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蒼星  作者: たま ささみ
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第1章  フェイト銀河

地球から何億光年も離れた宇宙空間に形成された一つの銀河系。

 銀河系の通称は「フェイト銀河」。

 恒星フェイトを中心に、9つほどの惑星が周囲を公転する銀河である。


 フェイト銀河内の惑星には、生物が存在した。地球でいうところの科学も存在した。

 しかし、形を持った物体は存在していない。あるのは生物~人の意識だけ。

 惑星ごとに生物の「種」が分れていた。地球上でいうところの民族のようなものだ。


 フェイト銀河の惑星群では、物質に自己の意識を集中することで、他者の意識に干渉し意思の疎通を図る。物体が無ければそんなことができないと思われるかもしれない。それは少し違う。目に見える物だけが物体ではないのだ。

 大気も、ガスも、みな質量がある。質量さえあれば、其処に意識を集中できた。見えないものに意識集中できる人々。だから敢えて物体としての身体は必要としなかった。

 この形貌がない、という現実は地球上の生物に比べ気楽かもしれない。

 実体がない分、食事を摂らなくても栄養不足にはならないし、水や塩分が無くても生きていける。容姿のコンプレックスなど生まれようもない。

 ただ、地球上の人々が憧れるようなハイソサエティ、大富豪といった観念には、凡そ縁のない惑星群であり、「世界的ファッションモデルになるのが夢」「異性にもてるような姿態になりたい」など、肉体的な欲望がある人にとっては魅力に乏しい星かもしれない。


 これらの惑星群では、自ら、或いは物体を実体化することはできなかったが、意識を保つことで大方の生活が出来るため、星の人々は何ら不便を感じないのが正直な、そう、本音になるだろう。

 結局のところ、欲望の種類の違いといったところだろうか。星の人々は皆、物体的欲望に興味がない、それだけのことだった。


 フェイト銀河の惑星に住む人々は、「術式」と呼ばれる科学スキルを会得している。 一般的に誰でも修得しているのが「トレス」という術式だ。人間でいえば、見る、歩く、話す、などの日常的な行為を指す。

 これは生まれつき、既に会得している術式だ。

 術式は多岐にわたり、銀河全体において系統ごとに理論体系化されている。

 系統内の術式詳細については、各惑星で開発競争が行われていた。術式を開発するための「産学スパイ」も蔓延っている。


 ただし、9つほどある惑星の中で、理論体系を重視し様々な術式の会得に積極的な惑星は半分ほどに限られた。トレスのみで日常生活に支障がないため、それ以上を求めない惑星も現実には多かったのである。

 フェイト銀河を超えて他の銀河に飛ぶ、そういった計画のある惑星だけが、術式会得のための教育機関、或いは術式開発機関を完備し、日夜研究に奮励していた。

 

◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇


 術式研究開発等、科学分野における進化の急先鋒が惑星「ダミナス」だ。

 ダミナスは、意識体20万ほどの惑星。元来、好戦的な風潮の度合いが見え隠れする意識体だ。

 星府最高責任者=CMO。

 その管理監督の下にあるダミナスでは、ある計画が進行中だった。絶対に銀河内の星々に知られてはならない秘密の計画。銀河内、或いは周辺銀河で争う星がある中、ダミナスは知らぬふりを決め込んでいた。 

 科学分野での研究成果が一定の効果を挙げていることは内外に知らしめていたが、その内容は一切非公開。宣言や声明等は常時一方的であり質問を受け付けることはない。

 フェイト銀河内惑星との交信は一切拒んでおり、他の惑星にしてみれば不可解であり不快ではあったが、銀河内の関係性を重視するような星ではない。

 交信を避ける理由は秘密の計画に関係があるに違いなかったが、どの惑星でも計画の一部ですら掴むことが出来なかった。

 というのも、好戦的であるがゆえに、産学スパイ等、外部から故意に侵入する者は生きて戻ることが無いとさえ言われている。余りに謎の多い星だった。


 一方、同じ銀河内に存在する惑星「クラスト」。意識体30万ほどの惑星である。

 クラスト星では星府最高責任者=CPOと、その部下として軍事・文武・生命・科学・統括の5指揮官の下、平和宣言し中立を保っている。


 なぜ最高責任者にCMOとCPOという区別があるのだろうか。

 CMOは軍事に、CPOは平和に重きを置く、という星府の骨子を反映しているためだ。フェイト銀河及び周辺の銀河系においては、ほぼこのようなスタイルで星全体を統治している。クラスト星と同盟を結ぶ「インベース星」においても、CPOを最高責任者として平和に暮らすための研究開発を行っている。


 クラストは、アルゴン・クリプトン・キセノンなどの大気と、色の無い大地が一面に広がる惑星で、ガスなどの嵐などはない。

 地球でいう海や水もない。惑星誕生時には水分があったと考察する科学者もいるが、現在、特に水分や塩分を必要としていないので、水分に関する研究は進んでいないのが実情だ。

 現在、クラストに広がるのは、漠然と広がる閑散とした見渡す限り水一滴さえ見えない広大なる一面の大地と、所々に穴を開けたようなクレーターのみ。何とも、殺風景な風景の星である。

 その割に、惑星群を照らす恒星フェイトの色が青かったため、朝夕は空も大地もブルーグレーに染まり、昼は、くすんだ蒼色の空が情緒溢れる雰囲気を醸し出している。

 ほんのたまにだが、地球上のオーロラに似た現象が視認されている。恒星フェイトとの間に発生するプラズマやクラスト星の磁気に関係が深いらしいが、それらに対する意識干渉は危険を伴うとされており、少なくとも、クラストではオーロラ研究に関しては消極的であった。


 フェイト銀河内の惑星も地球にある最大規模の望遠鏡なら発見できる位置にあったが、何故か地球から発見されることはなかった。

 地球では当時ドップラー偏移法などの理論で惑星との干渉により揺れる恒星が発する光の波長を観測したり、トランジット法などの理論で惑星が恒星の面前を通過することで恒星が減光し惑星を検出したりする方法が用いられていた。

 だが、フェイト銀河のほとんどの星は、ドップラー偏移法などに対しては大規模な意識干渉を実施し星が揺れた形跡が残らないようにしたり、トランジット法に対しては強力な「ガード」の術式を施すことにより、恒星面通過の事実を捻じ曲げそれらの痕跡を残さないよう細工して惑星の存在を知られないようにしてきた。


 宇宙は限りなく広い。どこにどのような文明や科学を持つ星があるかわからない。

 フェイト銀河内において平和主義を掲げる星では、平和維持における第一方針として、万が一の争いを避けるために、いち早くこのガードという術式を取り入れた。その後も他銀河の生命体に自星の存在を知られないよう細心の配慮を各方面に指示するとともに、同盟国間での情報共有を常に怠らなかった。クラスト星府も同様だった。


 少なくとも、地球の技術に比べればクラストの宇宙研究は発達していた。

 地球では、宇宙には果てがあるという理論もあれば、宇宙は日々肥大化しているという理論もある。

 クラスト星の研究機関では拡大と縮小を繰り返しているとの研究報告がなされている。ブラックホールの影響がそこかしこにあるからだ。


 地球上では、巨大質量を持った星が超新星爆発することによりブラックホールが生まれ、質量の重さを残したまま、光ることなく周辺の星を飲み込ながら其処に留まる、或いは、ゆっくりと移動し続けると考えられている。

 一部では、アインシュタインが発見した「エネルギーは質量に変えられる」という重要な法則を基に、ブラックホールは段々軽くなるという予測がある。最後には大爆発を起こして消滅、蒸発するという理論のようだ。


 それに対し、今やクラストでは、浄化が必要となった銀河周辺にブラックホールができるという研究結果が主流だ。

 超新星爆発までの過程は地球と同様の理論だが、生まれたブラックホールは星々や銀河一帯を飲み込んでいき、ブラックホール内で浄化された物質やガスは、新しい星を形成するために、ブラックホールから新たなエネルギーとして排出される。排出し終えたブラックホールは質量を失い消滅する、という一連の流れを辿るという。爆発での消滅とは少しだけ違うブラックホール進化論。

 宇宙の浄化。宇宙の掃除。

 それが、宇宙にブラックホールが存在する意義であるという理論がクラストの科学者たちの間では多数を占めている。そのためブラックホールは何がしかの条件によって発生したり消滅したりしている、というのがクラスト星府の見解であり、フェイト銀河内の惑星群も大方が同様の見解を示している。


 フェイト銀河は比較的新しく、1千年前に近くにあったとされるブラックホールも消えている。銀河内の星々惑星群では、フェイトが若く青い恒星であることから、これから何億年と銀河が栄えるとみている。

 言うなれば、銀河全体がまだ若く将来性が期待できるということで、銀河内における諸惑星の研究機関や軍事施設においても、その研究活動は盛んだった。


◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇


 クラスト星に住む人々は、元来、争うという観念を一切持たない種族だ。

 感情としてあるのは、自己確立とクラスト星の平和のみである。自己確立は、時として反目意見を呼び、往々にして争いに発展しがちだが、他者を貶めないという観念が生まれながらに意識の中へインプットされているから、争いは起きない。

 反対意見は平行線を辿るか、高さを変えてクロスするかどちらかだ。何が正しいのか、それは人によって違うのだから。

 だからクラストに住む人間は、基本的に互いを尊ぶ精神に溢れている。

 ただ、近頃はどうも他者に尊敬の念を持てない者、他者を貶める者が増えている。星府にとっては頭の痛い話だが、個々人を尊ぶことを大前提としている星府ゆえ、注視はしていくが罰則等の規律は設けていないのが現況だ。しかし、明確なルール違反に対しては罰が与えられ、専用の居住空間を割り当てられた。トレスβと呼ばれる区域だ。


 周囲はクラストのような惑星ばかりではない。

 近銀河系~何億光年離れた銀河系においてすら、CMOの号令の下、争いに身を投じる惑星は多い。フェイト銀河内でも争っている星々があるように。せめてフェイト銀河内では即時停戦して欲しいのがクラストの意見だが、CMOの考えは絶対権限であったため、横から諭す、というのは到底無理な話だった、いや、無謀な行為である。相手に戦闘機会の口実を与えかねないのだから。

 他星争いに対しては口も手も足も出さないのが、近隣銀河のルールとなっていた。


 そういえば、クラストでは珍しく、戦闘技術用に構築された術式がある。

 瞬間移動術式~レセプターの技術だ。

 普通の人たちが瞬間移動する術式もあるが、それはどちらかといえば生活の一部である。クラスト星でもレセプター技術は日進月歩で進歩しており、非公式ではあるが、クラスト星そのものをレセプターできる確率が80%程だ。

 レセプター技術は戦闘技術用と公言しているが、実際に争いに使うつもりはない。

 しかし、星を護るための瞬間移動術式は不可欠であり、研究情報は一切非公開としている。当然産学スパイの出入りも厳重にチェックされている。

 クラストでは、争いの火種を作らないためにこそ、術式開発を進化させ科学を超絶発達させていた。


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