め合う戦いのライバルだった。
彼は優れた才能を持っていた。主人公はそうではなかった。徐々に引き離される距離に焦りを感じる主人公。しかしライバルは、主人公がそこに来ると信じて待ってくれている。
書き終えて、気づいた。
この主人公は僕で、彼は彼なのではないか、と。
僕は彼にどうして欲しいかを、僕が彼をどう思っているのかを意識せずに書いてしまったのではないかと。
さて。
かくて完成し投稿し、そして落選した物語が現在投稿されている『白嶺学園風雲録』だ。
もしも読んでもらえるなら、ぜひこの話を思い出しながら読んでみてほしい。
そこからどんな感情を、どんな人物を見出したのか、とても興味があるからだ。
……あるいはいつの日か、この文章ともども我がライバルに読まれる日が来るのかもしれない。
そのときにお互いがどんな場所にいるのか。
それが、恐ろしくも楽しみである。
当時彼と交換していたノートの切れ端は今でもすべて保管しています。我ながらちょっとヤンデレっぽい。