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蒼星  作者: たま ささみ
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第12章  最終策戦

そんな矢先、デュラン達情報収集部が小ブラックホールの存在を掴んだ。

「エルドラCPO、情報収集部からの情報です、数光年先に小さなブラックホールが出来たそうです」

「本当か?」

 クラストもそうだが、ダミナスでもブラックホールの情報は伝わっているだろう。

 それを知りつつ、クラストCPOエルドラはある計画を立て、一両日中に最終決断を下すこととなった。それは、ダミナスをブラックホールに誘導し、惑星ごと突き落とす、という途方もない計画だった。

「ブラックホールのような大きな質量体です。どのように誘導されますか」

「マルス、リーマス、聞いてくれ」

 CPOエルドラが語り出す。ICPのレセプターの技術を応用しようと。あとは、引力を利用すれば不可能ではない、と。レスキーの術式なら引力同様である。クラスト星本体及び周辺惑星に若干圧力が掛かるが、其処はガード技術で補うしかない。

「星内の人々はどうされますか、今はシェルターにいますが」

「一般人はインベースに退避させてくれ。トレスα区域とトレスβ区域もだ。α区域はよく事情説明してくれ、怖がるだろうから。シェルターごとレセプター出来る術式が開発されたはずだ。確かメルスとか言ったな。マルス、科学部に確認して今直ぐ実行に移せ」

「承知。その後は」

「強力なガードを発動してダミナス以外の星々をブラックホールから守らねばならん」

「御意」

「その言葉、何処で覚えた。まさか地球の時代劇とやらではあるまいな」

「笑い話をしている時間ではございませんぞ。地球は歐洲の言葉です」

「そうか、でな、ICPのレセプター術式を使い最大出力で発動する。どうだ?」

「よろしいかと」

「では準備に取り掛かってくれ」


 科学部の試算を基に、避難時間を割り出す。トレスα区域の人々に現状を知らせるのは至難の技ともいえる。人々がパニックを起こしかねない。α区域のリーダーたちを集め現状を丁寧に説明したのち、メルス術式を発動し、一気にレセプターを仕掛け、早々にインベースあて避難させた。トレスβ区域は、一般人ではないので有無を言わさず即座にメルス術式を発動させた。

 トレスβ区域の避難が終了した後、ICPの準備に取り掛かる。一刻も早く、動作を確認しなければならない。

 怒号が飛び交いがちな現場にマルス総督が現れ、的確な指示を与える。皆も比較的冷静に行動し、動作確認に扱ぎつけることができた。


 ICPの準備が完了した。

 今から数えて一時間後、小ブラックホールがダミナス近くに現れる計算だ。


 クラスト陸部には、ダミナスの兵士が侵入し始めていた。その数、5000。ダミナス兵士の攻撃から身を護り、兵士たちを失透させるのみで踏ん張り耐えるクラスト軍部とSS、SPたち。失透したダミナス兵士たちはすぐに姿を消した。ダミナスで意識終結させているのだろう。

 この後、ダミナスから新たに上陸してくる兵士により、クラストへの総攻撃が始まるものとクラスト側では考えていた。ところが予想に大きく反する形で攻撃が収まり、ダミナスの兵士たちは何故か、皆消えてしまった。

 懐疑的なクラスト上層部。

 

 だが、次の瞬間、ICPのような小型機器がひとつ、上空を旋回した後、ガードを突き破り姿を現した。

「なんだあれは!」

 其処彼処から上がる声。


 小型機器を透視で解析するマーズたちのチーム。何とそれは、爆発すれば核兵器並みの威力を持つ恐ろしい兵器だった。クラスト側は衝撃を受けた。ICP計画に狂いが生じ、焦る5軍の上層部。

 しかし今、ICPの動きを止めるわけにはいかない。

 ICPがクラスト星の、いや、フェイト銀河の未来を握る鍵なのだから。

 

 総督室に集まった上層部の誰もが驚駭の言葉を漏らす。

「まさか、こんな兵器を製作していたとは」

「ICPでどうにかならないのか」

「ICPに至急爆破停止の術式を発動させろ!」

「まあ、待て」

 エルドラが皆を諌める。

「ICPをそちらには使えないだろう。本来の目的に使用しなければ」

 いつもは冷静沈着なマルス総督が、この時ばかりは本来の冷静さを失いつつあるように見えた。

「しかし、あの兵器がオン状態になったら」

 CPOとして、エルドラは皆に頭を下げる。

「計画に狂いが生じたのは確かだ。それもこれも、ダミナスを見くびった我々の責任だろう。となれば、誰かが責任を取らねばなるまい」

「と仰いますと」

 エルドラの口元が、引き上げられるように上向く。

「そうだ、誰かが責任を取れば済むことなのさ」

 

 上層部の方針を知らない軍部兵士たちから、科学部に向けて罵声が飛ぶ。

「早く打破する方法を見つけろ!科学部の仕事だろうが!」

「五月蝿い!」

「もたもたしてたら星ごと爆発するかもしれないぞ!」

「黙れ!」

 そんな喧嘩腰の状況で、何も知らない軍部の輩は半ばパニックに陥っていた。

 パニックになるなという方が酷な話かもしれない。

 全ての意識体が、尊き命を懸けて軍部の勅命に従うのが道理としても、急にできた竜巻に浸食されるような何とも形容しがたい状況に陥った場合、冷静に判断し自ら行動せよという訓練に、真摯に対応した意識体だけではなかったのである。

 そのとき、彼らを強い意識が覆った。それでもなお、パニックから抜け出せない軍部の兵士たちが一定数いたのも確かだった。

 低い声の意識体が言い放つ。

「喧嘩を止めろ」

「誰だ!」

「CPO。エルドラだ」

「早く爆発を止めろ!」

「何様だ、お前」

 

 途端に、その兵士は、失透した。

「己を見失い仕事が出来ないものは失透させる。皆、我に返れ」

 5軍の者たちは、どちらかに分かれた。我に返り己が仕事に戻った者、パニック状態から戻らず失透させられた者。

「情けない奴らがこんなにいたか。全員身分剥奪、インベースのトレスβ区域に送れ」

「承知しました」

「余計な意識があると邪魔だ、早くしろ」

 エルドラが兵器の前に姿を見せた。といっても、いつも使っている意識投影システムは使わず、意識色も使っていない。本当の意識体だけだ。


 エルドラから、総督府に連絡及び命令が下った。

「この兵器、自爆カウンターが付いている」

「どうされますか?やはりICPで」

「いや。5軍とも総て、インベースに避難させろ」

「しかし」

「今、大事なのは人々の命と、ダミナス攻略だ。生命の樹とICPの移動は最優先事項とする」

「承知しました」

「一つだけ覚えておけ。万が一爆発したとして、私がインベースに避難してなかったら、次期CPOをエレノアに託す」

「エルドラさま」

「CPOと呼べ、爺やども」

「承知しました、覚書のとおりに進めましょう」

「やれやれ。マックスにギア・チェンジするか」


 エルドラは、生まれながらに超がつく強大な力を持っているとされる。近年このような力の持ち主は居ないとも称されている。が、その力の底を見たものは誰もいない。

 そのエルドラが表に出てきたということは、持ちうる力を総て出し切りダミナスの最終兵器に立ち向かうことを表していた。

 一瞬に、自爆カウンターがセットされた。

 エルドラは、誰も見たことの無い術式を駆使した。

 どうやら、磁気を発生させる術式のようだった。それでも、兵器自爆カウンターは動きを止めない。総督の命令により、エレノアを先頭にクラスト人の大部分がインベースに一時避難を完了している。

 SPのレイとルーラは残った幹部たちの護衛に当たるためクラストに残ったが、それ以外のSPや将来幹部候補生のヴェキ、レーゼ、スーニャらSSも、最終ブラックホール計画のためクラストを離れた。

 自爆カウンターが一秒、一秒、時を刻む。同時にそれは、クラストを滅亡に傾くか存亡に導くかのメトロノームのようだった。残酷なまでに、正確な時を刻み続ける。

 エルドラはその間にも術式を発し続けるが、カウンターは止まる気配を見せない。

 さすがのエルドラも、自爆カウンターが冷気や熱など何に反応するかわからない現状では術式を繰り出すことは難しいのか、手を拱いているように見受けられた。


 マーズたち術式開発部は、インベースに退去しながらも、インベースの電子頭脳を借用して兵器の内部を透視し何処に弱点があるか探し出そうと躍起になっていた。

「そこはもう見た!何もできる術式が無い!綻びもない!」

「そっちはどうだ?」

「こっちも何処にも綻びが無い、あれだけ術式を発動しているのに」

「馬鹿野郎!愚痴る暇があったら探せ!」

「内部も外部も総て見ました。弱点ありません!」

「絶対にある!機械に百パーセントなんかあり得ねえ!もっと探せ!」

 罵声が飛び交う科学部術式開発部内。


 残り二秒。


 マーズが透視していた部分に、小さな点のようなものが見つかった。点部分は、少しずつ、ほんの少しずつ大きくなっていくように見えた。エルドラの術式攻撃により、兵器に綻びが生じていたのだった。

 兵器の綻びを見つけたマーズ。

「右下部後方に綻び発見!磁気制御破壊術式と質量体溶解術式で兵器は止まります!繰り返します・・・」

 周りに報告したマーズだったが、爆発が早いか術式が早いか、全くわからなかった。

 だが、エルドラにはマーズの声が素早く伝わっていた。

 綻び部分に向け、他に知る人のない3種類の磁気制御破壊術式と2種類の質量体溶解術式、兵器周辺及び星全体を強力なガードで覆う計7種類の術式を総て同時に発動した。


 一瞬間。


 誰もが兵器の爆発を予想していたが、爆発は起こらなかった。

「マーズ!やったぞ!」

 エルドラからマーズに向けてのトラスだった。



◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇


 残り二秒での綻び発見がクラストを救った。

 殆どの人々が、クラストは滅亡したと思っただろう。

 まさに、間一髪だった。ギリギリの間合いでクラストは救われたのだった。

 エルドラの術式発動により自爆カウンターは制御不能となり、溶解術式でカウンター部分は溶けた。万が一の爆発に備え、兵器の周囲と星全体を護れるくらいの超強力ガード保護壁も発動されていた。トラスも併せると、7種類の術式を一気に放ったのである。クラストの中で、そのような技を繰り出せるのは、現CPO,エルドラだけだった。


 エルドラの術式発動により、クラストは以前と変わらぬまま、そのブルーグレーの大地と空を垣間見ることが出来た。

 エレノアからエルドラに向け意識干渉が入る。

「CPO、ご無事ですか?」

「ああ、生きている。久しぶりにマックスで術式発動したから気持ちがいい」

「ただ今から全軍、インベースからクラストに向け帰還します。帰還次第、策戦実行に入ります」


 ついに、ダミナスに向けた最終決戦が実行に移されることとなった。

 5軍全体に、エルドラの声が響く。

「我々はこれから、呼び寄せたブラックホールにダミナスを星ごと突き落とす作戦に出る。ダミナス側では易々と入ろうとしないだろうが、全力でガードを張り巡らせ、ダミナスだけを落とす計画だ。くれぐれも他の星が巻き込まれないよう細心の注意を払え」

「SS及びSPは前へ」

 エレノアの号令に従い、ダミナスとブラックホール以外の部分に強力なガードを何重にも重ねて張り、ダミナス以外に事故の無いよう、そして、ダミナスを確実にブラックホールに飲み込ませるため、全員が位置に着いた。

 エルドラから命が下る。

「ICPを作動させろ!」

「レスキーを使え!他の星が巻き込まれないようフェイトに向けて引力を発生させろ!」

 ICPが作動し、ブラックホールに吸い寄せられるダミナス。

 ガードを張り、ダミナス以外の星が動かないようレスキーを発するエクス達。

 なかなか動かないダミナス。


 業を煮やしたエルドラが、司令塔の席を立つ。


「私が直にダミナスを落とす」

 周囲は引きとめた。

「意識体は微々たるもの。万が一ブラックホールに引き込まれたら大変です」

「先ほどの術式使用で力が相当落ちているでしょう。お身体に障ります」

 エルドラは一蹴した。

「ここで何かあっても大丈夫だ、クラストは変わらず生き続ける」

「それでもCPO」

「もう言うな。行ってくる」

 言葉が皆に届くや否や、エルドラの姿は消えていた。

 皆、エルドラが何処に居てどんな術式を使うのかわからなかった。

  

 そのエルドラは、司令塔から自分の部屋にレスしただけだった。

 そして、意識を集中させて現在の様子を探り掴むと、ダミナスのコア部分目掛けて室内からレセプターを放った。

 たった一人、それも室内からの術式発動。どれだけの効果があるというのだろうか。

 果たして、エルドラのレセプター発動と同時に、ゆっくりとダミナスがブラックホール方面に動き出した。次第に飲み込まれていく。もう、ブラックホールから逃げられないような状態になった。

 すると何故か、ダミナスは小ブラックホールもろともフェイト銀河から姿を消した。


 ブラックホールが消えるという現象に疑問を持つ者たちも居たが、何はともあれ巨悪な惑星ダミナスが消え去ったフェイト銀河。クラストのみならず、フェイト銀河での平和の訪れを、銀河内全ての星が歓迎した。

 各惑星から祝福の言葉が伝わってくる。インベースも同様に喜んでいたようだ。エルフィーヌからの意識が飛んできた。

「クラストの皆様、おめでとうございます。フェイト銀河の未来は守られました。これからも協力を惜しまず銀河のために尽くしましょう インベースCPOエルフィーヌ」

 エクス達の誰かが叫んだ。

「やったわ!やりましたよ!エルドラCPO!」

 レーゼとヴェキ、スーニャの他、SSと呼ばれるエクス軍団、SPと呼ばれる戦闘軍団が終結していた。

 彼ら彼女らの功績は大きい。ダミナスの兵たちを退け、レスキー発動に全力を出した。そのおかげで銀河全体が守られたのである。エルドラは皆を褒め称え、労をねぎらった。

 それ以前に、ダミナス最終兵器を退けたからこそ今がある。エルドラは全くもって素晴らしい。判断と言い、兵器の前に出る勇気と言い、胆が据わっているのも確かだが、術式の威力と言ったら、並の人間がいくつ束になっても敵うまい。

 そのエルドラだが、表情は硬かった。

 

「お身体に触ったのでは?」

「大丈夫と言いたいが、少し部屋で休みたい。エレノアを呼んでくれ」

 CPO室の前に控えたエレノア。秘書のエクスたちを階下に遠ざけた。

「失礼します」

「おう、お前か」

「疲れたのではなく、心配事がありますね?」

「お前も見ただろう」

「はい、ブラックホールの消え方が異状でした」

「意図があるよな」

「ブラックホールを定められた位置に飛ばす術式が使われたのではないかと」

「そういうことか。いつの間にか完成させていたんだ、レセプトンを」

「救いは、我が銀河にダミナスが居なくなったということでしょうか」

「そうだな。一義的にその意味は大きい」

「しかし、どこへ行ったものやら」

「あの様子だと大地は消えても残った意識体がいるな、桃源の樹も一緒のはずだ」

「たぶん、そのうち何処かの銀河に現れるでしょう。あの星のことです、独自に銀河を形成するでしょう。科学部に情報収集させますので、お休みください」

「疲れてないぞ」

「疲れないわけがないでしょう。本当に疲れなかったらサイボーグですよ」

「サイボーグか、何処かに居るのかな」

「ご自分がなってみるのもアリかと」

「いや、私は今の意識体がいい。それじゃ、少し休むぞ」

「おやすみなさい」

 眠りの術式を掛けて、エルドラを意識聖凛状態にし、エレノアは部屋を出た。


◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◇


 勿論、エレノアもエルドラと同じ考えだった。

 ブラックホールにダミナスが飲み込まれた瞬間は、この眼で確認した。惑星としてのダミナスは、フェイト銀河からは消えた。

 ダミナス上層部は、何処かにレセプターしたに違いない。何処に行ったのか、エルドラの力をもってしても、それはまだわからなかった。

 今、我々にわかっていること。

 それは、ダミナス上層部は完全壊滅していない、そして彼らには何か途轍もないことをしでかそうとしている、この二点だ。ブラックホールとともに消えたということはダミナスがブラックホールを必要としたということだろう。その理由も謎だ。

 桃源の樹も持っているに違いない。

 何か、果てしない野望が感じられる。


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