第13章 新銀河形成計画
エルドラやエレノアの見立てどおり、ダミナスでは途方もない計画が実行されようとしていた。いや、実際には三段階の実行計画のうち二段階まで終了していたのである。
第一段階は、桃源にある生命の樹の奪取。
第二段階は、現ダミナスを巻き添えにし、ブラックホールごと太陽系銀河にレセプトンする。
あとは最終段階の実行を残すのみである。
ダミナスが秘密裏に計画し始動させたミッションは「新銀河形成計画」
その計画には、桃源にあった「生命の樹」と、太陽系銀河の「地球」が不可欠だった。桃源にある預言と同種と思われる生命の樹は奪取した。残るは地球の奪取だけである。
ダミナスを飲み込み消滅したはずの小ブラックホール。言わずもがな、ダミナスは粉々になり、塵と化した。そして、ダミナス上層部の思惑通り、小ブラックボールは太陽系銀河近くに姿を現した。
ダミナスのレセプター関連技術は、他の星を凌駕していた。小ブラックホールのレセプトン。超重量質量体を自由自在に瞬間移動させる術式だ。クラストではまだ開発されていない術式技術である。この術式を発動できるのは余程能力のある意識体か、電子制御されたクラストICP系の電子頭脳しかない。
ダミナスでこの術式を扱えるのは現CMOのみ。他に電子頭脳ICMでレセプトンの技術検証を行ってきた。遥か彼方、誰も知らない宇宙にある意識体のいない惑星を何億光年先のブラックホールまで飛ばすのである。
今回クラストがダミナスをブラックホールに突き落としたのはレセプター術式で、ブラックホールを呼び寄せたのもレセプターをアレンジしたレスキー引力術式だ。
ダミナスのレセプトンとは原理が違う。
当初はダミナス自陣がブラックホールをレセプトンする予定だったが、クラストが呼び寄せる計画を知り、任せた。人の褌で相撲を取る、と地球の言葉にもあるではないか。
どうしてダミナスで「新銀河形成計画」が考案され、地球奪取計画が浮上したのか。実のところ、ダミナスCMOは常々地球人の争いを苦々しく思っていた。
CMOは憂いを周囲に漏らしていた。
「あのような自然豊かな大地を人間たちの都合で汚し星の寿命を縮めている。土を汚染し、水を汚す。それだけでも環境への影響が大きいにも関わらず、自分たちにとって都合のいい原油、天然ガス、メタンハイドレードなど、次々と地球内の資源を枯渇する直前まで搾取し続けるつもりだ」
総纏指揮官及び統括指揮官の2名も同様の意見だ。
「搾取の文化しかない人類は本当に必要なのでしょうか」
溜息をつくCMO。
「地球という星が気の毒でならん。搾取の次は戦争さ。我々のような高度な技術を駆使するならまだしも、使うのがウランだというではないか。内部のエネルギー吸盗だけでは飽き足らず、表面の緑や蒼い海まで汚すつもりだ。そのうち、核戦争が勃発するだろう。その前になんとかして地球を救わなければ」
「例の侵攻計画は順調に進んでおります」
「そうか。クラストに侵攻するように見せかけろ。リミット計画も即時進行してくれ。最終兵器は爆破しないようにセッティングしておく。今回一番大事なのはレセプトンだ。クラストに爆発されてレセプトンできないのは困るからな。地球の船団作製は私が進めておく。私は地球に賭ける。それだけの価値があり、やり甲斐のある星だ」
「イエス、CMO」
CMO直属星府機関の一角では、ダミナス人選別計画が進行していた。
それが「リミット計画」である。
現在のCMOは争いを好まない平和主義者だった。
「アナトリアのように好戦的な者は地球に相応しくない」
それが現CMOの口癖だ。どんなに記憶を書き換えても傾倒性が変わらないことも実証済みであることから、新銀河計画に向け、平和を乱す者、争いを好む者、粗暴な者たちを排斥する計画を立てていた。
新銀河において生まれてくる意識体がもし争いを起こすようなら、死せる樹が黄泉に導いてくれるだろう。
しかし、その「平和」には文字どおり二つの意味があった。
文字どおりの平和主義と、もう一つは、そう、自由な言論や行動を制限する「恐怖政治」。どちらに重きをおき、どのように当世を作っていくのか、未知の領分であった。
最終段階の方策。それは太陽系銀河に現れた小ブラックホールに、太陽系の星々全てを飲み込ませその中から地球を救い出すという、考えられないような荒業だった。
ダミナスCMOは、ブラックホールがレセプトンする前に地球の動植物を出来るだけ保護し酸素循環システムを起動させ作製した船団に乗船させた。そして地球の動植物たちの船団と選ばれたダミナス人を集めた船団を構築。惑星としての地球に似た、生命体のいない惑星を探し、一旦レセスさせた。光が無くては光合成も酸素も出来ないのだから。
そして、レセプトンさせたブラックホールに太陽系の星々を飲み込ませ、地球がブラックホールに近づき引力でほとんどの人類や物体がブラックホールに引き寄せられ戻れなくなった直後に、レスキーを最大出力で発動すると同時に地球をレセプターさせるという、考えられないような手段を取ったのである。
◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇
太陽系銀河はブラックホールに飲み込まれ完全に消滅した。
ブラックホールに飲み込まれた地球はどうなったのか。
船団に乗せられた動植物以外の地球人、人類は消滅したのだろうか。
地球が本当にレセプターしたとするならば、どこに消えたのか。
そう、勿論ダミナスは当てもなくブラックホールに入ったわけでもなく、太陽系を飲み込ませたわけでもない。最初から、ダミナス上層部ではレセプターする銀河の目星を付けていた。疑問のカギは、総てダミナスが握っていた。
「何処にするかな」
「帰着先の銀河系ですか」
「ああ」
「近頃ブラックホールの消えた銀河系があります。フェイトからも9億光年離れています」
「恒星の状態は?」
「若い恒星です、何千億年と輝くでしょう」
「惑星はあるのか?生命体は?」
「数個ありますが生命体は存在していません」
「決まりだな、そこにダミナス銀河を形成する」
狙い通り、地球と、地球上にいた動植物たちを乗せた船団、そしてダミナス人の船団も一緒に、その銀河系にレセプターすることに成功した。
想定の範囲内とはいえ、CMOと幹部二人は安堵の色を浮かべた。
地球の大地そのものと、地球の動食物やリミット計画で選別したダミナス人が無事にレセプターできたことに。
次に行うべきは、地球を惑星として再生させるための調整である。
勿論、全ては太陽系銀河時代のままに。
ダミナスCMOは、地球代表CPOとして地球で生きることを宿望していた。
レセスキット術式を発動し、ダミナス銀河全体を覆った。レセスキットとは、従前の銀河系と変わらぬ要素で惑星が発達するよう修正を施す術式である。
現在の太陽との比率から割り出し、動植物が生存できるような距離を保ち、引力もレスキー術式を改良しながら微妙な部分を修正し、自転及び公転に関しても、科学術式を用いて従前同様に。少しでも目立つ環境のずれは修復に修復を重ねた。
そして、外部からの侵入を阻害する強力ガードを上空に張り巡らせた。
環境は整った。地球の軸や恒星からの距離も位置も従前同様に調整、生態系を維持できるよう適切な処理を施し、検証の上、動植物を解き放つに至ったのである。船団に乗せられていた動植物とダミナス人たちが、新しい地球に降り立った。
その様子はまるで、旧約聖書に記された「ノアの方舟」といった風情であった。
地球は神の時代を彷彿とさせるような自然豊かで綺麗な蒼い星として新たに誕生した。太陽系銀河時代は「アース」と呼ばれた地球。地球代表CPOは「ステラ」と改名した。ここに、ダミナス銀河の時代が始まった。
しかし今、クラストでこのことを知る者は少ない。
ダミナス銀河最高責任者にして、地球代表CPOが呟いた。
「これでもう、汚さずに済む。本当に喜ばしい限りだ」
総纏指揮官及び統括指揮官も口を揃える。
「すべてCPOのご希望どおりに進みました。お祝い申し上げます」
「貴方達がいてくれたおかげだ。感謝する」
地球代表CPOを含め、三人でやり遂げた新銀河形成計画。
彼らはダミナスにも、地球にも、その意識体を置いていなかった。
逃げたといえば卑怯に聞こえるが、フェイト銀河からも太陽系銀河からも数億光年離れた銀河に拠点を一時的に移し、意識体を置いていた。
地球代表CPO。実はエルドラ並の力の持ち主である。生まれは桃源、由国。生命の樹は遠くに生まれる命にも関わらず光り輝いたという。由国でひっそりと暮らしていたが、彩国王から由国王に対し勅命が下された。その当時、彩国は桃源の中でも大きな勢力を保っていたとみられる。そしてダミナスに渡り、名を変えた。
だからこそ、計画の実行状況を遠くから眺め、術式を発動し、結果を確認するまでの総てを掌握できたのである。
◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇
その頃クラストでは、太陽系銀河のブラックホール情報がもたらされ、騒然となった。
特に、第1グループが太陽系に何度か飛んだ際、そのような兆候はほとんど見られなかったからである。
秘匿回線で仲間たちに知らせてきたスーニャ、ヴェキ、レーゼ。三人揃って自分たちの正当性を訴える。
「アタシたちのミッションは地球の寿命だったけど、太陽だってあと何十億年って、確かレポートに入れたはずよ!」
「そうそう!あの程度ならブラックホールが近づくはずないわ!」
「ブラックホールが近づく理由あったかしら?やっぱり無いわよ。おかしい」
仲間たちは、話半分に聞いている。数億光年先の銀河にブラックホールが生まれたこと自体はそう珍しいことではない。蒼き星が無くなってしまったのは残念なことだけれど。
あの時も、地球の寿命を予想したのは図書館で本を読みふけっていたデュランだった。当時エクス体質の彼女らが興味を示し自ら動いたのは意識投影システムに組み込むデータ収集だけである。
こうなると信用度の問題に発展するのだが、もれなくエクスたちは憤慨している。
「腹立つわー、アンタたち。ホントに兆候は一切なかったのよ」
デュランが助け舟を出す。
「まあ、お三方。そう怒らないで」
デュラン自身、図書館で興味を持ち読み漁った宇宙誌の概要に、太陽系銀河、つまり太陽の寿命が掲載されていた。その時点では、確かに残り50億年と記載があったのを記憶している。50億年も恒星が輝ける銀河にブラックホールが出現するなんて、自然科学の分野で考えればあり得ない。何らかの環境破壊事故、或いは別のトリガーが動いたということになる。
「さすがデュランじゃな――――――――い?」
「情報部としては、何があったのか気になって仕方ないんだよ」
デュランの助け舟に、気を大きくしていエクスたちは機嫌がいい。
「統括部でも今情報収集してるわ、遠い銀河だし、時間かかるかもだけど。残念なことには変わりないけどさ。ね?レイ」
「地球のような星は宇宙を見回してもほとんどないからな、貴重だったのは確かだ」
言葉を引き取るエクス3人。
「そうね、着飾ってお金ばら撒いて」
「環境は確実に悪かったわよ。核とか爆発したらもう終わりそうだった」
「その意味では、ブラックホールの原因は地球じゃないかって思っちゃう」
珍しくセーラが独り言を言った。その呟きにスーニャが飛びついた。
「あら、セーラ!アンタ考えるじゃない!」
「そうねぇ、地球に近づいたのかもね、ブラックホールは」
「地球が太陽系をバラバラにしちゃったのかしらね」
そんなある日、科学部宇宙局にて新銀河誕生の知らせが入る。
銀河名は、ダミナス。恒星ダミナスを中心に数個の惑星で形成された銀河である。それも驚きではあったが、公転する惑星群を見て、皆唖然とした。恒星ダミナスに従えられ公転する綺麗な惑星は、紛れもなく蒼い星、地球だったのだ。
早急にクラスト星CPOエルドラが地球の様子を窺う。
エルドラが一人、呟き続ける。
「やはりな。地球のCPOになるのか、マリエッタ、いや、本名はダミエか」
元フェイト銀河惑星ダミナスのCMOと呼ぶべきか。本当に始末出来ない人物。フィクサーであり、神出鬼没なトリガーとでもいうところだ。
超特S級クラスの能力を兼ね備えており、エルドラCPOと同等の力を持つ驚きの人物だった。好戦的な戦闘はアナトリアが軍事司令官の時代に行われていた。ダミエを少女如きと侮って押し切ったようだった。ダミエ自身は平和を願う少女だったに違いない。
新銀河計画はそこを根にして広がっていったというわけだ。その過程の中でアナトリアも排斥した。彼ら2人と一緒に、いや、逆に言えば3人だけで他に知られることなく計画を実行したわけだ。
スパイのふりをした、クラストに来て皆と地球に行ったのはダミエのフェイクだったのか?いや、どれがフェイクだったのか分からない。それでも地球の環境破壊を嫌っていたのは本当だったようだ。今の地球を見る限りは。
桃源で確認されたのはダミエ本人に違いない。そうか、やつは桃源の樹から生まれたのか、桃源出身とは気が付かなかった。由に住んでいたのか、幼い頃は幸せだったと見える。波動が由に向いている。しかしあの能力だ、生まれるとき生命の樹が輝いたのは間違いない。ダミナスが欲しがったか、あるいは彩国あたりが介在して叡国経由で売り渡したのだろう。ダミナスでCMOの任に就かされるなど、気の毒な事だ。
なるほど、今回CPOということは、地球では争いを起こさないという証か。やつの本音は其処にあるのかもしれないな。だからこそ、彼らを必要としたのか。
先の兵士パターン事件の本当の目的は、平和を愛し能力のある者を欲し、手当たり次第に探していたわけだ。アナトリアに気取られないように。戦闘時も兵士はすぐ意識終結させていた。まさか、あの兵器もフェイクか?まんまと騙されたか、エルドラCPOともあろう、このわたしが。
◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇
エルドラCPOには、ダミエの右腕として両脇に座する統括指揮官、総纏指揮官が見えていた。
ダミナス星府の統括指揮官、総纏指揮官として意識を連ねるのは、なんと、被雷し自死したはずのワムとヘイルだった。
エルドラCPOはエレノアにトラスした。
「地球がダミナス銀河に属したのは事実のようだ」
「そうですか、ダミナスの属国になったのですか?」
「いや、以前いた人間という生物は消えた。一人残らず」
「残念です。その他に変りはないですか」
「緑が綺麗だ。土も水も大気も見違えるように綺麗になった。今までの環境汚染が嘘のようだ。これだけ変わるとは思ってもみなかった。よほど汚染されていたのだな」
「緑と海だけ、ですか」
「それがな、人間以外の生き物は昔の生態系どおり生きている、皮肉なものだな」
「滅ぶべき者のみが滅びたのでしょう。ダミナス銀河については今後も引き続き注視を怠らぬよう、5軍に申し伝えます」
「地球のことで大騒ぎになるだろうが、もう地球に降り立つことは叶わない」
「ガードが張られましたか」
「外部からの侵入を拒否している。生態系を壊されたく無いようだ」
「桃源の樹はどうなりました?地球にあるのですか?」
「地球星府内で厳重管理されている」
「やはり、栄えることを目的として奪ったのでしょうね」
「現実路線としては、そこに帰着するだろう」
エルドラが、声を低めた。
「それから、これは私とお前だけの秘匿事項としてもらいたいのだが」
「かしこまりました。読心術にも触らぬよう、奥深くに秘匿します」
「ダミナスのCMOは、予想通りマリエッタ、いや、本名はダミエ」
「そうでしたか。意識コントロールや読心術さえ使えぬ娘でしたから、余程の使い手とみておりました」
「あいつ、桃源の生まれだな。由の波動を強く感じる」
「とすると、由国からダミナスに?」
「そうだ。意識体にされてしまった恨みは深かっただろう」
エルドラCPOの話は続く。
あくまで想像の域を出ないが、ダミエから由国に対して嫌悪の感情は見受けられない。ということは、幼き日は由国で幸せに暮らしていたはず。地球で会った夫婦のような優しい親と。だから地球に残りたい気持ちがあったのは強ち嘘ではなかった。赤子から育てられたのだろう、肉体も持っていたはずだ。
しかし、幼き日の幸せは砕かれた、ダミナスのアナトリアによって。アナトリアは桃源に暮らすダミエを知り、強制的に奪取したのか、彩国辺りが介在して叡国が売り飛ばしたのかはわからない。取引などに応じるダミナスではないところを見れば、強制的にダミナスに連行された。だから生命の樹の場所も、ある程度知っていたと思われる。
肉体を奪われ意識だけの身体になった哀しみは想像を絶したに違いない。親に逢っても気付いて貰えないのだから。そこでダミエはアナトリアの傀儡CMOと見せかけ各地を回り、自分の星を作り上げる3段階の計画を立て、実行した。
「なるほど、底知れぬ力は認めておりましたが、そこまでは気が付きませんでした」
「やつ自身、ダミナスの好戦的な所が嫌いだったのさ」
「と言いますと」
「今後はダミエが地球のCPOとなるようだ。アナトリアも消されている」
「となると、地球は平和を宣言する、ということですね」
「そのようだ。たぶん、神にでもなった気分じゃないか」
「今から地球を好きに作り上げる点では、神と言えるかもしれませんね」
エルドラCPOが天を仰ぎながら、強い口調になる。
「神にしては奪いすぎたな。桃源、ダミナス、地球」
「命を軽んじるところがクラスト星人と全く違います。我々は命を奪ったなどの重罪以外、殆どの場合において死を与えません」
「ああ。今後は恐怖政治になり得るということだ。死を与えることが出来るのだから」
「恐怖政治。ダミエが地球と同じくらい、欲したものかもしれません」
エルドラが、より一層、声を低めた。
「確実に秘匿すべき事項がある」
「はい」
「地球の統括指揮官、総纏指揮官としてダミエに仕えているのは、被雷死したはずのワムとヘイルだ」
それは驚愕の事実であった。
驚きながらも、エレノアは落ち着いていた。こうなる結果を予測していたのか、自分が教えた生徒の無事を聞き安堵したのか。
「そうでしたか。本人たちの希望でダミナスに留まるとは考えにくい。となれば、被雷寸前にパターン消去され、記憶ごと擦り替えたとみるのが妥当ですね」
「あの2人は、意識体こそ我々の知っているワムとヘイルだが、拘束当時、アナトリアによって記憶操作があった」
それはあの拷問部屋、CMCの洗礼を受けての記憶操作だったという。
優秀な人材だったからこそ、ダミエとしては彼らが欲しかったに違いない。自らが作り上げる平和のために彼ら2人を選び、アナトリアに内緒でCMCでの記憶をダミナス銀河の平和宣言と擦り替え、クラストでの意識を全て消去し、新星人として他の惑星に待機させていたという。
「わたくしとしては悔しい限りですが、生きていてくれて何よりです」
エレノアの言葉に2人の心の内が凝縮されていた。
ダミエの深層心理は計れずとも、ワムとヘイルの意識が地球の平和に役立つのなら、これ以上の追求は避け、推移を見守るというのがエルドラCPOとエレノアの出した答えだった。
「マルスやジョンはおろか、第1グループの者たちにも絶対に気取られるな」
「承知しました」
エルドラもエレノアも、同じことを考えていた。
忠実に地球を再現したならば、何億年かかろうとも再び地球に人類が現れることを。
人類が意識体であるダミナスに対抗できるかどうかは今のところどちらとも言えない。生命の樹が死せる樹とどのような進化を遂げるのかも、今は全くもって不明だ。
いつの日にか現れた人類がクラストを必要とするならば、その手を取ろう。
そのために、ガード破壊の術式を必ずや進歩させ、地球を救いに乗り出そう。
自分達の代では成し遂げられないかもしれない。
それでも、後世に望みを託し、蒼き星、地球を人類の手に取り戻そう。