死人、落ちる
キマイラは真ん中に獅子の顔、右に龍の顔、左に山羊の頭を持ち、背中には翼の生えているなんとも中二心をくすぐられる見た目をした魔物だった。その魔物は3つの顔でフラムを睨んでいた。
「なぜこんなところにキマイラがおる…。あやつは人工の魔物じゃ。こんな自然界の中にはいないはずなのに」
「知るか!それよりアイツどう見ても怒ってますよねあれ!?これまずいですよね!?」
キマイラのしっぽ踏んで追いかけられるとかもうドジすぎだろ俺…
完全にキレていらっしゃるキマイラさんは咆哮を終えるとフラムに飛びかかってきた。その鋭い前足の爪で体を引き裂こうと右前足を振り上げる。フラムはアスを構え、さっきまでと同じように初撃をわざと受けた後のカウンターで倒そうとしていた。
キマイラが足を振り下ろしてくる。前足の軌道的に、頭を吹き飛ばされそうだったので半歩ずれて左腕をくれてやった。そしてアスをキマイラに向かって振る。
さっきまでならここで終わっていた。しかしキマイラはとっさにその背中に生えている翼を羽ばたかせるとフラムの一撃を飛んで躱した。
フラムに襲いかかる風圧は思っていたよりも強く、追撃を与えることは叶わなかった。
少し距離を離して着地したキマイラは、すでに再生したフラムの左腕を見て驚きの表情を浮かべると、すぐにフラムの方に龍の頭を向けた。
どうやらフラムがゾンビであることに感づいたらしく、龍は口を開けると口の前に炎の玉ができ、それが直径50センチくらいになるとフラムめがけてその炎弾を飛ばしてきた。
「やっべ!あいつ炎吐ける系だ!」
全力で地面を蹴って後ろに下がるとその直後にはフラムがいたところに炎弾が着弾し、小さな爆発が起こった。躱されたのを見たキマイラは次の炎弾を発射する準備を始めている。
初撃を躱され、正体に気づかれ、地力では到底及ばない今のフラムには最早キマイラに勝てる手段はなかった。
背中に冷や汗をかくのを感じながらフラムは後ずさる。
「早く逃げるのじゃ主!今の主ではキマイラには勝てん!」
「分かってる!戦略的撤退ィ!」
フラムはそう叫ぶと今日一番の速度でキマイラから逃げ出した。
しかしフラムが出せるのは人間レベルの速さの倍の速度であり、キマイラとの距離は少しずつ縮まっていく
「ヤバイヤバイヤバイヤバイあいつ足早すぎやばいって!」
「落ち着け主!何も考えず逃げることだけに集中しろ!」
森に生えている木々を利用しながら逃げることも試してみたが、キマイラが全てをなぎ倒して追いかけてくるのでさほど意味はなかった。
キマイラとの距離がだいぶ縮まってしまいあと3メートルほどまで近づかれてしまった時、突然視界がひらけ、目の前から地面が消えた。崖にぶち当たったのだ。
「ラッキー!紐なしバンジー行くぜ!南無三!」
フラムは速度を緩めることなくそのまま飛んだ。
高さは300メートルくらいはあるようでジェットコースターに乗った時のあのフワッと感がようやくあの、この世界ではじめて自分を殺し得る怪物から逃げられた安心感とともに襲ってくる。
しかし落ちている途中、フラムは大事なことに気づいてしまった。
「アイツ確か…さっき飛んでたよな?」
ハッとしてすぐに真上に視線を向ける。しかしキマイラが飛んで追いかけてくることはなく、フラムは再び安心感に満たされた。
追撃の恐怖から逃れ、後は着地するだけだと安心していたフラムだったが、
下をちらっと見るとおもわずその顔を引き攣らせた。300メートルほど下にあると思っていた地上は見当たらず、フラムの着地地点の付近には更に下へと伸びる穴があった。空の中を自由に動けるわけでもないフラム達は諦めてただ一言神を恨みつつ言葉を発するのだった。
「「最悪」」と
「やっと地面が見えてきた!よっしゃ華麗に着地してやるぜ!塀から飛び降りる猫のように!」
2分ほど自由落下に身を任せたフラムは、ようやく地面に到着した。
しかしまぁ相当な高さから跳んでいるため、フラムの妄言のように無事に着地できるはずなど無いのだが
ドォォォォォン!!
グシャッ!!
なんとも言えない音ともにフラムは地面に叩きつけられた。
着地しようと空中でなんとか下にむけていたフラムの足はもう見るも無残な感じにぐっちゃぐっちゃになっていた。
「うわーなにこれグロい…」
足はすぐに治ったのだが足元には自分の血肉が散乱していて少しめまいがした。この世界にきてから少しは血に慣れたとは思っていたがまだまだだったようだ。
だいぶ落ちたと思ったがなぜかこの空間には光源があった。
壁の所々が光っており、視界に問題は無さそうだ。よく見てみると小さな植物が壁に生えており、それが光を発しているようだ。地球で言うヒカリゴケのようなものなのだろう。
穴の出口は遥か彼方にあり、とても登ることもできなそうだった。
「どーしよこれ、一生ここでぼーっとしてんのやだよ俺」
「主、どこかに横穴は無いのか?見つけられたらそこから出られる道につながっておるかもしれぬ」
「そーだな。ここ結構広いし道がないか探してみるか」
フラムが落ちた穴の底は直径が1kmほどの平坦なところだった。
フラムは早速壁に沿って歩き、横穴を探す。
ダダダダダッ
フラムが道を探し始めてすぐに、何人かの足音が聞こえてきた。
「おっ!人の足音じゃねこれ?よっし外まで連れてって貰おう。」
「こんなに早く解決するとはの!主、ラッキーじゃの!」
フラム達は喜びの声を出してニコニコしながら足音が自分たちのところまで来るのを待った。
しかし現実はそんなに甘くなかった
「貴様がさっきの轟音の根源か!そもそも貴様、どこから入ってきた!っていうかその臭いはなんだ!何をした!」
出てきたのは人ではなかった。頭に小さな角を二本生やしており、背中からは龍のような、しかしより凶悪そうに見える翼を生やした者達、魔族だった。
彼らは皆剣をこちらに向けて構え、その集団のリーダーっぽい奴が俺に話しかけてきた。うわーめっちゃ敵意向けられてるようわー。
「えーっと…まぁうん。さっきの音は俺です。上から落ちてきました。臭いはまぁ生まれつきといいますかーまぁそんな感じです。はい。それでですね~出口を教えてもらえるととても助かるのですが~」
「はぁ?こんな怪しい奴に出口なんて教えるわけ無いだろ?それより上から落ちてきただと?それで生きていられるわけないだろうが!ごまかさずに本当のことを話せ!どうなんだ!」
あ、やっぱり俺怪しい?
「そう言われても嘘ついてないんだけどなぁ…」
「もういい!おいお前ら!コイツを捕らえるぞ!殺さなければどれだけ傷をつけても良い!かかれ!」
「「「「了解!」」」」
「ちょっまっ」
「黙れ不審者!」
そう叫ぶと魔族の4人がフラムの方に剣を構えた。フラムは仕方なくアスを抜いて構える。
魔族の一人がものすごいスピードでフラムの腕を切り飛ばそうと手に持つ剣を振り下ろす。なんだか最近自分のことをだいぶイレギュラーな存在なのではないかと感じているフラムは、魔族に自分の情報を与えないために避けることを選択する。フラムは予想以上の速度に驚きながらも倍になったスピードでその剣を躱し、アスでその魔族の腹を浅く裂いた。アスを使わないと流石にこの状況を何とかできるとも思えなかったので、アスの情報は諦める。
「よく今のを避けたな侵入者よ!しかし浅いぞそんなもので魔族を殺れると思うな!…ガフッ」
なんか魔族が騒いでいたが傷さえつければこっちのもんだ。俺に向かって最初に襲いかかってきた魔族は言葉を終えると同時に口から血を吐き出し、一瞬でその命を散らした。
「…なんなんだお前は。我ら魔族を一蹴する人族など聞いたこともない!」
「黙秘権を行使する!」
「仕方ない。ならば捕らえた後に拷問でもしてじっくり聞き出すとしよう」
そういうとリーダー魔族は手で合図をする。すると残りの魔族が一斉に襲いかかってきた。
「やっべぇこれマジ無理ゲ」
流石に4人の魔物を一斉に相手取ることは出来ず、フラムはすぐに四肢を抑えられ、手足に錠をかけられてしまった。
「主、アンラッキーじゃのう…」
そんな呟きが聞こえたような気がした。




