死人、参戦する
「ったく、何無茶してんだあの野郎は……。こんな高い所から飛び降りるか普通……」
メルデスは戦場に飛び降りたフラムの姿を見ながらそうぼやく
「まぁ『フラムさん』『アイツ』だから仕方ないよ」
「お前達の中であの野郎の評価どうなってんだよ……」
「凄くてやべぇやつ」
「すっごく強いけど常識ない人」
「……」
メルデスは自分を負かした相手が自分の子供たちにどう思われているかを聞き、複雑な気持ちになった
落下の衝撃でグシャっと潰れていた肉体が再生し、フラムは起き上がる
「さっきのでだいぶ殺れたかな?」
落ちて来る時に【嵐刃】を発動させたのだ。今のフラムの魔力量を持って放つそれはいとも簡単に大量の屍を作った
両軍にとっての悪夢はそれだけでは終わらない
「戦え!」
フラムが大声でそう命令する
するとフラムによって殺された兵たちが一斉に動き出した
「なんだお前生きてたのか!良かった…」
殺された者の友だろうか。動きだしたそれに近づいていく
「でも怪我が酷いな。一旦後方に引こう。ほら、肩貸してやるから…あ?」
その兵士は何が起きたのか分からなかった。突然腹のあたりに焼けるような痛みを感じる
「あ、ああ、お、お前、なん、で」
そのままその兵士は死に絶えた
それをやったのはフラムの【嵐刃】を浴びたものだった
「ウオオオオオオッ!!」
死んだはずの兵士の叫び声があちこちで響き渡る
「よし、初めて使ったけどちゃんと発動できてるな」
フラムのスキル【冥王】によるものだった
グレイス魔宮の攻略報酬として手に入れたそのスキルは一瞬にしてこの戦場に人族、魔族、龍族に続く第四勢力を作り上げた
フラムが【冥王】の感触を確かめていると空から龍の集団が舞い降りてくる
「随分と派手にやったものだな」
「おう、やっと来たか。それじゃあお前らこの後もよろしく頼む。雑魚どもは俺の兵が相手するから」
「………俺の兵、ね」
メルデスはもう驚くのもやめたようだただただ目の前の状況を現実だと飲み込む
「アイラ、レクサス。お前らはマナフの足止めだが大丈夫か?」
この戦場の主要な実力者は3人
魔王、勇者、マナフだ
それに対してこちらの実力者はメルデス、俺、アイラ、レクサス、先代龍王だ。
こいつらは意外にも里の中では王と先代を除くと最高戦力らしい
先代は里に行く時にギン達を送ってくれた爺ちゃんだ。今回の遠征でも背中に二匹を乗せてきてもらっている。
フラム達の作戦は、メルデスが魔王の足止めをし、フラムは最初に勇者の救出をするというものだ
勇者が一番厄介だと思っているからだ。魔王を倒す兵器として造られた存在、勇者。
それはつまりそれだけの力を与えられているということだ。
魔王を倒す程の力の持ち主ならメルデスならまだしもアイラとレクサスには無理だ
魔王の相手を二人にさせるのも厳しいだろう
なのでアイラ、レクサス、先代の3匹でマナフを止めてもらうことにした。
先代は現役の頃ならば魔王を凌駕する程の力があったらしいが、老いには勝てなかったようだ。もう数千年の時を生きているこの爺ちゃんは孫と一緒に幹部の相手をするので精一杯らしい
「大丈夫だ。爺ちゃんもいるしな。でもなるべく早く頼むぞ」
「りょーかい。そんじゃ、行くぞ」
そうしてメルデスは魔王のもとへ、レクサス達とフラムは勇者とマナフが戦っているところへと向かった
マナフと勇者はフラム達の参入にも目をくれず、剣を振り合い続けていた。
しかし、勇者の猛攻によりマナフは徐々に押されていき、体には無数の傷跡が出来ていた
(くそっ、これが魔王を倒したという勇者の力か!長くは持ちそうにないな……。いや、俺の使命は魔王様が戦況を完全に魔族側に傾けるまで勇者を足止めすること。それならばもうそろそろ使命は果たされるはず)
魔王によりあの閃光を放つ兵器はことごとく破壊されていた。
もう少しで魔族の勝利だ。そう思いながら剣を勇者に向かって振るう。勇者もそれに反応して剣をマナフに向かって振る。その剣撃の速さは【獣化】したマナフのものよりも速い。
二つの剣がぶつかろうとしたその時、二人の剣が突然現れた人影によって受け止められた
「よぉ。久しぶりだなマナフ、さんっ!!」
その人影、フラムはマナフを受け止めた方の剣でマナフを吹き飛ばす
「任せたぞお前ら!」
「おう!」
「了解です!」
「心得た」
3匹の龍が返事をする
「何だ貴様は……。貴様も魔王討伐の邪魔者なのか?」
剣を受け止められた勇者がフラムを睨む
「むしろ俺は魔王を倒す側なんだけどな。お前に魔王を殺されるのは困る。聞いたぞ?その剣、殺した魔族や魔物を消滅させるんだろ?」
フラムは神からある程度の勇者の情報を貰っていた。一応神に協力するという体なのでまぁこのくらいは当然だろう
「ふん、よく知っているな。それがどうした?」
「俺の目的は魔王の肉体だからな。消滅させる訳にはいかない」
フラムは二本の愛刀を構える
「……やはり邪魔者か。私は魔王を殺す。殺さねばならぬ。そのためにも貴様を早々に切り捨てて魔王のもとへ向かうとしよう」
「やってみろよ雑魚が」
勇者の返事はなく、代わりに剣閃が繰り出される。凄まじい速度だ
しかしフラムは特に焦った様子もなく、流れるような動作で一本の魔剣を使ってそれを受け流すとそのままもう一本で反撃に転じる。
その動きは無駄が無く、素早く、そして的確に勇者の喉元に吸い込まれていく
「何っ!?くそ、【聖盾】!」
自分の剣がいともたやすく受け流され、その上反撃までされるなど考えてもいなかった勇者はギリギリのところでスキルを使ってフラムの一撃を防ぐ
だがこの一瞬では剣の振るわれる勢いまでは殺せなかったようで、勇者は咄嗟に貼った聖盾と一緒にふっとばされ、地面をバウンドする
「俺も暇じゃないんだよ。さっさと俺に喰われろよ勇者様」
「ぐっ、舐めるなよ……」
勇者は吹き飛ばされたダメージより精神的なダメージのほうが大きい。
勇者である自分がこんなに簡単にあしらわれる事態など想定外だ。
「こっちとしてもお前の相手をするのはついでなんだから。さっさと死んでくれ頼むから。」
その言葉と不意に勇者は共に目の前にいるフラムの姿に恐怖を覚える
圧倒的な重圧、死への恐怖、この場で目の前の者が敵であることへの絶望。色々な感情が勇者を襲う
フラムが【威圧】を発動させたのだ。その力は格下の者にはそれだけで繊維を喪失させ、同等の力を持つものにも本能的な恐怖を味あわせる。
「どうだ?降伏してくれないか?そもそも俺はお前を開放するためにお前と戦うんだしな」
まぁこいつに魔王を殺されるのは困るって方が大きいけど
「意味が分からん!私は人族の希望だ。こんなところで膝を折るわけにはいかん」
「そうか……。じゃあいくぞ」
フラムが勇者に向かって駆ける
勇者も負けじと聖剣を構え、フラムを迎え撃つ
そして二本の魔剣と一本の聖剣が金属音を放ちながら打ち付けられる
流石勇者と呼ばれるだけの事はあり、フラムの振る二本の魔剣を適確に受け止め、また、受け流していく
いや、この場合はフラムの方を褒めるべきなのだろう。勇者の剣の速度は一度フラムを負かした【獣化】状態のマナフを凌駕するものだ。それと互角以上の戦いをしているのだ。フラムの成長速度は恐るべきものだった。しかし、なかなか一発を勇者に当てられない
「ちっ」
アスさえその身に当ててしまえばこの戦闘も終わるのに全てを受け止められている。全く厄介だ
そして2人は鍔迫り合いになる
その瞬間勇者がニヤリと笑い、スキル名を叫ぶ
「【聖矢】!」
超至近距離から放たれたそれは回避するのはほぼ不可能だった
聖属性魔法であるそれはフラムを殺すことすらできるだろう
しかしフラムはそれを避ける必要はなかった
それが自分の身に届く前にただ一言念じれば良いだけだった
(【反射】)
その直後フラムの身に降り掛かった光の矢は全て跳ね返され、逆に勇者の身を襲うものすらある
超至近距離からの思わぬ反撃だ。回避できるはずもなく、勇者はそれを受けてしまった。
「ぐうっ!?」
自分で放った手加減のない魔法が勇者を襲う
それにより、鍔迫り合いをしていた勇者の聖剣にかける力が一瞬弱まる
その隙にフラムはレヴァで勇者の握る聖剣を下から思いっきり打つ
流石に聖剣を真っ二つに切ることは出来なかったが、【剛腕】の補正のかかった膂力により聖剣は勇者の手を離れ、天高く弾き飛ばされる
そして勇者が体制を立て直す前にアスでその身体に傷をつける
その毒はすぐに勇者を蝕む
「がああああっ!!!体が熱い!!貴様!貴様ァァァ!!」
「俺の勝ちだ勇者。今までお疲れ様」
「ぐっ。まだだ……。まだだ!【聖籠】!」
「うおっ!?」
勇者が最後の力を振り絞ってスキルをフラムに使う
【聖籠】
聖属性の光でできた檻を出し、相手を閉じ込めるスキルだ
そしてフラムがそれに捕らわれるのを見届けると勇者の目から光が消えた。アスの毒が完全に回ったのだ。
「ったく。往生際の悪い……。【潜地】」
フラムは土の中に潜って檻を抜ける。勇者の最期の抵抗は虚しく破られた
「さてと。勇者、お前はさっさと輪廻に戻れ。【魂喰】」
次の瞬間、フラムの右手が勇者の屍を食い尽くした




