二つの顔を持つ男 第1話
東京・新宿の歌舞伎町。24時間眠らない街の片隅に、とある小さなバーがある。名前を「プロミストランド」といい、美味いカクテルと時間を忘れる程静かな雰囲気で評判の店である。
評判になっているのは店の雰囲気だけではない、マスターも評判であった。俳優の松田翔太に雰囲気がよく似た彼の名前は岩崎慎二郎といい、元々はこの歌舞伎町でホストをしていた。が、2年前にホストを辞め、その時に貯めた金でこのバーを開いた。開店当初は閑古鳥が鳴いていたが、最近は口コミやSNSで評判が広がり、それなりに繁盛していた。
そんな、どこにでもあるようなバーであるが、実はこの店にはある秘密があった。いや、店というよりも、マスターである慎二郎には「もう1つの顔」があった。今宵もその「もう1つの顔」に会う為、1人の女が店を訪れていた・・・
バーのドアが開き、1人の女が店内に入ってきた。一見すると風俗嬢っぽいが、なってから間がないのか、まだ不慣れな感じの空気が漂っている。カウンターに座ると、ライトブラウンにショートヘアにバーテン姿の女が話しかける。彼女の名前は木戸明日香といい、この店の看板娘である。
「いらっしゃいませ、ご注文は?」
「ドライマティーニを1つ、それと・・・マスターをお願いします。」
「・・・かしこまりました。」
彼女は店の奥に引き上げる。数分後、カクテルグラスを手にした1人の男が姿を現す。顔は松田翔太似、背が高くてガッチリした体型、身に着けている装飾品は一見すると地味だがいずれもブランド品である。だが、それ以上に彼を表しているのは、鷹の様に鋭い目だ。彼こそ、先程から話題になっているこの店のマスター・岩崎慎二郎だ。
「いらっしゃいませ。こちら、ご注文のドライマティーニです。」と、グラスを彼女の前に置く慎二郎。そして、続けて話しかける。
「・・・で、オレに話があるそうだが?」
この言葉に彼女は黙って頷いた。