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三人目の殺害



……このまま終わると後味が悪いでしょう?ちゃんと手紙の続きをお見せしますよ。



私は、三人目の殺人を犯す為に今、駅のホームにいます。


もうすぐ電車が通過する時間なので、その時に飛び込もうと思っています。そんな事をしたら、とてもたくさんの人に迷惑をかける事は分かっていますが、お父さんとお母さんに賠償金を請求されるだろう事を考えればいい気味だと思ってしまいます。


手紙は家に残して来たので、他にやり残した事はもう無いでしょう。しいて言うならば、一度で良いから温かいご飯という物を食べてみたかった。……いつもは冷え切った残り物で、お父さんとお母さんの機嫌の悪い時は何も食べられないか、生ゴミを食べさせられるか、火にかけられたスープに顔ごとつけられるか……とにかくちゃんとした食べ物を食べた記憶が無いから。


ガタンゴトンガタンゴトン、と電車の近付く音がします。大きく息を吸い込んで覚悟を決めると、思い切りよく飛び込みました。ボキッと音がして、足の骨を折ったのか、もう臆病風に吹かれたとしても電車に轢かれる運命しか無くなりました。


目の前まで電車が迫り、運転手が凄い形相でブレーキをかける姿までくっきりと見えました。走馬灯は流れ無かったので、嫌な思い出を思い出さなくて済んだ代わりに、最期の時間がゆっくりと流れているようです。


しかし、その視界に何故か後を追って飛び込んでくる人影が見えました。同じ自殺志願者なのかと思ったら、脇を抱えられて引きずられ、ホームの下の僅かな空間に押し込まれました。


唖然としている間に電車が、今まで私のいた空間を通り過ぎて急停車し、私の殺人計画は失敗に終わりました。



「何やってんだっ!?この大馬鹿野郎が!」


と、私を助けた人に怒鳴られたので、仕方無く謝っておいたのですが、渋々といった様子が伝わってしまったのか、さらに説教が続くようです。


「何があったのか知らないが、死ぬなんて馬鹿げてるぞ!それに、電車に飛び込むなんて、大勢の人間に迷惑をかけることにもなる。本当に分かってて飛び込んだのか?」


「分かってる…でも、私は生きてちゃいけない人間だから。悪い子は罰を受けるのが当然で、それなら人を殺した私は死んで償うしか無いと思ったし、ついでに恨みも晴らしたかった。」


「……人を殺した?どういう事だ?それは本当なのか?」


「そうだよ。何十回も殺した。戸籍の無い私は人間じゃ無いから、何で生きてるのか分からないのに、人を殺そうなんて、そう思っただけで絶対に許されない事なんだ…」


「なあ……お前は、もしかして……」


彼が何かを聞こうとしたその時に、駅員が駆け付けてきて、私と彼は線路から立ち去る事になった。すぐに警察もやって来て、事情聴取の為に別々にされたので、それ以降二度と会う事は無いと思った。


私は警察署に連れて行かれて、自殺目的で飛び込んだ事以外は黙秘を貫いた。ただ、すぐに病院に連れて行かれて、体中に残る痣と傷跡、ボロボロの服などから、お父さんとお母さんが疑われて、事情を聞かれているようだった。


私はその後、空想の中と同じように児童相談所に連れて行かれてしまった。施設に入る事になるそうだ。そこには同じような境遇の子がたくさんいるし、もう大丈夫だと言われた。何が大丈夫なのか分からない。私は暴れた。叫び続けた。そうしたら――


精神病院に入れられてしまった。仕方が無いので、あそこよりはましだと思って、また戻されてしまわないように時々暴れたり叫んだりするようにした。


私は結局、十八歳になるまで病院で過ごした。その間に何度もカウンセリングを受けさせられたりしたけれど、言っている事がよく理解出来ないまま大人になってしまった。


病院を出たは良いが、読み書きや家事は出来ても、学校には行っていなかったし、どうやって働けばいいかも分からない。頼れる人間も無く、また駅に戻って来てしまった。


病院を出てから確認した限りでは、お父さんとお母さんは結局証拠不十分で不起訴になったけれど、あの街には居られなくなって、遠くへ引っ越していったらしい。


あの人達から解放されて、もう復讐は必要無さそうだったけれど、その事で私は目的を失ってしまった事になる。


これからどうしよう……と、ぼぉっとホームに突っ立っていたら、突然腕を掴まれて振り向いた。


「…お前、また飛び込もうとしてるのか?」


厳しい表情で私の手を掴む彼は、以前ここで私を助けた人でした。凄い偶然にとても驚きましたが、結果的に私をあの人達の下から救い出してくれるきっかけになった人です。会えた事を少し嬉しく思いながら笑いました。


多分気味の悪い笑みになっているのでは無いでしょうか。お父さんとお母さんがいつもお前の顔は醜いと言っていました。


「いいえ、どうしようか迷ってたんです。行く宛も無いし、餓死するのも時間の問題なので。」


「……お前さ、やっぱり親に虐待されてたんだな。あの後ちょっとした騒ぎになってたんだぞ…施設に入ってたんなら、働き先や住む所も一応世話してくれるじゃないか。もう逃げ出したのか?」


彼は同情や忌避感など無く、あっさり話してくれるから、私も気楽でいいな。質問にも気分良く答える事が出来る。


「施設にはほとんどいなかったんだ。精神病院に入れられちゃって。成人したから勝手に出て来たの。兎に角施設に入りたく無かったから病院で大人しくしてただけだしね。」


「精神病院って、お前な……そんな事簡単に言うなよ。俺じゃなかったら病院か警察にすぐに通報してるぞ。」


素直に答えたら呆れた風にため息を吐かれてしまった。当然といえば当然だけど。


「あはは。まあ普通に考えて私って、頭おかしいからね。バケモノは閉じ込めて置かなきゃいけないんだよ。」


私がまだ保育園に通ってた時に、保育士さんと他の園児の保護者、それにお父さんとお母さんに初めてそういう目で見られた。それ以来かな、あの人達が私を虐げるようになったのは。


「お前はそれで良いのかよ?わざわざ逃げて来たんだろ?」


「良くないよ。でもほら、どうせ外に出てもやる事無いって気付いちゃったからさ。仕方無いかなって。」


「っ、はあぁぁ………!もう分かったよ。お前さ、やっぱちょっとおかしいよ。普通じゃない。だからさ……」


「うん。病院に戻るね 抵抗したりしないから安心して。」


「そうじゃねえ!話は最後まで聞けよな!お前は確かにどっか頭おかしいし、普通じゃないけどな。だから何だって言うんだよ。お前はあの時殺そうと思っただけで人殺しだって言ってたけど、実際には殺して無いんだよ。誰一人、な。法律は守るのが普通・・で、何もおかしくないだろ?だったらお前は人殺しでも何でもなく、ただの一般人だ!分かったか?」


あれ?私が三人殺したって思ってたのって勘違いだったのかな?いきなりそんな事言われたら混乱してそうだと思えてくるから、とても不思議な気分です。


「うーーん……分かった、のかな?それにしてもあなたもだいぶ変わってるよね。私にそんな事言ったのあなただけだよ?」


「俺も虐待されて施設にいたからな。お前に共感出来るとは言わないが、まあ俺も普通の育ち方はしてないからな。」


「なるほど、そうだったんだね。じゃあ私が飛び込んだりして、施設出身とか噂が立ったら迷惑するんだね。あなたも私と同じだと思われたりしちゃうよね。」


「そうだよ!迷惑だからやめろ。ていうかお前ってさ、妙に鋭かったり、鈍かったりの差が激しいのな。」


「あぁ…なんか、何でも見透かしたような態度が気に障るらしくてさ、お父さんとお母さんの前では何も分かんないフリとかしてたんだよね。それを続けてたら、本当に分かんなくなっちゃったりもしてさ。今のこれも、馬鹿みたいな話し方でしょ?困った困った」


あんまり器用な方じゃ無いけれど、苦笑いしながらペロッと舌を出して見たら、彼は思わずといった様子で吹き出した。


「お前さ、アレだろ。能ある鷹は爪を隠すっていうか……あー、アインシュタインとかそういうぶっ飛んだ奴に似てるんだ!」


「おもしろい事言うね。本当にそうだったとしたら、彼らも生きるのが大変だったろうな。」


「普通と違うってだけで既に大変だもんな。」


「そうだねー。」


私が頷いたところで、話題が終わってしまって、しばらくの間お互いに無言が続きます。何も話さなくても意外と居心地が悪く無いから私はずっとこのままでも良かったんですけどね、意を決したように彼がおかしな事を言い出しました。


「……でさ、お前さえ良かったらなんだけど、行くとこ無いなら俺ん家来るか?」


「俺ん家って……一人暮らしなんでしょ?誘ってるの?」


「馬っ鹿…!違うよ。泊めてやるって言ってんだよ。仕事と住む所が見つかるまでだぞ!」


「……なんで?理由を10文字以内で述べよ。」


「10文字って短いな!えーっと、理由って言われてもな……」


「それが答え?」


「え?……って、『10文字って短いな』って、丁度10文字になるのか!って、違うわっ!」


一人ノリツッコミしてる彼が、邪な理由で言っているわけでは無いと分かったので、もう少しからかって遊ぶ事にする。


「やたら「って」って言ってるね。おもしろい。じゃあさ、もし仕事見つからなかったら、永久就職してもいい?」


「……永久就職って、古いな!無理だぞ、そんなに稼ぎ無いんだから。」


「じゃあ共働きなら良いの〜?無理なだけで嫌では無いんだもんね?」


「お前なあ…酒でも飲んでるのか?絡み方がそういう感じだぞ!」


飲んだ事無いよ。ただ単にテンション高いだけー。その方がよっぽどたちが悪いわ!と、話しながら駅を後にしています。


……どうも、成り行きで今後の方針が決まったみたいです。まだまだ中身がこどもな私は、彼の行動力や考え方を見習いたいと純粋にそう思いました。



ほんの少しだけ事実も織り交ぜてはありますが、この小説はあくまでフィクションです。

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