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死人、立つ

フィリアの肌は完全に黒く染まり、それは昔何かの漫画に出てきたダークエルフの様だった。

変色が終わると次に頭から角が生え、背中からは翼が生えてきた。

そしてフィリアだったそれは閉じていた目を開ける

その瞳は紅く輝いていた


「魔王様、新しいお身体は如何でしょうか。」


マナフは魔王(フィリア)の前で膝をつく


「……マナフか。うむ、なかなか良い。大義であった」


奴は右手を握ったり開いたりして体の感触を確かめているようだった


「はっ。勿体ない御言葉です」


やめろ。その体で、その口で、その声で喋るな

どうしてその体からあの子以外の声が聴こえてくる。

フィリアはどこだ。フィリアを返せ。返せよ。


「さてと、それでは魔王城に向かうか。折角生きかえったんだからやりたいことをやらなくてはな」


「はっ。御心のままに」


マナフは倒れて一言も喋らないフラムを一瞥し、


「さらばだ」


とだけ言い残して魔王と一緒に飛び立って行った。

マナフが飛んでいく際に【呪縛】を解いていったのか体が自由になったフラムだったが、動く気になれず、しばらくそこに転がっていた。








「お、起きたか主」

「マスター大丈夫?」


いつの間にか眠っていたようだ。目を開けるとアスとレヴァがこちらを覗き込んできた

意識が覚醒するのと同時に左腕が繋がっているのに気付く

左手をグーパーして左手の感触を確かめる。たしかに俺の手だ。


「ワシは回復魔法が使えるでの。主が寝ている間に繋いでおいてやったぞ」


「そうか……。ありがとうな」


アスのおかげだったようだ


ふと頬に涙が流れているのに気づく。寝ている間も無意識に涙を流していたらしい

目は覚めたが依然起き上がろうという気力はわかず、そのまま横になっている。何もしたくない。




「主、今日は地上で寝るか?土の中で寝るか?ワシも一緒に寝よう」


アスが声をかけてきた


「あぁ…」


フラムは生返事で返す


「マスター私も!私も添い寝する!」


「そうか……」


「主よ。そろそろ臭くなってきたぞ。また水場を探さなければな。」


「そうだな…」


「主、いつまでそうしているつもりなのじゃ?明日、ここを出よう」


「あぁ…」


「……主。フィリアは魔王になったぞ」


「っ!!分かってる!!!!」



つい大声になって叫んでしまう


「主、それをしっかり理解していながら主がやることはそこでうずくまっているだけなのか?」


「他に何をやれって言うんだ……。大切な人を失った。今更冒険をしようとも魔族を潰そうとも幸せに静かに暮らそうとも思えない」


「やることならあるじゃろう。フィリアを取り戻しにいこう、主」


「……正気かよ。さっき自分で言っただろ。フィリアはもうフィリアじゃない。あれはもう別の何かだ」

「諦めるのか?」


「……あぁ」


「なぜじゃ?」



「俺が弱かったからフィリアもアルクも皆守れなかった!俺には守る為の力が足りなさすぎる。だめだ。これ以上何も失いたくない。何かをしようとすれば何かを失うリスクが付き纏う。もうお前も!レヴァも!ギンもシロも失いたくない!」



フラムは泣き叫ぶ。その姿はまるで癇癪を起こした子供の様だった。

フラムは大切な仲間を失う恐怖を初めて感じた。自分の手から何もかもが零れ落ちていくような、そんな感覚。ただただ怖かった。


「ならぱ強くなればよい。ワシも、レヴァも皆を守れるほどの力を手に入れれば良い。そしてその力でフィリアも取り戻せばいい。そんな簡単に諦められるほどフィリアは主にとってどうでもいい存在じゃったのか?」


アスはフラムの目を真っ直ぐ見て告げる


「違う!どうでもいいわけがない!俺はどうでもいい奴の為になんか涙は流さない!フィリアが大切だったから泣いているんだ!苦しいんだ!悲しいんだ!」


フラムは顔をあげる


「なら諦めるな主。長年生きてきて色々なものを見てきたワシからのアドバイスじゃ。諦めるという選択肢は現状を変えるために努力して努力して努力して……その果てに、もうそれ以外の選択肢がない時に選ぶものじゃ。主が今選ぶべきものではない」


「……ならどうしろって言うんだ。もうフィリアはいなくなったんだ。何を努力しろって言うんだよ」


「……可能性は低いがまだ助ける可能性が無い訳では無い。」


「……何?」


フラムは赤く腫れた目でアスを見上げる


「恐らくじゃがな。あの【入魂】では新しい魂が完全に肉体に同化するまでに暫く時間がかかるはずじゃ。まだ辛うじてフィリアの魂は残っている筈じゃ」


「………それは本当なのか?どうやったら魔王を追い出せる?」


「分からん。じゃが何か方法があるかもしれん」


「…………………………」


「どうじゃ?これでも諦めるか?それとも何か方法を探してみるか?」



フラムは目をつぶって考え込む。もう何も失いたくない。それは紛れもない本心だ。でも大切な人を取り戻せるかもしれない。その可能性を投げ捨てたくはない。



「………お前達も巻き込む事になるがいいのか?」


「ワシらはその為の存在じゃ。剣とは本来何かを守る為に使われるべきじゃとワシは思っておる。本来の目的で自分が振るわれる事に何故躊躇う必要がある?」


「いいのか?」


「いいと言っておる。ワシのことよりもじゃ。主は本当はどうしたいんじゃ?」


「……助けたい。フィリアを助けたい。もう1度あいつと話がしたい。もう1度あいつの笑顔がみたい。だから、力を貸してくれアス、レヴァ」


「あぁ」


「当然よ」


「もう俺は失いたくない。ずっと傍にいてくれ。離れるな。いいな?」


「全く、独占欲の強い主じゃ」


「そうよ!心配しなくても私はずっとマスターと一緒にいるわ!」



2人の魔剣は笑ってフラムを見る



「……ありがとうな。二人共。」



フラムはようやく腰をあげる



「じゃあ、フィリアを取り戻しに行こうか」


「それでこそ主じゃ。お供しよう」








フラムはフィリアが最後に言い残していた言葉を思い出す



『フラムさん、さようなら。大好きです』



確かにフィリアはそう言っていた


「あれでさようならなんて絶対に許さねぇからなフィリア……もう一回絶対に会って今度は俺の方から言ってやる。だからちゃゆと待ってろ。消えたりするんじゃねぇぞ」


フラムはそう呟き、フィリアを救うためにその1歩を踏み出した



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「はっ!?ここは!?」


フィリア(・・・・)は目を覚ました。目の前には見知らぬ天井が広がっており、自分はフカフカのベッドの上で寝ていた様だ。


「ん?背中になにか……」


背中に違和感がする。手を伸ばしてみると背中から何かが生えている

首をかしげながら起き上がって近くにあった鏡で自分の姿を確認する


「なにこれ……」


顔や体格はフィリアのままなのだが頭には魔族の印である角が生えており、背中には翼が生えていた。そして肌の色が黒くなっている


「やはりこうなってしまったか……仕方ない。【呪縛】」


フィリアが唖然としていると不意に後ろから声がし、直後にフィリアの体は拘束され、床に倒れてしまった。


「何!?何ですかこれ!」


声のした方に体を転がして向ける。

そこには自分を魔王にしたはずの、意識を失う前に見たあの男がいた。前に見た時は獣の顔をしていて、今は人のような顔になっているが見間違うはずが無い。自分を殺した人の顔なのだから


「あなたどうして……。っていうかなんで私まだ生きてるんですか?」


「【入魂】は完全な魔法ではなくてな。新しい魂を入れても暫くは元の魂も消えずに残ってしまうんだ。さらに困ったことに夜の数時間の間だけは元の魂が肉体を操作できてしまう。変なことをされても困るのでな、拘束させてもらう。魔王様の肉体を拘束するのは大変心苦しいのだが仕方がない」


「この体は私のですッ!」


「そう遠くないうちに消える魂が何を言う」


「っ。」


フィリアは何も言い返せなくなってしまった。そう、あの時自分という存在は消えていてもおかしくなかった。ここで今空気を吸っていること自体が奇跡のようなものだった。


「自分の立場が分かったか消えゆく者よ。ならば大人しく寝ていろ。それではな」


フィリアをベッドに戻し、そう言い残すと男は部屋を出ていった。




「フラムさん……」


フィリアは自分の想い人の名前を呟く。

あわよくばもう1度彼と話がしたい、と思いながら布団にくるまった

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