2つの顔を持つ男 第3話
由香が帰った後、慎二郎は明日香を呼ぶ。
「明日香。早速だが、仕事だ。この画像の男について、一寸調べてくれないか?」と、彼は先程由香から転送してもらったメール画像を明日香に見せる。
「まー、軽薄を絵に描いたような感じの男ね。で、この軽薄男の名前は?」
「佐伯陽一、話によると伍菱商事の営業三課に居るそうだ。」
「なるほど・・・分かった、調べてみる。」
そう言うと、彼女は店の奥に引っ込む。彼女と入れ替わりに、今度は大柄の男が入ってくる。金髪に染めた短髪、厳つい顔にうっすらと生えた顎鬚、筋肉質の引き締まった体をバーテンの制服に包んだこの大男の名前は武山隼人。慎二郎の友人で、勿論彼も「付き馬」チームの一員だ。名前だけ見ると日本人だが、実は彼は日本人と韓国人のハーフだ。
「何や、慎二郎。仕事かい。」と、大あくびしながら関西弁で訊ねる隼人。東京よりも大阪での生活が長かったせいか、東京に移り住んだ今でも関西弁が抜けない。まあ、これも彼の個性の1つであるが。
「そうだ。もっとも、今回に関してはお前の出番はないな。ま、そういう場合はオレの代わりにこの店の番でもしていてくれ。」
「殺生やな。まあ、ええわ。その代わり、ワイの出番があるようなら、すぐに呼んでや。最近、腕が鈍って仕方がないんや。ショバ代毟り取ろうとするアホなヤー公も最近減ったしな。ま、フルボッコにされる事分かってて、来るアホも来んけど。」
そう言いながら、隼人はシャドーボクシングを始める。高校時代にボクシングで国体優勝経験のある彼は、今でも週2回はジムに通って体を鍛えている。そんな彼のこの店での役割は「用心棒」、みかじめ料と称して金を毟り取ろうとするチンピラやヤクザを、少々強引な方法で店から出て行かせるのが彼の仕事。それは裏稼業の方でも変わらない。
「ぼやくな。お前の力が要る時は、必ず来る。その時まで、その力は取って置く事だ。ほらよ、眠気覚ましだ。」と言いながら、慎二郎は傍に置いてあるバーボンのボトルを投げ渡す。隼人はそれを受け取ると、栓を開け、ラッパ飲みで一気に飲み干す。
「ありがとさん。やっぱり、目覚めには味噌汁よりも酒やな。ほな、店番替わるわ。」
隼人はそう言うと、慎二郎の代わりにカウンターに立つ。そして、慎二郎は明日香のいる部屋に向かった。