死人、調子に乗る
翌日目が覚め、地面から這い出たフラムは森を目指して歩くのを再開した。
「あー良い目覚めだ最高の朝だ。」
土の中の寝心地はよく、地上で体痛い痛い騒ぎながら起きていた昨日までのことを考えると寝起きの気分も良くなる。
それにしても食料が必要ない旅ってのは本当に楽だな。
森は目の前なので道に迷う心配もない。俺は寝ぼけた頭がなおるまでぼーっとしてから森に向かった。
森に入ると前と同じようにマイナスイオンを感じながら、適当に進んでいく。森のなかは前の森とは違ってひんやりとしていた。居心地の良さなら地面の中とタメを張れるレベルだ。
『キシャァァァァァァァァァ!!』
森に入ってしばらくすると何かの鳴き声が聞こえてきた。
「魔物か?」
「どうやらそのようじゃの。主はまぁ死なんとは思うが用心することじゃ」
確かにゾンビであるフラムは炎と聖に気をつければ死なないのだが、そこで油断できるほどフラムはまだ戦闘に自信がない。なので当然気を張り詰めながら進んでいく。
突如ピュッという音が前方から聞こえてきた。フラムは反射的に体を右にずらす。【速度倍加】の高架も相まって、なんとかその飛んできた何かを避けることに成功した。後ろをちらっと見るとその何かが後ろにあった樹木を溶かしていた。どうやら毒の弾が飛んできていたようだ。
「こえ~…森こえ~」
死なないと分かっていてもフラムは少し身震いした。
内心少しビビりながらも歩き進むと毒の弾の射手らしきまものに出くわしてしまった。その魔物はとぐろを巻いており、チロチロと細い舌を出している。どう見ても蛇だった。しかし大きさがおかしい。とぐろを巻いているため詳しくは分からないが、全長10メートルはあるのではないか。
「いやあれはやばいだろ…」
「主ならいける!問題ない!突撃じゃ!」
こいつ他人事だと思いやがって!!!
「負けはしないだろうけど勝てる気もしねぇ…この蛇火吐かないよな?」
少し不安だがまぁこういうのにも勝てるようになっていかないとこの先大変なんだろうな…まぁ火出し始めたら逃げるか…
そう決めてフラムは蛇に向かって一歩踏み出し、同時にアスを抜いた。
蛇は俺をじっと見ながら大きな声で鳴き、警戒を露わにしている。
数十秒両者の間に沈黙が流れ、最初にその沈黙を破ったのは大蛇のほうだった。
ピュッという音とともに先ほどの毒弾がフラムめがけて飛んできた。
さっきと同じようにこれを横に跳んで躱すとその先に大蛇の口が開かれていた。
「うおっ!?」
いくら再生するからって頭とか体とかぱっくりされんのはなんか生理的に嫌だ。しかしこの体勢から避けることが出来ないと判断したフラムは利き手と反対側の左腕を蛇の口の前に出し、そのまま噛ませた。自分の肉がぐちゃぐちゃにされ、骨が折れる感触がする。うわー、気持ち悪。
フラムは噛みつかれていない右腕に握っていたアスを大蛇に向かって振り下ろした。これくらいなら剣の腕なんて関係ない。自分に噛みつかいているんだから的に当てるのは難しくはなかった。
ザンッ
「はっはー!ざまぁみろデカ蛇!」
フラムは勝利の雄叫びを上げた。
しかし、腕に噛みついた蛇は腕から離れると今度こそ頭目掛けて飛びついてきた
「あれーーーー????」
なんで!?あいつぴんぴんしてるよ!?
よく見たら深手を負わせたと思っていた大蛇についていた傷はかすり傷のような小さなものだけだった。あれ…?結構力強く振ったはずなんだけどな…
とゆーことはもしかして、この魔剣、ナマクラちゃんですか?
「…主、なんか失礼なこと考えてはおらんか?」
「なぁアスちゃんよ。俺は力いっぱいお前を振って確かにあいつに当たった感触もあった。なのになんで俺はまだ噛みつかれてる?」
「………。主、今度から筋トレもしような!」
「俺のせいかよ!」
「ワシで物を切ろうとするからそうなる」
「いやお前剣だろ!?」
ぎゃーぎゃー喧嘩している間にも蛇は俺に噛み付こうと襲い掛かってくる。
「クソおおおおおおおお!!!!!!!アスのアホ幼女ぉぉぉぉぉ!!!!」
仕方ないので必死に逃げた。【速度倍加】でなんとか蛇と同じくらいの速度は出せているが、途中で一度やられそうになったので腕を犠牲にしてなんとか逃げた。噛みちぎられた腕は10秒後には完全に再生していた。さすがゾンビ。
しかし、変化は突然現れた。アスを恨みながら走り始めて1分ほど経った頃、急に蛇の動きが鈍り始めた。
そして断末魔のような奇声を上げるとそのまま倒れ、動かなくなってしまった。
「…なんでやねん」
「やーっと倒れおったか。こやつの毒耐性もなかなかよの」
「どういうことだよアスちゃん」
「ワシは毒剣じゃぞ?普通の魔物ならかすり傷をつけた時点で一気に毒が回って終いじゃ。あの魔物は自身が毒を使うこともあって、毒に耐性があったらしく、完全に毒が回るまで時間がかかったみたいじゃがの。」
「先に言えよ先に!」
「いや主がワシのこと恨めしそーにしておったからの。ちょっとした罰じゃ。もっとワシを敬え!」
「何が楽しくてナマイキ幼女を敬わなくちゃいけないんだよ!」
「誰がナマイキ幼女じゃ誰が!高貴なお姉さんの間違いじゃろ!」
アスとの言い合いも一段落したことで改めてアスについて考えてみるとなんかもう色々とアレだった。かすり傷一つで相手を殺せるとかどんなチートだって感じ。まぁアスにこれをいうと調子に乗りそうなので絶対に言わないが。この剣そもそも人族が放置してたんだっけ?本当に人族はアホだろ
とんでもない拾い物したんだなーと内心で運命に感謝しながらフラムはまた森を進み始めた。
途中、さっきの蛇のような魔物とか鳥みたいな魔物とかいろいろなのが襲ってきたが、腕を犠牲にしながらなんとか倒しつつ、進んでいた。剣の腕なんてまるでないが、アスタで魔物に傷をつければそこから毒が広がり、一瞬で死んでいくので完全にイージーモードだ。それにしてもよく襲われるなぁ。ゾンビの肉なんてうまいのか?あんなに臭いのになぁ。くさやみたいなもんなのかなぁ。
こうなってしまうと元々戦闘経験のなかったフラムが木を抜いてしまうのも無理は無い。最初にアスからも言われていたはずなのに。『用心しろ』と。
何も考えずに鼻歌交じりにてこてこ歩いていたフラムは、何か丸太のような大きくて太いものに蹴躓き、盛大にこけた。
「いってぇなぁ…クソ、ぼーっとしてた。ダメだなこんなんじゃ」
今まで気を抜いていたことを反省しつつ、顔を上げる。しかし自分が気を抜いていることにことに気づき、反省するのは遅すぎた。
顔を上げると目の前には大きな顔があり、ライオンのようなその顔と目があった。
「…こんにちはイケメンさん」
とりあえずさわやかな笑顔とともにお世辞でご機嫌を取ろうとしてみる
が
『ガアアアアァァァァァ!!』
ダメでした
どうやらさっき躓いてしまったものはその魔物のしっぽだったらしく、しっぽを蹴飛ばされたその魔物、キマイラは大層お怒りのご様子であった。




